第8話 マサキは伝説の勇者なのである
挿絵は日和詩歌さんに描いてもらいました。
日和詩歌さんのみてみんURL--->http://21042.mitemin.net/
王国軍の魔城奇襲作戦は順調に進んでいた。
なぜか魔城の大部分が何者かに破壊されていからだ。
この事が王国軍にとって進軍する後押しとなってしまったのだ。
今回の魔城攻撃部隊(通称:城攻隊)の構成は、数の利で相手を畳み掛ける『通常攻撃兵』。
罠などを仕掛けて相手が不利な状況にする『特殊攻撃隊』。
魔法使いのみで構成され、味方への支援魔法や敵への遠距離攻撃を担う『魔法兵』。そして国内最強クラスの実力保持者のみで構成され、国王を守りながら他兵への援護をする『円卓の騎士』で構成されている。
ーーそう、今回の奇襲に王国は国内兵力の七割に当たる最強の部隊を注ぎ込んだのだ。
「しっかしそれにしてもこの作戦に七割の兵力を使うなんて国王様も大胆な事をするよな。」
「それほどまでに魔王軍を危険視されているという事だろう。」
「確かにそうだよな。でもあまりにも兵力を集中させすぎてないか?この戦争の間に隣国が攻めてきたらどうするつもりなんだろうな。」
「ううむ……確かにその危険性は高いな。国王様はどうお考えになられておるのだろうか。」
移動中、通常攻撃兵達の中ではこのような会話をする者が多数いた。
魔王に大軍を押しかけるとどうしても自国の防衛が脆くなってしまう。
しかし国王は隣国に攻められるリスクを冒してまで攻撃を決行したのだ。
この判断は兵士達には賛否両論だった。
そのようなリスクを冒してまで攻撃を決行する意味はないと国王を批判する者もいれば、その勇気は素晴らしい、国王様は男前な方だと褒め称える者もでてきた。
こうして兵士達は不安と期待をそれぞれの胸に抱いて進軍したのだ。
魔城に到着するまでは全軍に緊張感が蔓延っていたが魔城に到着した瞬間、全軍に衝撃が走る。
「ま、魔城が……半壊しているぞ!」
「天は我らに味方した!!」
「今のうちに魔王を切り倒してやろうじゃないか!!」
興奮した兵士達が次々と喜びの声をあげている。
この状况に思わず国王も口元を緩めた。
国王が周りを見渡すとそこには殺気立った兵士達が今か今かと攻撃開始の指示を待っていた。
国王は勝利を確信し、右手を天に向けて。
「これより魔城襲撃を開始する!総員突撃いいいいいい!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
国王の言葉に応えるように兵士達が雄叫びをこの世界に轟かせた。
これを合図に歴史に残る大決戦が始まった。
ーー筈だったのだが。
「魔城から誰か出てきたぞ!」
「人間の女の子だ!」
泣き目で魔城から飛び出してきた少女を発見した兵士が驚きの声をあげた。
本来モンスターしかいない筈の魔城から人間の少女が出てきたのだ。
少しの間兵士達に動揺が広がったが国王の命令により落ち着きを取り戻した。
「皆の者!魔城から出てきた奴は全員敵だと思え!だがあの女は武装をしていない。直ちに捕獲して捕虜にしろ。」
兵士達は命令に従い少女を捕獲するために少女に向かって剣を向けて。
「死にたくなければ大人しくついてきてもらおうか。」
「ひっひぐう……うわああん!」
「なっ……聞いてるのか!?……もういい、みんなこいつを担いで連れて行くぞ。」
恐怖で喋ることができなくなっている事を察した兵士達が少女を担いで自陣まで連れて帰った。
自陣に着いてとりあえず少女を落ち着かせるために水を飲ませた。
するとだんだん少女の目に落ち着きが戻ってきた。
「おい、そろそろ話せるようになったか?」
「えっと……あなた達誰ですか?」
「俺達は王国軍の者だ。お前には聞きたいことがいくつもある。それに答えてもらおうか。」
「は、はい。分かりました。」
「では質問を始めようか。お前は何者だ?」
「えっと、ラノといいます。ボルケニオン王国のファストという町で仲間と共に冒険者をやってます。」
「冒険者!?なぜ冒険者のお前がこんな所に?」
「仲間を助けるために来ました。でも仲間がまだ中に……」
「そうか……だがまだお前を完全に信用した訳ではない。一応お前は捕虜となってもらう。」
「そ、そんな……」
「それと!ーーお仲間さん、無事だといいな。」
「……あぢがとうございまずうううう!必ず仲間を……助けてくださいいいい。」
「お、おう。まだ生きてたら必ず助けるから安心しろ。」
ラノが捕虜になって数時間が経った。
王国軍の戦死者はおよそ200名ヒデキ率いる魔王軍の戦死者はまだ50体ほどしかでていない。
何故なら魔王ヒデキが前線に出て戦っているからだ。
通常の兵士など魔王の敵ではない。
次々と王国兵を蹂躙していく光景を見て戦意喪失したり、許可を得ずに撤退する者も、魔王幹部によって一瞬で屍に変わっていく。
逃げも隠れも出来ない戦闘は王国兵にとっては絶望的な戦いであった。
しかし国王はいつまで経って総員突撃の命令を変えない。
この惨状を見て王国軍の軍師は顔を真っ赤にし、焦った様子で。
「国王様!!このままでは通常攻撃兵が全滅してしまいます。命令を!この状況を打破するための命令をしてください!!」
「命令は出さない。全て計画通りに進んでいる、貴様は黙って見ていろ。」
「ふざけないでください!通常攻撃兵が全滅するのが計画通りというのですか!?」
「ああ、そうだが。」
「貴方は……貴方は狂っている!こんなの人間のする事でばっっ……ごぼっっ……」
「国王様に文句をつけるな!無礼者め。」
『姿の見えない何か』によって先程まで国王と話していた軍師は腹を八つ裂きにされた。
この時国王の周りにいた兵士はこの時悟った。
ーー敵は魔王だけではないと。
「皆の者!貴様らは儂とボルケニオン王国のために命を捧げている筈だ。儂が出した命令は魔王を前にして怖気ずいて野垂れ死ぬの事か!?違う筈だ、貴様らは魔王軍に突撃して死ぬか成果をあげる……それだけだ。」
「「「おおおおおお!!」」」
「魔王とは何だ?」
「「「悪魔!」」」
「儂は何だ?」
「「「偉大なる国王様!」」」
「最後に、お前達は何だ?」
「「「国王様のために血を流し、憎き魔王を殺す正義の使徒!」」」
「ふむ……よしもう一度突撃だ!」
国王が兵士達の士気を高めた直後、兵士達の目の色が変わった。
全滅しかけていた王国軍の通常攻撃兵達は魔法兵の支援魔法を受けて体制を立て直し、魔王軍のモンスター達を次々と倒していっている。
「……まずいな、このままだと王国軍に逆転されちまうな。」
先程までは魔王軍が圧倒的な軍事力で王国軍を蹂躙していたのだが、今では魔王軍の兵の数と軍事力がわずかに王国軍に劣っていたのだ。
「……だが、まだまだ爪が甘いな。来い、スライム軍団。」
ヒデキが微笑を浮かべながらそう言うと、戦場の中心に大きな魔法陣が現れ、そこから噴水の様にスライムが溢れ出てきた。
召喚されたスライム軍団は次々と王国軍の通常攻撃兵達を飲み込んでいった。
だが国王に戦意を高められた王国軍は仲間の死に怯える事なくスライム達をを一体一体潰していっている。
「仲間の死に動揺しないのか……あのキナ臭い国王、まさか兵士達を洗脳したのか!?」
ヒデキが召喚したスライム軍団はかなりの数の王国兵達を捕食したが王国軍の通常攻撃兵を全滅させる事は出来なかった。
やがてスライム軍団は王国軍の魔法兵の広範囲魔法の雨を受けて一匹残らずスライム汁になってしまった。
「くそ……スライム軍団がこんなにあっさりとやられるとは思ってなかったな。……魔王幹部、集合。」
「「「はっ。」」」
ヒデキの一声で現在生存している魔王幹部がテレポートしてきた。
もともと10人いた魔王幹部のうち7人は戦死した様で残ったのは3人だけだった。
3人の内訳は、剣の名手レッドオーガ、魔法攻撃に特化したトワイライトリッチ、そしていつの間にか魔王幹部の座に上り詰めていた謎の幹部フィッシュマンだ。
レッドオーガとトワイライトリッチは今までの王国軍との戦いでよく知っていたが、フィッシュマンだけは経歴詐称、実践経験無し、無口、見た目がただの魚と色々な事があってよく分からない奴だ。
でも俺のいない所でコツコツと働いて出世した様なので裏切りはしないだろう。
「皆んなよく来てくれた。このままでは負けてしまう事くらい君達でも分かるだろう。そこで戦法をちょっと変えてみる事にした。」
「新しい戦法について詳しくお願いします。」
フィッシュマンが流暢かつ丁寧に聞いて来た。
こいつ喋れたんだ!
少し感動しつつも時間がない事に気付き、幹部への説明を始めた。
「今までは正々堂々と真っ向勝負だったけどこれだと勝つのはちょい厳しいから一気に倒す事にした。」
「「「というと?」」」
「まずトワイライトリッチは敵陣のど真ん中に最大魔力を込めた核魔法を放つ。でも詠唱とマナ貯めに時間がかかるからその間にレッドオーガとフィッシュマン、そして俺と魔王軍の生き残りで時間を稼ぐ。って作戦なんだけど……分かった?」
「「「はい!多分。」」」
「おう自信の無い返事ありがとう。てな訳で早速作戦開始だ。」
「ヒデキ様!詠唱開始します。」
「おう!頼んだぞ。」
トワイライトリッチの詠唱開始と共に幹部2人と俺は時間稼ぎのために敵陣へ突っ込んでいった。
レッドオーガは次々と王国軍の通常攻撃兵を切り倒して辺り一面を血の絨毯に変えた。
レッドオーガの剣は豆腐を切る様に兵士達の金属の鎧をスパッと切断している。
「おいおいおい!?王国兵がこんなに弱っちくて良いのかよ!」
国王に洗脳されている王国兵達はレッドオーガの挑発を気にもせずに顔色1つ変えずに戦っている。
彼が王国兵をぶった斬っていると負のオーラを纏った王国兵がゆっくりと歩いて来た。
「テメー、そこらの奴らとは実力が違うな。洗脳も受けていない様だしな。」
「ふふふ、そう言う貴方もなかなか強そうですね。」
「お前は何者だ?」
「私はボルケニオン王国軍所属円卓の騎士、ホワイトローズ・レイブンスピア……勇者の資格を持つ者です。」
「なっ!勇者だと!?」
勇者の資格を持つ者は通常スキルの何倍もの効果を発揮する勇者スキルを使う者がいる。
しかも勇者は剣術の成長が早く成人になる頃には魔王レベルの実力がなければ到底太刀打ち出来ない。
そんな怪物相手にただの魔王幹部が挑むのだ。
結果は既に見えているだろう。
だが今は自分の主から任務を受けて動いている。
絶対に負けられないのだ。
剣を握り直し、剣先をホワイトローズに真っ直ぐ向ける。
「ほう……私と戦うというのですか。」
レッドオーガは低い体勢でホワイトローズの下腹部に斬り込む。
しかしそれをホワイトローズがスライディングをしてかわし起き上がりながらレッドオーガに軽めの一撃を与える。
「やっぱお前は化け物レベルの強さだな。」
「貴方が弱すぎるのではないですか?」
ホワイトローズが剣をヒュンヒュンと回しながら挑発する。
しかしレッドオーガは挑発を無視して再び攻撃を再開する。
「少し動きが良くなりましたね。仕方がない、スキルを発動しますか。」
やれやれと言わんばかりの態度でホワイトローズが剣を地面に突き刺すとホワイトローズの体がじんわりと光り出した。
そしてカッと目を見開いたホワイトローズが地面から剣を引き抜き。
「さあ、続きを始めようか。」
そう言って先程までとは比べ物にならないスピードで間合いを詰めて右肩へ剣を振り下ろしてきた。
レッドオーガは剣でそれを防ぐがホワイトローズの剣撃の威力の異常さに気づいた。
ジリジリと剣をこちらに押し付けてくるのを必死に押し返すが圧倒的な威力を力で押さえつけているせいで限界を通り越した筋肉がピキピキと音を立ててきている。
「ぐう……ぐあっ!」
「あははははは!私の剣を受け止めるとはなんという馬鹿力……面白い。特別に私の勇者スキルについて教えてあげましょう。」
「ぐああああ!どうでも……良いんだよそんなこと。」
しかしホワイトローズはレッドオーガを無視してスキルの説明を始めた。
「私の勇者スキル『重力操作level.2』は自分の半径1メートル以内の物の重さを自由に変える事が出来るんだよ。つまり僕の剣の重さを何倍にも上げて剣の威力を向上、でもそんな重い剣なんて持てないから私の周りの空気の重さをマイナスにする……つまり簡易的無重力空間にすることによって重い剣も浮いちゃう様にしているのです。どうですか!?素晴らしいでしょう。」
「ぐぐぐ……そんなにいっぺんに言われても分かんねえよ!」
「ほう、まだ喋れましたか。でももう貴方の体はもたないでしょう。」
「くそ!!勇者なんてクソ喰らえ!オメエらなんて大っ嫌いだ!」
「え!?初対面のやつをせっかく助けに来てやったのにクソ扱いはひどいんじゃねーか?」
思わず気の抜けた声が聞こえた方を見てみるとそこにはボサボサの髪を気怠そうに掻きながら歩いてくる青年がいた。
謎の人物の突然の登場にレッドオーガは敵であるホワイトローズと顔を見合わせる。
「「どなた様ですか?」」
「ふふふ、聞いて驚くなよ!俺の名はマサキ・イシカワ……最強の勇者だ!」
「「うわー凄いねー、ここは色々と危ないからお家に帰った方が良いと思うよ。」」
「オメーら敵同士のくせに息ぴったりで俺をからかってんじゃねえよ!」
「それであんたは勇者なのになんで俺の味方をするとか言ってんだ?」
「それは俺が魔王ヒデキの恋のライバルだからだ。」
「意味が分からねえよ!」
そんな茶番をマサキという人物と繰り広げているとマサキにホワイトローズが剣を突きつけて。
「どうやら貴方も敵の様ですね。ここで大人しく……」
ホワイトローズがカッコつけた事を言っている間にマサキはホワイトローズの剣を足で薙ぎ払い、鞘から剣を抜いてホワイトローズに斬り込む。
ホワイトローズはそれを剣で受け流そうとするがあまりのスピードに対応しきれず、ホワイトローズの腕に切り傷ができる。
「勇者スキルの効果を使っている剣を貴方はどうやって!?どうやって!?」
するとマサキはホワイトローズに笑顔を見せて。
「おい!俺は人の話を聞かない奴が大っ嫌いなんだよ。いいか?俺は最強の勇者なんだよ。それに異世界から来た勇者だぜ。この世界の勇者モドキに負ける訳ないだろ?」
マサキの話を聞いたホワイトローズは顔を引きつらせて。
「まさか……貴方は本当に、勇者だったのですか?しかも私より高レベルの……」
「その通り、煩悩の割にはよく理解したな。」
そしてまた勇者2人の戦いは始まった。
お互い勇者スキルを使用しての戦いだ。
ホワイトローズの《重力操作》によって重い一撃が繰り出されるがマサキの《覚悟の剣撃》によって引き上げられたステータスを前にしては無力である。
実質今はマサキは《ランダムエンチャント》と《覚悟の剣撃》で、ホワイトローズは剣術のみで戦っている。
変則的なエンチャントに翻弄されながらもホワイトローズは懸命に戦っている。
ーーその時だった。
「「「逃げて下さいホワイトローズ殿。」」」
なんと王国軍の通常攻撃兵が援護に来たのだ。
しかもかなりの大群でだ。
この隙にホワイトローズは傷を抑えながら自陣に逃げていった。
マサキに群がってくる通常攻撃兵は個々の力は軟弱なのだがこの状況の様に集団になると話は別だ。
マサキは何箇所か切られて血が滲んでいる。
「くそ!多過ぎだろ!!」
「お助けします。」
声が聞こえた瞬間、次々と兵士達は掃除機に吸い込まれる埃の様にフィッシュマンに吸い込まれていった。
いつの間にか援護に来たフィッシュマンは兵士達を吸い込んでいく度にむくむくと大きくなっていく。
そしてついにフィッシュマンは通常攻撃兵を全員吸い込んで巨大化していた。
ーーここまでは問題無かったのだが……
「すみません。自我が……保てな……」
言葉が途切れるとともにフィッシュマンが暴走を始めたのだ。
暴走したフィッシュマンは魔王軍、王国軍問わず飲み込んでいった。
「王国軍総員に告ぐ!!テレポートで退却するぞ!!」
国王がそう言うと魔法兵がすぐに魔法陣を出してテレポートで逃げられてしまった。
実質、王国に魔王軍は勝利したのだが今はフィッシュマンが暴れているせいで魔王軍は混乱状態に陥ってしまった。
だがそこに救世主が舞い降りた。
「スペス・ボム!!」
救世主の放ったスペス・ボムはフィッシュマンの右目を中心にして頭部を大きく抉った。
「遅れて参上!アリス軍団!!」
そう言ってアリス達が俺達を救いに来たのだ。
アリスは不敵な笑みを浮かべて。
「おいクソ魚!SUSIにして美味しく食ってやるよ!」
全くかっこよくない決め台詞を吐いた。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
ブックマーク登録・評価等して頂けると嬉しいです。