第2話 パーティーに入るのは困難である
評価等して頂けると幸いです。
この町で暮らしていて分かったことがいくつかある。
この町は“ボルケニオン”という国にある小さな町“ファスト”という所だという事。
この世界のお金の単位は“ユキチ”といって価値は日本円と同じだという事。
やっと冒険者デビューを果たした俺だがまだどこのPTにも入っていないことに気がついた。
冒険者といえばPTだ。
前衛職で皆を守る騎士や魔法を使い広範囲の敵を攻撃したり弱体化させたりする魔法使い、そしてPTの統率や作戦考案を担うPTリーダーが互いを助け合い1人では倒せない敵も力を合わせて倒す。それが俺の中のPTのイメージだ。
確か“ギルド”の掲示板などにPTメンバー募集の紙がいくつかあったから面接を受けてみる事にした。
1つ目のパーティーは……
「あなたの名前は?」
「アリスです。」
「ま、魔女と名前が同じなんだな……」
「そ、そうなんですよ。よく間違えられて困るんです。」
すみません。俺は本物の魔女です。
「そ、そうか……だよな。魔女がこんな何もない町にいるわけないよな。」
大変申し訳ありません。この町に空間を司る魔女がいるのです。
「それで君の職業は何なんだ?」
え?ここで正直に言うと魔女ってバレるじゃん。自分が魔女なんて口が裂けても言えない……
でもいつかはバレるのだし正直に言った方がいいか。
俺は決心して口を開いた。
「私は“魔法使いです。」
すみません。すみません。俺は嘘をつきました。俺は魔法使いではなく魔女でございます。
「そうなのか。それでどんな魔法を使えるんだ?」
あ……忘れてた。俺まだ魔法を覚えていないんだった。
どうしよう……いっそ凄そうな魔法使えるって言っとくか!
「核魔法を使えます。」
どうだ?強そうな魔法だろ?
「核魔法って何だ?聞いた事ないな……」
うん。詰みましたね。
もう無理だと思ったので断る為の言い訳を使った。
「あなたの顔がムカつくのでこのPTに入るのは遠慮しておきます。」
やべ!つい本音が。
「あ?いい度胸だな。俺は女だからって手加減はしないぜ?」
男が俺の胸ぐらを掴んできた。
「キャー変態!私を犯さないで!」
そう言って逃げようとすると男は女性冒険者の冷たい視線を感じその場を去っていった。
危なかった。女に転生してて良かったとつくづく思う。
その後俺に変態扱いされた男は“ロリスト”という異名が付けられたのだが知ったこっちゃない。
2つ目のPTは……
「ほう……貴様が俺様の“殺戮の白虎に入りたいだと?」
あ……うんそういう人達ね。希望が見えてこない。
「やっぱり結構です。」
ここはきっぱり断る事にした。多分頭が残念な人達だ。
「え!?あっごめん。今PTに入るなら魔剣ストラップとかあげるよ!」
え!魔剣ストラップ!?いるわけねーだろ!
「間に合ってますので結構です。」
そう言うと厨二男は凄くガッカリしたようにため息を吐いた。
「そ、それでは失礼します。」
そう言って俺はそそくさと退室したのであった。
メンバーを募集しているPTはろくな人達がいないのではないのだろうか。
少し絶望に近いものを感じたので次で最後にする事にした。
3つ目のPTは......
「貴方がこのPTを志望する“アリス・スペス”さんですね。」
そう言ったのはこのPTのリーダーだという眼鏡を掛け、蒼色の綺麗なストレートヘアーの女性だった。
「はい。魔法が使えないのでお荷物になるかもしれませんが大丈夫ですか?」
「いえいえ。全然大丈夫ですよ。私のPTはちょっと問題児......ではなく変わった人が多いので。」
ん?今なんか聞こえた気が......この知的で良い人そうな人のPTが問題児ばかりの訳がない。
「という事は私はこのPTに入っても良いという事ですか?」
「勿論。これからよろしくお願いしくアリス。私の名前は“ラノ・ヘゼルダート”。ラノと呼んでね。」
俺がそう聞くと蒼髮の女性はにっこりと微笑みながら自己紹介した。
何この人可愛い!俺の嫁にする!
「あとアリス。貴方は空間を司る魔女“アリス・スペス”よね?」
え!?何故そんな事言ってるのこの人。
まさか正体がバレたのか。クソ……仮名使っとけば良かった。
「安心してアリス。私の加護は“真実の瞳”といってどんな嘘も見抜けるの。それに分かったのは貴方の正体だけではないわ。貴方が私に敵対心を抱いていないのも見抜いたわ。だから私は貴方を信じてこの事は誰にも言わないわ。」
おお!加護ってすげえ。それとこの人やっぱ良い人過ぎる。
きっとこの人のPTメンバーは良い人達だ。
「あとこれで私達も同じ仲間なんだから堅苦しく敬語なんて使わなくて良いのよ?」
「えっ?マジ!じゃあこれからシクヨロ。」
「急に軽くなりすぎてない!?」
ラノがツッコミを入れたが俺は気にしない。
こんな調子で俺はラノのPTメンバーとなったのである。
しかし最初のラノの忠告通りこのPTのメンバーは変わり者の集まりである事をまだアリスは知らなかった。
太陽がキラキラと輝く今日……ラノのPTメンバーとの顔合わせの日だ。
きっとラノの様に良い子で可愛い子達なんだろうな。
ぐへへ……楽しみだぜ!
俺がラノとの待ち合わせ場所に少し早めに着いて待っていると誰かがこっちに向かって走って来た。
「貴方がアリスちゃんですかぁ?可愛いですねぇ。私はラノのPTに入っているエノという者ですぅ。よろしくですぅ。」
そう言って来たのは銀髪でメイド服を着ている女性だった。
そして何よりその女性は爆乳と言わんばかりの胸の大きさだったのだ。
マジか!ラノのPTメンバーは美形揃いだと予想していたがまさか爆乳メイド属性までいたとは……レベル高いな。
「よろしく!」
俺が返事をすると同時にラノが走って来た。
「もー!エノりんったら走るの早すぎ。疲れるじゃない。」
「なあ他にパーティーメンバーはいるのか?」
「急に喋り方が男っぽくなったね……いるんだけどみんなで住んでる小屋があってそこで寝てるんだよ。」
少しラノが顔をしかめた様な気がした。
「それでその人はなんて名前なの?」
「“マサキ・イシカワ”っていう男の子なんだけどおとといPTに土下座してまで入りたいって言うから入れてあげたのよ……そしたら今じゃ引き篭もりになって困ってるのよ。」
なるほど……俺のハーレムライフの邪魔だな。
「追い出すか……」
「ま、まあ一回家に来てください。」
ラノによると待ち合わせ場所からしばらく歩いた所にみんなで住んでいる小屋があるという。
小屋っていうくらいだからそこまで大きくないのだろう。
住みやすいと良いな。
しばらく歩いているとラノが町の外れに見える小屋を指差した。
「あれが私達が住んでいる家よ!」
大きくはなかったが何人かで住める程の大きさであった。
ここに引き篭もりがいるのか……我がハーレム計画の邪魔をされては困る!
「お邪魔しまっす。出てこいニート野郎!」
俺が怒りながら叫ぶと中から人が出て来た。
「おいおいラノこいつが新人のアリスってやつか……!ろ、ロリっ子魔女!?」
マサキは驚いていたが何故だかは分からない。
でもあの喋り方はきっと異世界召喚者だろう。
「おい。マサキとかいう奴お前日本人?」
「勿論俺は生まれも育ちも日本だぜ!そ、それよりアリスちゃん……今日は一緒に寝ないか?」
は?初対面で抜何かしてんのこいつ。まさかロリ婚か?
これは利用できるぞ。
「マサキさんお小遣いちょーだい。」
俺の悪い心がそう言った。
「べ、別にいいぞ。だから今日は一緒に寝てくれ!」
やべ!かなり頭逝ってんぞこいつ。
まあ別に一線を超えそうになったらラノとエノりんを全力で呼べばいいか。
マサキは上機嫌で部屋に戻っていった。
「な、なあラノ。あいつロリ婚なの?」
「うん。かなり重度の……」
あ......身の危険を感じる。
マサキとかいう男の性癖はかなりやばいのかもしれない。
俺は今夜、とんでもない相手と寝ることになるのだ。
でも今は現実逃避するしかない。
「ラノ......この身にもしもの事があったらマサキを潰してくれ。」
「うん。アリス......頑張ってね。」
「なあラノ。ロリ婚野郎と相手してて気分悪くなったから気分転換に討伐クエストとかやってみたい。」
「良いわよ。そういえばアリス、メンバーの職業について説明してなかったね。
エノは癒魔法使い。
マサキは剣士。
私はPTリーダー。
覚えておいてね。」
ラノから説明を受けて“ギルド”に討伐クエストを受けに行く事にした。
「なあラノ。なんでマサキが来てんの?怖いんだけど。」
俺がラノに小声で聞いた。
「きっとアリスを守るつもりなんでしょ。」
マジかやっぱマサキは怖い。
“ギルド”に着くと冒険者たちが驚いた。
「引き篭もりのマサキが女3人連れてる!」
「引き篭もりのマサキがハーレム状態だ!」
「うるせぇ!お前ら。」
皆が引き篭もりと言い過ぎたのかマサキは少し怒りながら言った。
掲示板を見てマサキがクエストを持って来た。
「おいこれはどうだ?『ウィンドドラゴン討伐:報酬100万ユキチ』だって!俺ならウィンドドラゴンくらい余裕だぜ!」
マサキが見るからに強そうなドラゴンの絵が描いてあるクエストを持って来た。
「マサキ!ウィンドドラゴンなんてベテラン冒険者でも勝てるか勝てないかの相手よ!アリスちゃんに見栄を張りたいのは分かるけど死ぬわよ貴方!」
ラノがぷりぷり怒りながら言っていた。
「この『スライム20体討伐:報酬1万ユキチ』なんてどうでしょうかぁ?」
うん。流石エノ。常識的なクエストを出して来た。
「えっ?スライム!無理よエノ絶対無理よ。」
「ラノ......心配症はよくないぜ!」
俺がラノにそう言うとエノはほのかに笑った気がした。
ラノは渋々このクエストを受ける事にした。
クエストは甘くはなかった。マサキは『弱き者は切らぬ。』とか言ってスライムに攻撃しないしラノはスライムを見て気絶してしまっている。
動けるのは俺とエノだけだがエノは居眠りナウだ。
やばいどうしよう……スライムが強敵に見えてくる。
そうだ!ここで加護を使おう。確か空間を圧縮・拡張することができるんだったな。
俺はまず目の前にいる2体のスライムが入る程度の空間を100分の1に圧縮した。
するとスライムごと縮み、素手で潰せる大きさになった。
スライムを潰すと緑色の汁を出して死んだ様だ。
おお!加護強い。
今度は6体のスライムを100倍に拡張した。
するとスライムが急激な形状変化に耐えきれず破裂した。
またしてもスライム汁が飛び散った。
何これ!?チート級の加護やん。
今度は少しやってみたかった事を試してみる。
何十体もいるスライムの群れの上空に1万分の1に圧縮した高密度の空気玉を作る。
そして圧縮を解除した。
その瞬間!急に圧縮が解除された空気玉が一気に元の大きさに戻ろうとして炸裂した。
勿論スライム達は全滅した。
そしてスライム汁が雨の様に降って来た。
汚い……あとでお風呂に入ろう。
小屋に帰るのは一苦労だった。
俺とマサキは気絶しているラノと居眠りしてるエノをおんぶしてさらに今回のクエストの報酬10万ユキチを小屋に持ち帰ったからだ。
最後の1万分の1に圧縮して解放し炸裂させたのが威力が高すぎたため200体近く倒してしまったらしい。
そのおかげで報酬として10万ユキチも貰えたのだ。
小屋に帰ると俺はすぐにスライム汁を洗い流すために銭湯に行ってあったまって来た。
再度小屋に帰ると目覚めた2人が夕食を買って来てくれていた。
「いやぁ、アリスちゃんの活躍のお陰で沢山お金が入ったから今日は豪華にいきますよぉ。私もアリスの活躍見たかったなぁ。」
エノは七面鳥を持ってそう言った。
「本当だよエノりん!マジでオーバーキルだったから。マジでアリスちゃんぱねぇ。できるロリ。」
マサキが余計な事を言っていたのでマサキの食べる分の七面鳥を4分の3くらいに圧縮してやった。
「そういえばアリスちゃんの最後の炸裂に名前つけないか?必殺技みたいに。」
え?必殺技か......マサキも面白い事考えられるじゃねぇか。
うーん。爆発が起こったから......
「“核魔法:スペス・ボム”とかはどうだ?アリスの家名と爆弾って意味で。」
良い。良いよマサキ!
なんだ?めっちゃ良い仕事したな。
「いいね。それにしよう!」
こうして魔法の使えない魔女アリス・スペスの持つ必殺技“スペス・ボム”がマサキによって命名されたのである。
しかし俺は忘れていた。マサキ・イシカワはRORIKONNだと言う事を。
時は深夜。俺はマサキの部屋にいた。
「ぐへへアリスちゃんが隣で寝てるぜ。」
マサキは感激のあまりハアハアしてしまっている。
ああ、ロリ婚と寝てるよ俺。
そしてマサキは感情の高ぶりが抑えられなくなっていた。
「アリスちゃん。俺の“スペス・ボム”が我慢できなくなってるよ。」
そう言ってマサキは俺に抱きついて来た。
「や、めろ。」
「ぐへへ。アリスちゃんの肌柔らかい。」
そう言うと俺の上に馬乗りになり服を脱がそうとしてくる。
とっさに俺はかなり軽めのスペス・ボムでマサキを吹き飛ばした。
もうかなり怖くなったので今夜は自分の周りの空気を高密度圧縮してマサキが俺に触れないようにして寝た。
RORIKONNって怖いね。
俺のトラウマが一つ増えた夜だった。
書くの疲れた〜。
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