第3話 魔王は気さくな人である
評価・ブックマーク等をして頂けると幸いです。
マサキに襲われた夜が明けた。
俺はまだ重い目蓋を開けて身の無事を確認する。
マサキから何もされていない事を確認するとお腹が減ったのでリビングに向かう事にした。
リビングに向かうとラノとエノが朝食をとっていた。
マサキは自分が起きた時は隣でまだ寝ていたので朝食は3人で食べる事になった。
「あ!アリスちゃん。おはようございますぅ。サンドウィッチ作ったので食べて下さいねぇ。」
エノがにっこり笑って言った。
そういえばエノはこの家のメイドも勤めているんだった。
「アリス......昨日の夜にマサキになにかされてない?場合によってはマサキが灰になるけど。」
何それ怖い。ラノが俺のことを心配してくれていたのは嬉しいがマサキが灰になるのは可哀想だ。
「急に抱きつかれて馬乗りされて服を脱がされかけました。」
ははは!全部言ってやったぜ。マサキが可哀想という気持ちより灰になるところを見てみたいという好奇心が勝ってしまった。まあ嘘はついてないしいいか。
「エノりん、マサキを灰にしてきて。」
怖い!ラノさん怖い。
「分かりましたぁ。軽く灰にしてきますねぇ。」
エノさん......灰にするに軽くとかあるんですか?
ヤバイこの人達マジでマサキを殺す気だ。
今マサキが来たら瞬殺されるぞ。
まあ別にマサキがどうなっても良いけど俺の優しさがマサキを助けようとしている。
マサキはまだ寝てるはず。
あいつが部屋の鍵を閉めていれば助かるんじゃないか?
いや!俺一緒に寝てリビングに来る時に鍵を開けっ放しにしてたっけ。
ドンマイ、マサキ!頑張れよ!
「それでわぁマサキを絞めてきますぅ。」
そう言うとエノはマサキの部屋にムチを持って歩いて行った。
「......とマサキも絞められる事だし本題に入ろうか。今日はちょっと難易度の高いクエストをやろうと思ってるんだけどどう思う?」
え!?難易度の高いクエスト?
昨日スライムごときで負けそうになってた俺達がそんな事出来るわけないじゃん。
しかも“スペス・ボム”は結構マナを使うから非常時にしか使わないようにしてあるし。
「本当にやるのか?俺たちじゃスライムくらいしか倒せないと思うけど......」
「うん。でも今回のクエストは『魔王と交戦中の王国兵の治療 報酬:10万ユキチ』だからエノりんが王国兵の治療をするだけなんだよね。でも道中危険なモンスターが出てくるから高難易度クエストになってるのよ。」
「ぎゃー!」
せっかくラノが説明してくれていたのにマサキの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
ご愁傷様です......
「もっといい声出して下さいねぇ。」
マサキの部屋の方からドSな発言が聞こえてきた。
エノりんはドSに目覚めたのだろうか。
少し気になったのでラノと俺はマサキの部屋に向かい、ドアに耳を当ててしばらくこの茶番を見学する事にした。
「や、やめろエノりん。君はそんなことする人じゃないはずだ!え!?ちょっ、やめろー!」
「お!?なかなか大きいじゃないですかぁ。」
「あ!やめ、ろ......」
流石にやばそうな事になってるから俺とラノはマサキの部屋に突入した。
「マサキー、助けに来たぞー!」
俺達の目に入って来たのはぶっ倒れているマサキと床を雑巾でせかせかと掃除しているエノだった。
「あの......エノりん。何を拭いてるんだ?」
「何でしょうかねぇ。あまり詮索しないほうが身のためですよぉ。」
エノがにっこり笑って言った。
エノさん怖いです。
しばらくするとマサキが起きたので早速クエストをしに行く事にした。
「エノパイセンお荷物持ちましょうか?」
「じゃあお願いしますねぇ。」
やばい。マサキが洗脳されてる。
エノさんほんと何したんすか?
場所は“ボルケニオン”首都と郊外の“ファスト”を繋ぐ国道。
現在ここは上位モンスターの異常発生により危険地帯となっている。
アリス達はそこが危険地帯とは知らずに入ってしまっていた。
「みんな......なんか凄く気味が悪くない?国道なのに人1人いないわよ。」
ラノは顔を真っ青にして言った。
「クエストでは『魔王と交戦中の王国兵の治療』だから戦場に行かなきゃいけないんですよぉ。首都で戦っているそうですからここを通らなきゃいけませんねぇ。」
エノはそう言ったがやはりここはモンスターの気配をかなり感じる。
俺達が怖がりながら進んでいると道に恐らく1万ユキチくらいの価値があると見られる金貨が落ちていた。
「おっひょー!金貨だ。ほらみんな金貨だぜ!?」
マサキは金貨を俺達に見せびらかしてきた。
しかし俺達3人はマサキに向かってマサキの後ろの方から走ってくるモンスターの群れが来ているのでそれどころではない。
「おいみんな。なんで無視するんだ?」
これだから鈍感は......
「逃げるぞマサキ。後ろからモンスター来たんだよ!気づけよ!」
「マジかよ!?」
マサキは後ろに迫るモンスターの群れを確認し真顔で俺達と一緒に全力疾走を始めた。
「追ってきているモンスター達は“堕超”ですぅ。“堕超”は陸上モンスターでは最も足が速いですぅ。このままじゃ追いつかれますぅ!」
確かに距離はどんどん縮まってきている。
こんな時こそ“スペス・ボム”の出番だ!
しかし“スペス・ボム”を使おうとしたが何故か使えない。
「ラノ!“スペス・ボム”が使えない!どういう事だ!?」
「もしかして昨日の夜に加護を乱用したりした?」
「マサキ除けのために朝まで結界型にして使ったんですけど。」
「それよ!加護もマナを消費するの。アリスは今マナがガス欠状態なのよ。もう打つ手なしよ!私こんな所で死にたくない!」
「みんな俺に任せとけ!」
マサキが追いつかれる少し前に剣を抜いて構えた。
そして堕超に剣撃を加えるが効果はなく堕超に揉みくちゃにされた。
それに続き俺達も堕超に揉みくちゃにされた。
俺は死を確信した。
消えゆく意識の中で眩い閃光とともに人影が映った。
「おはようございます。アリスさん。」
そんな声で俺は起きた。
俺が寝ているベッドの横に据えてある椅子に座っているメイドが挨拶をしたようだ。
誰だろうこの人。
確か俺は堕超に踏まれて死んだはずだ。
「ここはどこですか?」
「ここは“魔王城”と呼ばれる場所です。貴方達がモンスターに襲われている所にたまたま魔王様が通りかかり救助、介抱をされました。」
魔王に助けられた?魔王って悪い奴じゃないのかよ。
「それよりも他のみんなは無事ですか?」
「はい。今は貴方以外魔王様と面会をされています。」
良かった。みんなは無事なのか。
「俺も魔王様と面会させてくれる?」
「お、俺?あっ!いえ。問題ありません。」
俺の口調に多少驚いた後にメイドさんは魔王のいる部屋に案内してくれた。
ドアを開くとそこには数々の冒険者を葬り恐れられている魔王っぽい人はいなかった。
「お!?アリスっちだ!ようこそ魔王城へ。」
そう言ったどこにでもいそうな顔をした男は友達と話すかの様な口調で話しかけてきた。
え?まさかこの人が魔王!?
いやそんなはずはない。魔王はもっと冷酷な人のはず。こんな馴れ馴れしい魔王がいてたまるか!
「初めまして。俺は魔王を務めている“ヒデキ・ナガノ”っていうんだ。出身は日本だよろしく!」
日本出身の魔王なんて初めて聞いたわ。
てかこの人なんで魔王やってるんだよ!
日本男児は勇者に憧れるもんだろ。
「あの、ヒデキさん。なんで魔王やってるんすか?」
俺がそう聞くとヒデキは急に神妙な表情になり重い口を開いた。
「実は......」
「なあヒデキー。腹減ったからなんか食わして。」
ヒデキがそう言いかけた所で空気の読めないマサキがどうでもいい事を言いだした。
マジで何をやってるんだこいつは。
せっかくいい雰囲気だったのに。
「アリスっち、これはまた今度話すよ。」
な!?聞けないだと!
あのクソロリ婚いつか殺してやる。
結局聞けずじまいで魔城を出た。
まあきっとまた会えるだろ。
もと来た道を辿りなんとかファストの町に帰って来た。
ここに来てあまり日は経っていないのに何故か懐かしく感じる。
ギルドの人達にクエスト失敗を伝え小屋に帰った。
「いやー、魔王って結構いい人なんですねぇ。」
エノがあくびをしながら気怠げに言った。
確かにいい奴だった。
あっという間にお別れだったけどな。
「俺はあいつは絶対裏で何か悪さをしていると思う!だって俺のアリスちゃんと初対面であんな気軽に話しやがって!」
「あ?なんつった?」
俺が少し脅すとマサキはしゅんとなった。
「ねぇみんな!最近貯めてたお金でお風呂をこの小屋につけようと思うの。どう思う?」
ラノが突然提案して来た。
お風呂か......銭湯通いもお金がかかるし長期的に見ればいいんじゃないか。
満場一致でお風呂設置計画が始まった。
まず余っている一階の部屋に設置する事が決定した。
浴槽は2人くらいなら余裕で入れるものを購入した。
この世界ではお風呂はお湯を温める魔道具にマナを注ぎ込む事でお風呂に入っている。
なので銭湯の店主の大半は高魔力保持者なのだ。
なんやかんやあって半日で風呂は完成した。
「やっと完成したな。これで風呂で泳げるぜ!」
マサキがグッと拳を握りながら言った。
風呂で泳ぐとか子供かよ……
そう思ったが黙っといてやった。
「まあ勿論最初に入るのは私よね。」
ラノがドヤ顔で言ってきた。
なんでお前が最初なんだよ。
「いやいや俺だろ。」
俺が反論するとラノがムッとした表情をした。
「あのぅ……エノも一番に入りたいですぅ。」
エノまで一番風呂がしたいと言ってきた。
どうしよう。俺ジャンケン弱いし……
「なあ美少女三人!俺が一番風呂入るに決まってるだろ!」
マサキが偉そうに鼻をフフンと鳴らして言った。
「「「お前はスライム風呂にでも入ってろ!」」」
俺達女三人が怒号のハモリが決まりマサキがまたシュンとなった。
こいつ意外とメンタル弱いんだな。
「そんなに争うんだったら三人で入ればいいじゃねぇか!」
泣き目のマサキが言ってきた。
いやいやラノとエノは二人で入っても大丈夫だと思うが俺は流石に不味いだろ。
「いいんじゃない?」
「私も賛成ですぅ。」
え?やめとこうか二人とも。
俺は見た目はロリっ娘中身は男子高校生だぞ!
しかし雰囲気に流されてしまって脱衣所まで来てしまった。
やばい!二人が上着を脱ぎだしたぞ。
俺は下を向いて着替えた。
しかし見えたのは自分の胸に付いている下着であった。
自分の体も見れないんだけど……
銭湯通いの時はあまり意識していなかったのだが。
極度の罪悪感に見舞われながらもなんとか脱ぎ終わった。
「アリス遅い!」
「アリスちゃん遅いですぅ。」
浴槽に入ると二人が気持ち良さそうにお風呂に入っていた。
湯気のお陰で見てはいけない場所が見えなくて良かった。
しばらく入っていると違和感を覚えた。
「なんか誰かに見られてない?」
ラノが心配そうに言った。
エノもうんうんと首を縦に振っていた。
気のせいかと思ったがやはり誰かにまで見られている様だ。
しかしそこまで広い浴室ではなく窓もないのに何処から誰が覗いているのだろう。
考えるためふと上を向くとそこにはロープで天井にぶら下がっているマサキがいた。
ミッションインポッシブルかよ!
俺はそう思ったがまずは二人に教える方が先だろう。
「天井の柱の模様面白いなあ。」
俺が二人が天井を向く様に誘導した発言をするとマサキの顔が引きつった。
二人は上を向いて俺の発言の意図を悟り胸を手で覆い隠した。
「マサキ!何覗いてんのよ!ていうかガン見じゃない!」
「マサキ君後でお話がありますぅ。」
お二人はお怒りの様だ。
面白いのでこっそりマサキのロープを圧縮して切ってやった。
勿論マサキは浴槽に落ちて来た。
お二人は腕をパキパキと鳴らしてそれぞれがタオルで身を隠しながらマサキに近づいていった。
「いや違うんだ美少女三人!俺は柱を直してただけで……」
「すみません覗きに来てました。でっ、でも湯気で見えなかったしノーカンって事で。」
次の瞬間マサキに俺を含めた美少女三人の怒りの拳が炸裂した。
結局マサキは一週間の小屋への侵入禁止という罰則が課せられたのであった。
そしてエノはマサキに毎日お仕置きをしていい権利をラノから貰ったのである。
しかも追い討ちをかけるようにラノが町中の人々にこの事を言いふらした事によってマサキはしばらくの間“変態の化身MASAKI”というあだ名で呼ばれる羽目になった。
場所はボルケニオン王国首都“ボルニア”に位置する城“ボルニア城”。
国王“ボルケニオン”と家臣たちが長机を挟んで会議が始まる。
「諸君。最近魔王ヒデキとの戦いが激化していることは知っておるな!」
国王の言葉を聞いて家臣たちは首を縦に振る。
「いいか諸君。我々は何としてもーー魔王を倒しこの世界を我が物にするーー。魔王如きに世界征服の邪魔をされてはいけないのだ!これからはより一層魔王軍駆逐に励め!それと分かってはおると思うが世界征服の件については口外しないように。」
「「「はっ!」」」
家臣達は命令を承諾した。
国王は自らの目的を成し遂げる為に魔王軍と戦っている。
しかし魔王軍と戦っている冒険者や騎士達は国王の野望を知らずいる。
この野望がこれからのボルケニオン王国の運命の歯車を狂わしていく事になる。
旅行でなかなか書けなくてすみません。
誤字脱字がありましたら感想にてお伝えください。