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6話 - ここはミズホ なにもないまち


 国王ハヤトへの謁見から三日後。


 荷造りなどの準備に一日を費やし、三日間の馬車の旅の末に辿り着いたのは、王都から東の方角にある自然と水の街『ミズホ』であった。



 このヤマトノ国には、大きく分けて5つの地域と都市が存在している。


 1つ目は中央地区に存在する王都『コウヅキ』。オレが召喚されたヤマトノ国の首都であり、最も人口も多い。位置的にも経済的にも国の中心となっている大都市だ。

 首都だけあり、王城を始めとした国の重用機関が集中し、人口もとても多い。初代勇者ツバサ・ハツヅキの残した和風文化が最も色強く感じられる街てもある。


 2つ目は西部地区。エルリオンの中では、人族の国ヤマトノ国と並んで最大級の規模と人口を抱える獣人の国・ガルハルトとの国境を有する『サカエ』は国内最大の貿易都市であり、王都コウヅキに匹敵する国内第二の都市である。


 3つ目は南部地区。一年を通して温暖な気候が特徴で過ごしやすく、遠浅のコバルトブルーの海が魅力的。『キリシマ』の街は国内最大のリゾート地として開発されており、種族に関わらず多くの観光客が集まることで知られる。


 4つ目は北部地区。険しい山脈が連なり、冬季には雪も積もる過酷な環境。強力な魔獣も生息することから未開の地が多い。強さを求めるハンターや冒険者が多く集い、『ヤクモ』の街は冒険者の街として北部地区最大の賑わいをみせる。

 

 そして5つ目が東の都市『ミズホ』である。


 ミズホがある東部地区は、豊かな自然が広がる平和でのんびりとした地域だ。最東部の森人の国・マギナリーフとの国境付近には大きな湖があり、そこから流れる清流が水の恵みを与えている。広大な土地を活かした農業が盛んで、一部海岸地域では漁業も行われているらしい。


 ……っとまぁ、つまり簡単に言えば、ミズホ地方はド田舎なのだ!


 街の風景は現代でいう時代村のような感じで、いかにも江戸時代っぽい趣ある長屋が大通りに面して建ち並び、それぞれが雑貨屋だったり、軽食屋なんかを開いて賑わいを見せている。

 東部地区最大の街だけあって活気はあるのだが、建物がどれも精々二階建て程度の背の低い町屋ばかりで、王都には多少あったような背の高い西洋風の建物が全くない。

 この街で一番大きな建物である役場も、函館市五稜郭史跡のド真ん中にある箱館奉行所のような、立派な造りの建物である。オレとしては雰囲気があってむしろ好きだが、どうしても田舎っぽいと思えてしまうのは否めなかった。




◇◇◇




「さーて、やっと着いたな!」

「はぁ……とうとう来てしまったのですね……。うん、やるからには頑張らなくちゃ」



 ミズホの街の中心に位置する役所の前で馬車から降りたオレはくうっと体を反らし、長い馬車旅ですっかりガチガチに固まった体をほぐす。ポキポキと関節が心地よい音を立てる。

 カエデは旅の最中、相変わらずのネガティブっぷりを発揮し続けていたが、ミズホに到着したことで漸く気持ちに区切りがついたようだ。本当に気分の浮き沈みが激しいヤツだ。



 改めて確認するが、オレたちがこのミズホの街に来たのには理由がある。


 1つはオレの牧畜の話に喰いついた国王ハヤトが「強力な従魔を育てると同時に、このミズホの街にボクジョウを広めてくれ」という使命を与えたからた。


 他の地区の街といえば、西部なら商業都市、南部ならリゾート地、北部なら冒険者と修行の街と、それぞれ特色を持った大都市として発展している。

 それなのに、東部には一応自然と農業という特色はあるが、他3都市と比較にならないほど発展が遅れているのは明らかだという。

 政治利用されるのは癪だが包み隠さず堂々と頼まれれば断りづらいし、特段何かしなくても自由にやれば自然とその影響は広まるものだというので、素直に受けることにしたのだった。




 ふーむ、と腕を組んで佇んでいたが、ふと気になり財布を見る。

 ポケットに入っていたお陰で一緒に異世界にやってきたオレの財布には、オーエド城を出る際にハヤトから貰った大金貨10枚が入っている。


 この世界では、小銅貨・銅貨・銀貨・金貨・大金貨・白銀貨の6種類の貨幣がある。ツバサ・ハツヅキの時代に世界的に統一されたものらしく、独自の貨幣を取り扱っている国や地域はあっても、この共通貨幣ならば大抵は取引に応じてくれるシステムになっているようだ。

 それぞれの硬貨は10枚で1つ上にランクアップするようで、つまりこんなカンジだ。


~~~


小銅貨10 = 銅貨 1

銅貨 10 = 銀貨 1

銀貨 10 = 金貨 1

金貨 10 = 大金貨1

大金貨10 = 白銀貨1


~~~


 王都では並の冒険者が利用する一般的な宿屋の宿泊料金がだいたい銀貨3~4枚と聞いたので、食費等を含めてもおおよそ2人が数年は暮らせる程の大金を頂いたことになる。


 本当はハヤトがもっと持っていけと言ってくれたのだが、あんまり沢山貰っては悪いからと辞退してきたのだ。ちなみにこの金額には牧場を造る場所の土地代だとか、牧場の施設を造るための建築費なんかは含まれてはいない。そこは国家プロジェクトということでちゃんと国から支給されるようだ。



「さて……まずは、牧場を造る土地探しだな」


 ミズホに来たオレたちに最初に課せられた仕事は、牧場建設予定地の候補を探すことである。

 牧場の建設作業については国側に一任しているわけだが、向こうには建築技術はあっても牧畜への知識が一切無いのだ。

 牧場を造るにあたって、どういった土地を選べばいいのか。どういった施設を造ればいいのかなどは、この世界で専門知識を持った唯一の人間であるオレが監督せねばならん。

 もっとも施設なんかに関しては場所を定めないことには決められないので、差し当たっては場所を決めるのが急務となるのだ。



 そんなことも考えながら、なにかないかなーと当てもなくキョロキョロと付近を散策していた時であった。

 何やら一人の男性がこちらに向かって走ってくるのだが……、彼の黄色の頭髪から覗く二つの三角形。アレって、ファンタジー物語では定番のケモミミ……獣人さんって奴か!

 ケモミミさんはオレたちの存在に気付くと、慌てた様子で近寄ってきて、そして話しかけてきた。


「すまんニャ、お役所のお方ですかニャ?」

「え? あ、いえ、違いますが……。どうかされたのですか?」


 どうやら彼はカエデを役所の職員かなにかと間違えて話しかけてきたようだ。

 ほんの数日前まで国家お抱えの魔術師であったカエデは、田舎町の風景には不釣り合いに思えるほど立派な藍色のローブを纏っている。確かに、国から派遣されてきた魔術師とか言ってもおかしくはない風貌だ。

 まぁ、派遣されたのではなく追い出されたのだけど。


「そうだったのニャ。まぁこの際、冒険者さんでもハンターさんでも何でもいいニャ、ちょっと力を貸して欲しいニャ!」


 オレとカエデは目を見合わせる。本当に困っている様子だが、どうしたのだろうか。


「えーっと、先ずは何があったか教えて欲しいんだ。実はオレ達は今この街に来たばっかりでな、何か事件でもあったのか?」


 一先ず彼に事情を話して貰うように促すと、彼は「旅の方だったんか! そりゃすまないニャ」と言葉足らずだったことを謝罪し、改めて話し始めた。


「オレっちはニャンジローって言ってな、"ミズホの職人三兄弟"の次男で、料理人をしてるニャ。ほら、これがステータスカード」


 と言って、彼はステータスカードを差し出した。

 ステータスカードには「ニャン次郎(ジロー) 20歳 男 料理人 Lv14」と間違いなく書かれていた。なるほど、こうやって身元確認に使われることもあるんだな。


「お兄さんたちは知らないかもしらんけど、昨日の夜に『星降り』があってニャ? それが街外れの草原に落下してしまったんだニャ」

「『星降り』?」


 オレは首を傾げ、カエデの方を見る。カエデはふむふむと頷いているので、どうやらその言葉の意味を知っているようだ。


「『星降り』っていうのはですね、魔素の結晶体である『星の欠片』というものが天から落ちてくる現象のことなんですよ」

 

 フフーン、とドヤ顔でカエデは言う。

 曰く『星降り』は大昔からエルリオンの世界では稀にある現象であるようだ。『星の欠片』と呼ばれる岩石のような結晶体が天から降り注ぐ。その石が地面や建物に衝突した時の衝撃による物理的な被害もあるが、どうにもその石が発する独特の魔素が特定の魔獣を引き寄せてしまうらしく、そっちの二次災害の方が困りモノであるらしい。


 ちなみに『星の欠片』の正体については、空鯨(リヴァイアサン)など空飛ぶ大型魔獣の排泄物だとか、女神の涙の結晶だとか様々な説が昔は飛び交っていたが、現在では空に漂う魔素溜まりで魔素が結晶化し、一定以上成長したものが落ちてくるという説が有力らしい。雪とか雷の発生メカニズムみたいだな。

 


「つまり、『星の欠片』に集まった魔獣をなんとかして欲しいってことか?」

「そういうことニャ」


 ニャンジローは期待の籠もった表情でコクコクと頷く。

 戦闘能力のないオレにはどうすることも出来ないので、「どうする?」という目線をカエデに送る。


「構いませんよ。折角ですし、カナタさんの『生命の牧場(ライフメイカー)』を使うための素材集めと行きましょうよ!」


 カエデはニコッと笑う。

 確かにオレに与えられた唯一の切り札だ。まずはお試しに一回くらい使ってみたいとはオレも思っていた。


「よっしゃ、じゃあ初仕事は人助けってことで、一つ行くとするか!」

「ありがたいニャ、そんじゃ案内するから着いてくるニャ!」



 こうして、オレたちは突発的な人助けのクエストをこなすべく、街外れの草原へ向かったのであった。


閲覧数や評価次第で続きを書くか判断します。

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