第4話 夏の薄着は女性の武器である
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この世界に転生してきて初めての夏が来た。
--夏--それは世の中の女性達が肌を露わにし、世の男性達に癒しを与える季節。
日本にいた頃は俺も癒される側だった。
しかし!俺は転生して私になってしまった。
そう、俺は癒す側になってしまったのだ。
それは昨日、ラノの提案から始まった。
「ねえアリスちゃん。夏になってローブじゃ蒸し暑いでしょ。夏用の服買いに行こうよ!」
夏用の服か......
確かに最近ローブの中がサウナ状態になっていて暑いんだよな。
「ナイスアイデアだラノ。早速買いに行こう!」
買い物の準備をしているとエノがやって来た。
「何してるんですかぁ?ラノとアリスちゃん。」
「ああ、最近暑いから夏服を買いに行くんだよ。」
「夏服ですかぁ?私も持っていませんねぇ。一緒に行っても良いですかぁ?」
「別にいいぜ。ラノも来るしな。」
俺がそう言うとエノはにっこりと笑った。
そして俺と共に鞄に荷物を詰め始めた。
ふとエノの方を見るとムチやペンチを鞄に入れていた。
これは気にしたら負けだな。
そう自分に言い聞かせた。
「アリスちゃん準備できた?」
ラノが鞄を持ってやって来た。
「おう、出来てるぜ。あとエノりんも行くことになったから。」
皆準備が終わり早速町の服屋巡りをすることになった。
そういえばこの世界に来てから買い物は初めてだったな。
しかも洋服を友達と買いにいくなんて人生初なんだけど。
ウキウキしながら歩くこと10分。
目的の洋服屋に着いた。
「いらっしゃいませ〜。」
綺麗な店員さんが出迎えてくれた。
女の子の服なんて分からないからラノに決めてもらう事にした。
エノは自分で決めるそうだ。
「アリスちゃんこれはどう?」
そう言ってラノが持って来たのは何故か水着だった。
「変態か!」
俺がツッコミを入れるとラノは少し残念そう水着を戻しに行った。
しばらくしてラノが白いレース生地のワンピースを持って来た。
「これはどう?アリスちゃんにとっても似合うと思うの。」
「うん、これでいいかな。」
「それじゃあエノりんを迎えに行こう。」
エノは夏用メイド服を見ていた。
その服は薄めの生地で出来ていてかなり大人な雰囲気を醸し出していた。
早く着ている所を見たいものだ。
ラノは元々夏服を持っていたので何も買わないようだった。
俺はラノが選んでくれた白いレースのワンピースを見て女になった事を改めて実感した。
「ワンピース一点とメイド服一点、系二点で1万ユキチになります。」
「今何て言いました?」
ラノが顔を引きつらせて聞いた。
「1万ユキチになりますと言いましたが……」
「どうしようアリスちゃん……お金が足りない。」
ラノが泣き目で言ってきた。
最近クエストをやってなかったから金欠になっているようだ。
またクエストやんなきゃな。
結局服代はツケてもらい俺達は小屋に帰った。
一週間小屋への侵入禁止が解けたマサキが小屋に帰ってきた。
「たっだいまー。みんなのアイドルマサキ様が帰ってきたぞー。」
「うるせぇ早くクエスト探してこい。」
俺が切れ気味で言うとメンタルが弱めのマサキはシュンとなってクエストを受けに行った。
俺とエノがお互いに買った服を見せ合っているとマサキが全力ダッシュで帰ってきた。
「凄いぞみんな!超美味しいクエストがあったぜ!」
「「「うわー凄いですね。」」」
「棒読み感パネーな……それよりもこのクエストヤバいぞ!『浜辺で取れる覇魔愚利一体捕獲につき報酬1000ユキチ』だって!覇魔愚利って普通に潮干狩りで取れる美味しい貝だろ?がっぽり儲けられるじゃねーか!」
「確かに美味しいですけどぉ、そのクエストは……」
エノの言葉を無視してマサキは浜辺に向かって走って行った。
しょうがない、付いて行ってやるか。
俺達もマサキに続いて浜辺に向かった。
覇魔愚利捕獲の為に大きめの網を持って浜辺に着くと恐ろしい光景が広がっていた。
とても広い浜辺が全て覇魔愚利で埋め尽くされていたのだった。
「よっしゃぁぁぁ!今日から俺達は金持ちだぁぁぁ!」
マサキが覇魔愚利に飛びかかった。
俺の知っているハマグリだったらそのまま捕獲されるのだがマサキが飛びかかったのは覇魔愚利。
次の瞬間マサキは覇魔愚利が発射した粘液が顔面にヒットして倒れた。
「大丈夫かマサキ?」
「問題ない……おぇぇ。」
マサキは吐き気に見舞われていた。
覇魔愚利パイセン強すぎだろ!
「覇魔愚利は敵が近づくと臭くてネバネバな粘液を出して威嚇するんですよぉ。亜種になると牙で噛み付いて来る事もあるんですよぉ。」
何それ怖い。なんて攻撃的な貝だ。
とりあえずマサキはほっとくとしてどうやって捕獲しようか......
「アリスちゃん!力押しで行くわよ!」
ラノがそう言って粘液まみれになりながらも覇魔愚利を獲り始めた。
つまりゴリ押しって事ですかキャプテン......
俺とエノも仕方なく捕獲に乗り出すことにした。
「臭いですぅ臭いですぅ。」
エノが泣き目で粘液まみれになっている。
やばい可愛い。失礼にもそう思ってしまった。
マサキは亜種に噛まれて全身血だらけになっている。
俺は加護を使い自分の体を結界で守っているので粘液まみれにならずにすんでいる。
そんな感じで満身創痍でクエストを続けて俺のマナが尽きる手前でなんとか全ての覇魔愚利を獲り尽くした。
「うぅ、もうお嫁に行けませぇん。」
エノが粘液まみれになって泣きながら言ってきた。
いや、エノは嫁に行けなくなることはないと思うのだが。
実際粘液まみれのエノもめちゃかわだったし。
「俺だけなんで血だらけにならなきゃいけなかったのか誰か教えて。」
血だらけマサキは疲れ切った顔でそう聞いてきた。
いやまずお前が見つけてきたクエストだろうが。
心の中でそう突っ込んだ。
「まあみんな、粘液はお風呂で落とせばいいじゃない。ほら!ギルドが見えてきたわよ。」
ギルドに着くと俺達の獲ってきた覇魔愚利を見てギルドにいる人々が驚きの声を上げた。
「あの変人の集まりがあんなに獲ってるよ!」
「あの変態マサキのPTがアリスちゃん以外を粘液まみれにしてまで覇魔愚利獲ってるよ!」
「誰が変態マサキだ!」
マサキが怒っていたが『変態に変態と言って何が悪い。』と言われてさらに怒っていた。
そんなマサキはほっといて3人で報酬を受け取りに行った。
「覇魔愚利3000体捕獲で300万ユキチになります!!」
受付嬢が名残惜しそうに300万ユキチの入った袋を渡してくれた。
これで俺達癖ありPTは小金持ちになったのである。
海だ。海に行くことになった。
女性達が水着という素晴らしいものを着る場所。
浜辺にいた覇魔愚利を全て俺達が捕獲した事により海水浴が解禁した。
そして俺達のリーダーであるラノが海で泳ごう計画を発案したのである。
ーー勿論マサキを置いて行く。ーー
「わぁ!海ですぅ!」
さっき来たばかりだったのにエノが嬉しそうに言った。
俺達は勿論水着だ。
俺は恥ずかしいからと全力で水着を着ることを拒絶したが、ラノに羽交い締めにされてその隙にエノに着させられたのであった。
あの2人の連携プレーは世界レベルだ。
恥ずかしいのだが良いこともある。
ラノとエノの水着が見られるのだ。
ラノは水色のひらひらが付いた可愛い系の水着だった。
そして俺の本命エノはきわどいラインの水着だった。
やばいエノさんエロい。
「早く水に入ろう。」
俺がエノに見惚れているとラノが急かしてきた。
ラノはたまにせっかちなとこあるんだよな......
俺は助走をつけて思いっきり水に飛び込んだ。
しばらくラノとエノと遊んでいると町の女性達が混ざってきた。
何これハーレムですか?
俺が男の体のままなら今頃ハーレムだろう。
神様はなぜ性まで転換してしまったのだろう。
「あれ?アリスっちじゃん!?」
声の聞こえた方を見るとヒデキがいた。
「え?なんでヒデキがここにいるんだ?」
「暑いし海行きたいなって思ってたんだけど近くに覇魔愚利がいない海がファストの海くらいしかなくて来ちゃったんだよ。」
魔王が何やってんだよ!と思ったが休みも必要かなと思ったので何も言わなかった。
こうしてみんなで海で楽しく遊んでいただけだったのに“奴”は来た。
「うぉぉぉ!ヒデキ!何お前だけでハーレム楽しんでんじゃこら!」
「「「失せろ変態。」」」
「ふっふっふっ。今回の俺はそんなんじゃヘタレないぜ!ここでヒデキを倒してハーレムを楽しむんじゃー!」
「え?面倒クセェから後にしてくんない?」
ヒデキがそう言うとマサキはさらに怒った。
「みんなー!聞いてくれ。こいつは極悪非道の魔王ヒデキだぞ!こいつから逃げろー!」
うわぁ......こいつ本当に最低な人間だな。
「「「うわー凄いねマサキ君。」」」
みんなの棒読みに悔しそうにマサキが歯軋りした。
「くっ!こうなったらアリスちゃんを賭けて勝負だヒデキ!」
え?何勝手に俺の事を賭けてんのこの変態。
「勝負って言っても何をするのさ?」
「ここは男らしく3番勝負だ!」
いやいや俺賭けられるつもりないんですけど。
最初の勝負は『スイカ割り』になった。
先行はマサキでアドバイザーはラノ。
「よっしゃーいくぜ!」
そう言うとマサキはぐるぐるバットを始めた。
「うぉぉぉ!」
「マサキ!そんなに勢いよく回ったら......」
ラノの心配通り完全に目が回ったマサキはスイカと真逆の方向に歩き出した。
お?良いぞマサキ。
「マサキ!逆!逆に進んでるって。」
「え?マジ?オッケー。」
オッケーと言いつつもかなり逸れた方向に進んでしまっている。
結局タイムは3分48秒となった。
「く、くそ......ヒデキの妨害が無ければ良かったんだか......」
あの......ヒデキは妨害行為を全くしていないんですが。
もうマサキはクズキャラ確定だな。
そして迎えたヒデキのターン。
アドバイザーはエノ。
「よーし、アリスっちの為に頑張るぞー。」
マサキとは違いゆっくりとぐるぐるバットをするヒデキ。
これがマサキとの脳内スペックの違いというものか。
「ヒデキさぁーん、31度右ですぅ。」
エノの指示めっちゃ細かい!
しかもヒデキは指示に従いスイカに向かって真っ直ぐ歩き出した。
「はいストップですぅ。」
エノに言われてヒデキは止まり、棒を振り下ろす。
--その瞬間スイカは横に大きく転がった。
そう。マサキがスイカにロープを巻いて引っ張ったのだ。
き、汚ねぇこいつ。
マサキの妨害の結果ヒデキのタイムは4分12秒になった。
よって1番目はマサキのイカサマ勝ちとなった。
2番目の勝負は『叩いて被ってじゃんけんぽん』になった。
しかも一回叩かれたら負けという速攻ルールだ。
「「叩いて被ってじゃんけんぽん!」」
マサキはグーを出しヒデキはパーを出した。
マサキはスカした顔でヘルメットを被るが......
スッパーン!と良い音がした。
マサキは叩かれる前にヘルメットを被ったがヒデキの叩く威力が高すぎてヘルメットが真っ二つになってそのまま頭を叩かれた。
「いっってぇー!」
マサキは半泣き状態に陥っている。
まあイカサマしたんだし天罰が下ったのだよ。
この勝負は圧倒的差でヒデキの勝ちである。
これにより次の試合で全てが決まる事になる。
最終決戦の内容は......『告白対決』である。
ルールは単純で俺に告って選ばれた方が勝ちというルールだ。
は?なんで審査員俺なの?
文句を言いたかったがエノからの冷酷な視線を感じたので黙ってやる事にした。
嫌だなぁ。
ーーマサキのターン!
「俺と付き合ってくれアリス。俺の息子はでかいぞ?」
「はいアウト〜!」
マサキはエロいという単純な理由で速攻アウトになった。
-10点獲得。
ーーヒデキのターン!
「ずっと好きだった。付き合ってくれ。」
うん、俺は全然好きじゃないよ。
でもまあこっちの方が普通だな。
「20ポイント獲得。」
「よっしゃー!勝ったぜ!」
こうしてマサキとヒデキの因縁の対決はヒデキの勝利という形で終わった。
しかし事件は夜起こった。
俺はいつも通り自分の部屋で寝ていた。
するとガチャッという音で目が覚めた。
誰かが入ってきたのか?
少し警戒をして体を起こす。
「やあアリスっち。彼氏の僕がやって来たよ。」
侵入者はヒデキだった。
ていうかこいつの彼女になったつもりはないのだが。
「いや出てけよ夜這い野郎。」
しかしヒデキはいきなり俺を張り倒したかと思うと手錠で俺の手を縛ってきた。
「何すんだ.........フガフガ。」
声をあげようとすると猿轡までしてきた。
やばい!と本能が叫んでいるが全く抵抗ができず、俺はみぞおちを殴られ意識が遠のいていった。
「ふふっ、アリスっち。僕には君が必要なんだ。」
怪しい笑みを浮かべながら魔王ヒデキは言った。
こうして魔女アリスは魔王ヒデキに誘拐された。
『1:アリスのターン』は今回で終了です。
これからも『転生者は魔女である』をよろしくお願いします。