第7話 マサキに不可能は無いのである
今回挿絵を描いてくださったのは『源有気』さんです。
源有気さんのみてみんURL----->http://21019.mitemin.net/
魔王の住む魔城周辺をひそひそと小走りで移動する集団……
そう俺達アリス奪還作戦メンバーだ。
やられたらやり返す。
攫われたら攫い返す。
これをモットーに俺達は作戦を実行する。
結局馬車代は稼げなかったのだがアジ・ダハーカの背中に乗って移動したのだ。
ラノによると最初からアジ・ダハーカに乗っていく作戦だったらしい。
だからって俺に討伐に行かせて返り討ちに遭わさせるなんてひどい作戦だ。
でもなんとかこうやって作戦を続行できているから許す事にしよう。
「よし、もうすぐ城門前だ。作戦の確認だ。ここで二手に分かれる。俺とアジ・ダハーカは正面から進入して奇襲する。その間にラノとエノが窓から進入してアリスを探してくれ。」
「「「りょーかい。」」」
敬礼をしてるエノに見惚れながら俺とアジ・ダハーカは城門に向かった。
「魔城に侵入とかマジで俺達殺されるんじゃね?」
「殺されないと信じているから侵入しているんだろう。」
はいその通りですアジ・ダハーカさん。
でもね、これはフラグという物語に必要不可欠なコメントでして......
「おいマサキ!ぼけっとするな。もう城門のすぐ近くだぞ。」
「お、おう絶対アリスを助け出そうな。」
「まだ儂はアリスという者に会ったことがないのだが......」
何だか愚痴っているアジ・ダハーカを無視して俺は城門を守るモンスターの騎士を観察していた。
モンスターはアンデット系のモンスターで重装備、そして何より数が多い。
どうしよう......
2人で攻めても数の利でゴリ押しされる気がするのだが。
俺に話しかけられて不機嫌なアジ・ダハーカが。
「あのー、無視するのは良くないというか......」
「よしアジさん、城門に突っ込め!」
「だから人の話を聞けえええええ!」
アジ・ダハーカが大きな声でキレたせいで城門付近にいるモンスターがみなこちらをジッと見てーー
「「「曲者がでたぞー!!」」」
ほらこれ全部アジさんのせいだからな!
まあしょうがない、ダメ元で戦うか。
俺はスキルを発動して迎撃態勢をとる。
そして俺達に気づいたモンスター達は手をバキバキと鳴らしながら近づいてきた。
「貴様達は何者だ?何故城門前に隠れていた!」
「それはな!」
モンスター達が知りたそうに俺を見ている。
それは勿論ーー
「侵入するためだよ!じゃあなノロマ!」
そう言い捨てて俺とアジさんは全力ダッシュで城門を突破した。
当たり前だけど門番達全員も俺達を全力ダッシュで追いかけてきている。
「よっす!久しぶり!俺だよ俺俺。」
「お前は誰だ!?何故走って......」
俺は見たこともない奴に適当な事を言って相手を混乱させているうちに突破する、という手段でもう10人以上は突破している。
まあそのせいで追いかけて来る奴も増えているのだが。
「待てえええええ!曲者だああああああ!みんなこいつらを捕まえろおおおお!」
かなり追いかけてきているのだが。
これ捕まったら洒落にならないな。
きっとラノとエノはアリスを助けてくれるさ。
......俺達も助けて欲しいのだが。
マサキとアジ・ダハーカがモンスターと仲良く追いかけっこをしている時にラノとエノは外壁をよじ登っていた。
「エノりん、そろそろ窓よ。ここから入ろう。」
「分かりましたぁ。今叩き割りますねぇ。」
エノがそう言って窓にハンマーを叩きつけた。
すると「パリーン」と簡単に窓は割れた。
エノはたまに暴力的な事を好んでするのよね......
そんな事を考えながらエノを見ていると。
「何かご用ですかぁ?言いたい事があるのなら言ってくださいよぉ。」
エノが怪しげな笑みを浮かべて言ってきた。
言ったら何されるかわからないわね......
とりあえず敵に見つかる前にこの窓をくぐった。
侵入した部屋は武器庫だったようでたくさんの武器がズラリと並べられている。
隣から「はあはあ」と荒い息が聞こえたので聞こえた方を見てみると武器が並べられている棚に置いてあったムチを大事そうに抱えていた。
「はあはあ、ラノ!これ持ち帰っていいい
いいですかぁ?と、とても叩き心地が良さそうなんですよぉ。」
「持ち帰ってもいいから早くここを出てアリスちゃんを探すわよ。」
「はぁい」と言いながらエノはムチを「ヒュンヒュン」と振り回しながら笑顔で歩いて行った。
自分自身も置いてあったショートソードを片手にエノに続いて部屋を出た。
下から騒々しい音と怒号の声が聞こえるのはマサキ達が上手く敵の注意を引けているという事だ。
まあ上手くいっているようで何よりだ。
「ラノ、あの部屋は何でしょうか?何やら牢屋のような......」
エノが指を指していたのは確かに牢屋のような部屋で奥にもまだ同じ部屋が続いていた。
もしかしたらアリスもこの中に囚われているかもしれない。
「ねえエノ、私はこの牢屋にアリスちゃんがいないか探すからエノは先に進んでて。」
「えー1人ですかぁ!?しょうがないですねぇ、了解しましたぁ。」
エノはウインクしながらそう言った。
......本当に大丈夫だろうか。
まあ任せてしまったからにはしょうがない、もうどうにでもなれ!
そんな事を考えながら先に進むエノを見送った。
「よし!早くアリスちゃんを探さないと!」
気合を入れて捜索を再開する。
骨や血などが散乱している牢屋もあり、とても不気味だ。
寒気を感じながら生の気配が全くしない牢屋を見て回る。
捜索を再開してどれくらい経っただろうか。
たまに足音が聞こえる。
「だ、誰かいるの!?」
「......」
問いかけに対して応答はない。
「気のせいか」と胸を撫で下ろし、さらに奥に進む。
「コツコツコツ」
「キャア!誰!?」
思わず声が出てしまったが応答は返ってこない。
背筋に走る寒気が増して本格的に恐怖というものを感じてきた。
「さっきから何なのよ......」
「本当だよ。何勝手に俺のテリトリーに入って来たんだクソ尼。」
「ーーへ?」
「へ?じゃねえよ。お前は人ん家に『お邪魔します』1つ言わないで入るのか?」
「あ、あ、あわわわ。」
自分の目の前に機嫌が悪そうにこちらを睨んでくるのは魔王の幹部の1人として名を馳せている『ダークムーン・ヴァンパイア』だったのだ。
ダークムーン・ヴァンパイアにあったら最期、王国剣士でも声をあげる暇なく瞬殺されてしまうという伝説が残っているくらいだ。
きっと自分なんか敵としても見てくれていないだろう。
「え、えっと……道に迷ったのですが。」
「分かりやすい嘘を吐くな!ここは魔城だぞ、道に迷うわけがないだろう。」
「そ、そうですよね。ごめんなさい。あ、はは。では!……さよなら!!」
そう言い捨てて全力で逃げた。
ダークムーン・ヴァンパイアは勿論追いかけて来た。
「待て!大人しく俺に斬り殺されろ!」
「そう言われて大人しく斬り殺される人はいないと思うんだけど!」
さすが魔王の幹部、何やら自分に術式を施してドーピングを行ったらしい。
そのせいで差はどんどん縮まってきている。
このままでは絶対殺される!
そう自分に言い聞かせて死ぬ物狂いで走った。
「そろそろ諦めたらどうだ?クソ尼!!」
自分は既に剣の届く距離まで追いつかれてしまっている。
たまたま運が良くて剣を避けれているがミンチになるのも時間の問題だろう。
「もうどうしろっていうのよ!!」
ドゴーン!!
その音とともに天井が崩れてちょうど自分とムーンライト・ヴァンパイアとの間に壁を作る。
何が起こったのか分からないがとてつもないラッキーが起きたのは確かな事だ。
今はとにかくここから離れる事にした。
ラノがムーンライト・ヴァンパイアと出会ったばかりの頃、マサキとアジ・ダハーカは魔城にいる大量のモンスター達と仲良く追いかけっこをしていた。
「はあはあ、アジさん今追っかけて来てる敵さんは何体くらいだ?」
「……ピット器官で調べてみたがものすごい数だぞ!」
「その数を聞いてんだよ!早く言えって!」
「10000体は軽く超えている。」
「は!?よしそれではコマンドexをやるぞ!」
「ほ、本当にやるのか!」
コマンドepとはーー
俺が地球にいた頃に読んだラノベに出てくる某キャラの使う○裂魔法の名称をアルファベット2文字に短縮した作戦のことである。
この作戦の内容は……
1.敵を大量に誘き寄せる。
2.逃げながらアジ・ダハーカに詠唱させる。
3.詠唱完了と同時に大量の敵を『ダークネス・メテオ』で処理。
という割と単純な作戦であるが敵の建物内で使用すると敵の処理以外に建物大破というおまけまでついてくる素晴らしくも破壊的な作戦なのだ。
そんな禁断のコマンドepを俺は指示してしまったのだ。
まあ最初から使う予定だった作戦だから別にいいんだけど。
「おい!曲者の1人が魔法の詠唱を始めたぞ!」
「どうせ逃げ回ってるだけの軟弱者の魔法だ。大したものではないだろう。このまま追いついて奴らをぶっ殺すぞ!」
ああ良かった。
ーーこいつらの勘が悪くて良かった!
そう思ってついゲス顔になってしまったがそれはそれでしょうがないことだ。
人間、自分の表情をコントロール出来なくなる事なんて日常茶飯事だ。
「マサキ!詠唱が完了したぞ。いつでも撃てる、指示を。」
アジ・ダハーカが俺の方を向いてそう言った。
よし!チェックメイトだ。
お前らに追っかけられた鬱憤をここで晴らしてやる!
「いくぞ!5、4、3、2……」
ここまでカウントしたが俺はカウントを止めてしまった。
今誰かとすれ違ったのだ。
爆乳で可愛くてムチとメイド服が似合う美少女と……
ってエノじゃねーか!!
「いつまで待たせるつもりだ!?もういい、ダークネス・メテオ!!」
「!いやちょっと待てよ、エノが……」
「え?」
俺がそう言った時には遅く、天井から黒く光る隕石が出現しモンスター達の大群とエノに向かって落ちていく。
「「「あ!」」」
モンスター達は隕石を見て口をあんぐり開けたまま床とともに吹き飛んだ。
「やばい!エノが!!」
「あ、私ならシールド張っといたので無傷ですぅ。下にいるヴァンパイアみたいな奴もワンパンしといたんでご安心を。」
俺のやばい発言に答えるように聞き慣れた声が床に空いた穴から聞こえてきた。
エノが無事で何よりだ。
それよりも『ヴァンパイアみたいな奴』って誰だ?
魔城にいるくらいだからまさか魔王幹部の1人、『ダークムーン・ヴァンパイア』か!?
いやいやいくらエノでよ魔王幹部をワンパンなんてあり得ないだろう。
あり得ないよな!?エノさん。
ほのかな不安を胸に抱きながら俺とアジ・ダハーカは恐る恐る穴を覗いた。
すると俺の目には頭に大きな痣を残して倒れているダークムーン・ヴァンパイアとムチを大事そうに豊満な胸に抱きながらスリスリしているエノがいた。
あ、あはは。
俺は最近疲れてるのかな?
魔王幹部がワンパンされる訳ないじゃないか。
幻覚だよ幻覚……
しかしいくら目をこすっても眼下に見える景色は何1つ変わらない。
「あ、あのまさか本当に……」
「私が嘘をつく訳ないじゃないですかぁ!」
まじか!!
こいつ本当に魔王幹部をワンパンしたのか!!
もしかしたらエノが本気を出せば魔王もワンパンでいけるんじゃねえか!?
「マサキさぁん、何ボーっとしてるんですか?アリスちゃんが魔王ヒデキに犯される前に助けに行きましょー!」
「「お、おう!」」
凄まじいエノの実力を見せつけられ、未だ状況を理解できずにいるが今はアリスの事を第1に行動する事にした。
「そういえばエノ、なんでラノと一緒にいなかったんだ?」
「ラノとは今私達がいるこの牢屋みたいな部屋がたくさん並んでいるここのすぐ近くで別れたはずなのですがねえ。」
「そうなのか……じゃあこうしよう。俺はラノを探して見つけ次第合流する。アジさんとエノりんはこのままアリスを探してくれ!」
「「了解!!」」
そして2人がこの場から離れようとした時。
「あ、あと言い忘れてたことが1つ。」
「「……?」」
「……絶対に、死ぬなよ。」
「「……こっちのセリフだ!!」」
おや!?
この2人にはツンデレ属性が発現したのかな?
……ありがとよ。
そしてアリス捜索に行ったエノ達に続いて俺もラノ捜索を開始した。
ラノを探してどれくらい進んだのだろうか。
どこからか女性のすすり泣く音が聞こえてきた。
「おーい、ラノなのか?それとも誰だ?頼む!返事してくれ!!」
「ぐすっ……ぐすっ。」
「頼む本当に返事してくれ!怖くなってきたからマジで。」
俺がそう言うと廊下の奥のドアがガチャっと開いた。
か、風で空いたんだよな!?
まさかラノかアリスが死んで幽霊になったとかじゃ無いよな!?
俺は何とか恐怖に打ち勝ち、さっきポルターガイストが起こった部屋に足を踏み入れた。
「お、お邪魔します。」
「ってうわあああああああああああ!」
そして次の瞬間俺はやっとこの部屋には床のないという事に気ずいた。
だいぶ落ちている筈なのだが未だ穴の底に着かない。
「この穴どんだけ深いんだよ!!」
これあれなタイプか?
無限ループ的な感じでいつまでも落ち続けるやつか。
ーークッソめんどくせー。
まあ地面に着いて落下死ってよりは良いか。
「ってどわああああああ!」
底なし穴だと思った瞬間に俺は柔らかいクッションみたいな物の上に落ちた。
いや底あるんかい!
顔を上げて周りを見渡してみるとそこにはお姫様でも住んでいるかのような部屋が存在していた。
「す、すげ!」
「だよな。俺も誘拐されてここに連れてこられた時にめっちゃビックリしたよ。」
口調に合わない可愛らしい声。
ん?どこかで聞いたことがあるような……
ていうかこんな所に人が居たんだな。
気になって声の聞こえた後ろを見るとそこにはパジャマを着た黒髪の美ロリ魔女っ子が立っていた。
「……は!?」
「おいおい『はっ?』て何だよ感動の再会だろ。」
「い、いや……アリスは確かヒデキに誘拐されて今頃犯されている筈じゃ……」
「……死ね。何で俺があのヒデキとかいう魔王に卑猥な事されなきゃいけないんだよ!」
アリスが言っている事は本当のようだ。
では何故ヒデキはアリスをレイプしたのだろうか。
今考えてみるとあいつは魔王だけど以外といい奴だったな……
「なあアリス、何でレイプされたかヒデキに説明とかされてないのか?」
『ガチャ!』と扉が開く音がした。
「俺が何だって?」
そう言って出てきたのは今回の件の元凶である魔王ヒデキであった。
「お、おいテメー何勝手に俺のアリスをレイプしてくれてんだよ!!」
「俺はお前のものになったつもりはないんですが……」
「ああ、そういえばアホなマサキは知らないんだっけ?」
「テメー!アホとは何だ……まあ知らないのは間違いではないんだけどな。」
「アホなお前のために説明してやるぜ!
まず、最近国内にいる魔女が結束して『対ボルケニオン王国連合』を作って国内で大規模なテロを何回も起こしていた。当たり前だがそんな事したから魔女たちは王国に目をつけられてしまったんだ。そして国王は『魔女を発見、または討伐した者には褒美を与える。』と国民に魔女狩りを奨励して、内戦を速やかに終わらせようとしている。だからアリスの事が魔女狩りを専門職としている奴らにバレるのも時間の問題だから勝手に保護してあげた。っていう事だ。」
そ、そうだったのか……
あれ!?最初から素直に『アリスに会いにきた』って言えば良かったんじゃね?
うん、もう考えないようにしよう。
「そういえばヒデキ、ラノを見なかったか?」
「いや、見てないけど。」
「……どこほっつき歩いてんだよラノ。」
「「うわああああああああああああ!!」」
『ドシーン!』と大きな音を立てて誰かがこの部屋に落っこちてきた。
「遅れて参上!我が名はアジ・ハダーカ。お前を倒しに……」
「あっれー!?何でマサキが魔王の部屋にいるんですかあ?」
KYがやって来て邪魔だったから今まで起きた事を2人に話した。
「そうだったのか!でも何事もなくて良かったじゃないか。」
「そうですねえ。アリスちゃんが無事で何よりですう。」
2人は話を聞いて安心したようだ。
これでラノさえ見つかれば一件落着。
そんな雰囲気を壊すアナウンスが魔城に流れた。
「王国軍の奇襲!!現在見知らぬ女性が人質に取られていてこちらは手を出しにくい状況となっている。総員直ちに先頭準備をして援護に向かえ!」
マジか!!俺達が散々荒らした後に王国軍が攻めて来たのか!
見知らぬ女性って誰だ!?
ーーまさかラノか!?
そうだったらまずいな。
「おいヒデキ!俺達が王国兵を殺ってくる!」
「いや!今ここで俺達魔王軍の味方をお前達がしたらお前達指名手配されるぞ!」
「で、でも俺達が荒らしちまったせいで不利になってるんだろ。」
「いや、お前達はここで待ってろ。あとーー魔王の実力舐めんなよ!」
この時のヒデキは魔王の覇気を放っていて俺は初めてヒデキに対して恐怖を覚えた。
「さあイッツショータイム!大殺戮の始まりだ。」
ヒデキは怪しげな笑みを浮かべてそう言った。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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