時代の波にのれ
ぼくは、長老のところに取材に行った。長老は、長いひげをした小柄な人で、ちょこんと座っていた。
「長老。日本の将来はどうなるんでしょうか」
長老は答えた。「悪くなる」
「長老。悪くなって、それでどうなるんでしょうか」
「もっと悪くなる」
「長老。もっと悪くなって、そのまた将来はどうなるんでしょうか」
「もっと悪くなる」
「長老。つまり、どういうことなんでしょうか」
長老は、ぼくの顔をまともに見て答えた。「日本はつねに悪くなり続ける。そして、つねに『悪い』状態で安定しておるんじゃ。安定というのはどんなときもいちばんよいことじゃ。日本はよくなるぞ、若いの!」
長老は、すでに智恵の神シーレーヌスの本性をあらわにしていた。「ええか、日本人の一人ひとりが、日本は悪くなる、そしてよくなることはありえない、と確信したとき、日本はよくなるんじゃ!」
ぼくには、こんなエキセントリックな人が野放しになっている日本はおかしくなっている、ということがわかった。