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21

作者: 待宵草

 ずっと、窮屈だった。やらなきゃいけないことが多すぎて。でも、やりたくなくて。やらないことは停滞だって分かっていた。やらなきゃ進まないことは分かっていた。でも、やりたくなくて。小さな言い訳を並べて、きっとどうにかなるとか開き直っていた。ずっと、窮屈だった。

 だからだろうか。珍しく人前で愚痴っていた。久しぶりに会った先輩に、溜まっていたことを話していた。先輩はずっと頷いてくれて、話をちゃんと聞いてくれた。帰りがけに、「これからの人生を頑張れよ」って言われた。嬉しかった。

 家に着いて中に入ろうとした時、急に星が見たくなった。ちょっと歩けば、街灯もなくて開けた場所に出る。そこまで行こう。居ても立っても居られなくて、走り出した。何年振りかの全速力。着いた時には、息が上がっていた。火照った顔で、空を見上げる。2月末の深夜の夜空は、ところどころ雲に覆われていた。雲の切れ間から星が現れる。北斗七星、アルクトゥールス、スピカ。春の大曲線が夜空を横切る。冬の星座は、西の空に沈みかけている。

 ふと、ある曲が頭に浮かんだ。やる気になる時に聴く曲。でも、歌詞が思い出せない。メロディーを口ずさむ。少しずつ思い出してきた。残るは、出だしの部分。思い出せそうで思い出せない。喉もとまで出かかっているのに。でも、こんな時間が何故か心地良い。ほんの数十秒の時間。やっと出てきた。その曲をそっと歌う。深夜の道端で、一人で歌っている自分。

「馬鹿だな」

そう呟く。

「馬鹿だな」

もう一度。

「馬鹿だよ」

そう言って、一人で笑った。夜空から顔を下ろし、帰り道を見た。走って帰ろう。馬鹿みたいにがむしゃらに。全速力で。溜まっていたものを吐き出すように。胸に手を当てると、心臓の鼓動はまだ早く脈打っていた。

「頑張ろう」

視線をまっすぐ前に向けて、一気に駆け出した。

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