第一話 終わり始まり
「起立! 礼!」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
挨拶が終わると、すぐに帰る者、図書館に勉強する者、友達と喋る者とクラスメート様々な行動をとる。
猿山と田中も二人で楽しげに喋っている。
「疲れた〜、和人はこの後どうするんだ?」
「ん〜、部室に顔出してから帰ることにするよ。先に帰ってていいよ」
「そっか、じゃあまた明日」
そう言って、田中は荷物をまとめ帰路についた。
「それじゃあ部室に行くとするか。もう皆来てるかなぁ」
和人は部室に誰が来ているのか考えながら、オタク研究部の部室へと歩を進める。
「ちぇっ、まだ水曜日か。てことは部室にはあいつしか来てないな」
スマホの日付表示を見て今日が水曜日だと思い出した。この日は塾や兼部などで集まりが悪い。
そんなことを考えながら歩いていると、『オタク研究部』と書かれた扉前に到着する。
「よぉ、おつかれ! やっぱり一人だったか」
部室には机を四台くっ付けて椅子に座りながら少女が一人退屈そうに本を読んでいる。
「先輩! 遅いですよ、何してたんですか?」
「ごめんて、そんなに大きな声出すなよ。綺麗な顔が台無しだぞ。黙ってたら大和撫子なのに」
「いきなり何言ってるんですか! 馬鹿なんですか? 変態なんですか? キモいんですけど!」
この生意気な少女は和人の一つ下の学年の高校一年生の犬貝千智だ。何かとすぐに和人に突っかかってくる。
「先輩に対して口の利き方がなってないぞ。で、何を読んでたんだ?」
「あ〜、ただの週刊漫画雑誌ですよ。そういや、今週号は先輩が大好きな猫谷萌香が表紙なんですね。先輩はもう買ったんですか?」
千智は少し不機嫌そうな表情で窓の外を見ながら答える。その様子はまるで教師に叱られ、しゅんとなっている生徒のようである。
「そうだった、まだ買ってないんだった。帰りにでも買うか」
今週号は和人の愛する猫谷萌香が表紙を飾っている。猫谷萌香の大ファンである和人にとって喉から手軽に出るほど欲しい物である。
「それじゃあ、帰るわ。また明日」
「え! もう帰っちゃうんですか?」
扉の取っ手に手を掛け帰ろうとする和人を千智が慌てて呼び止める。
「ん? 一緒に行く?」
「なっ! 一緒に行く訳ないじゃないですか! 早く帰って下さい。部室の空気が汚れるじゃないですか」
熟れた林檎のように真っ赤な顔で千智がそう答えると、和人は止めていた足を再び前へと進め、オタク研究部の部室から姿を消した。
「はぁ、どうして素直になれないんだろう」
誰も居ない部室に溜め息混じりの細い声が響く。
◆◇◆◇◆◇
「買えて良かったぁ、やっぱり猫谷萌香すんげぇ可愛いよなぁ」
「おい! 坊主、危ねえぞ! 居眠り運転だ!逃げろ!!」
一人、週刊漫画雑誌の表紙を飾っている猫谷萌香とにらめっこをしながら、陽が落ちかかり朱色の空の下帰路についているとそんな声が和人の耳に入った。
「ん? うわぁぁ!」
周囲を確認しようと猫谷萌香から目を離し、後ろに振り返ると和人の視界は車の前面で覆われていた。逃げる間もないほど、和人のすぐ後ろまで車が来ていた。
『ドゴォッ!!』
そんな鈍い音と共に和人は車に吹き飛ばされた。
(……あぁ、これは終わったな。身体の感覚がないや。交通事故に遭った人ってこんな感じだったんだな。まだまだやりたいことあったのに……)
和人に危険を知らせた中年の男がたちが近く寄って来た。
「しっかりしろ! 今救急車を呼んだから頑張れ!」
「あ、おじさん、車が来ていること、教えてくれてありがとう……ございました。でも、もう少し早く教えて欲しかったです……」
その言葉を最後に和人は意識を失った。
処女作になります。
誤字脱字などあるとは思いますが、暖かく見守って頂けると幸いです。
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