表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
持ち去られた頭部と右手  作者: ASP
第二話
7/31

切断の理由

 万里子は解放された。ヒカリは万里子が無事に帰れるかどうか心配であったが、万里子はそんなヒカリに対して、甘えるようなことはしなかった。


 駅へと向かう万里子の後ろ姿を見送ると、ヒカリは和泉に尋ねた。

「さっき沢谷さんに、なんて言ったんですか」

 和泉は一瞬、沈黙した。

「まだはっきりとしたことはわかりませんが、死体の切断について、一つの可能性が浮かんできたのです」やがて、和泉が口を開く。「車でお話しましょう。ついてきて下さい」

 和泉は一台の車に向かった。覆面パトカーだろうか。一見すると、普通の乗用車に見える。

 車はエンジンをつけたままのようである。中に人が乗っているのだろう。


 助手席側の後部座席の前に来ると、和泉はドアを開けた。そのまま、車の中に首から先をいれた。

「お待たせしました」

 ヒカリからは見えないが、運転席側の後部座席に座る人物に話しかけたようだ。

「これから、日向ヒカリさんに同行して頂きます」

 そう言うと、和泉は次にヒカリを見た。

「出発します。乗って下さい」

「はい」ヒカリは車に乗り込んだ。


 隣に右側に座っていた男と顔が合った。その顔を見て驚愕する。藤堂朝陽である。朝陽が隣に座っていた。生きていたのだ。

「お二人は初対面のはずですね」助手席に乗り込んだ和泉が言った。「ヒカリさん。彼は藤堂夕輝(とうどうゆうき)さんです。朝陽さんの弟さんです」

 それはそれで驚きだ。一瞬、朝陽本人だと錯覚する程似ているではないか。言われてみれば、髪型が違ったり、眼鏡をかけていたりなど、朝陽とは違う特徴を持っている。だが、基本的に目鼻立ちのパーツなど、朝陽にそっくりだ。双子の兄弟なのだろうか。強引なまでに、そうヒカリに推測させてくる。


「夕輝さん。彼女が日向ヒカリさんです。アキラさんの……」

「はい、実はこちらは一方的に知っているんです」夕輝と呼ばれた男は微笑んだ。「美雪から、お話はかねがね。それから、うちに遊びにいらしたことがあったでしょう。そのとき、一度だけお見かけしたことがあります」

 ヒカリは全く気が付かなかったが、そうだったのか。


「日向ヒカリです。はじめまして」ヒカリは挨拶をした。

「藤堂夕輝です。妹がお世話になっています」夕輝が落ち着いた様子で返事を返す。

 妹とは、おそらく藤堂美雪のことだろう。美雪とは藤堂蓮を通じて知り合い、仲良くなった。『世話になっている』とは、アキラを家庭教師として推薦したことも兼ねているのだろう。


「そして、もう一人」和泉は言った。「運転席に座っているのが、奥野恭平(おくのじゅんぺい)巡査部長です」

「奥野巡査部長であります! 事件解決に向けて、粉骨砕身の覚悟で捜査いたします!」スポーツ刈りの男が運転席から顔をのぞかせた。骨ばった顔立ちに、つぶらな瞳がとてもギャップを感じさせる人である。

「さて、道すがら、情報を整理してみましょうか」和泉は言った。「奥野さん。出発しましょう」

「了解であります」奥野はそう言って、ナビを起動させる。ヒカリはシートベルトを締めた。


***


 ヒカリは移動中、死体発見の経緯を三人に話した。警察の事情聴取を受けているうちに、話を大分整理して伝えられるようになっていた。

「気になったのですが、ヒカリさん」和泉が言った。「遺体の右手が無くなっていたことには、気が付かなかったのですか」

「本当ですか? それ」

 ヒカリは全く気が付けなかった。死体は頭部を失っていたが、右手首も切断されていたのか。実は、警察が来る前に内緒で死体の様子を確認しようと考えたヒカリだったが、万里子の手前、遠慮していたのだ。


「おそらく、切断のタイミングは頭部と同じだったと考えられます」和泉は補足した。

 右に朝陽の兄弟がいるが、遠慮していては話が進むまいと思い、ヒカリは思い切って尋ねることにした。

「身元について、わかったことってあるんですか」

「ご遺体は大学病院に運ばれ、詳細は調査中の段階です」和泉は答えた。「当然、藤堂朝陽さんのものである可能性は第一に考えられるので、夕輝さんに確認して頂きました。今はその帰りというわけです」

「結局、わかりませんでしたが」夕輝は言った。「流石に首から下だけでは、ね」

 夕輝は少し気分を悪そうにしていた。


「わかったのは、死亡推定時刻くらいですね」和泉は言った。「昨晩の八時以降です」

「夕べ、朝陽君は万里子を『call(コール)』で誘ってますから、その後ですね」ヒカリが思い付く。

『call』は世界的に流行しているSNSである。掲示板、ブログ機能、チャットによる会話機能や、無料電話などがあり、使い勝手が良く、若者を中心とした利用者が多い。


「万里子さんの話では、それがだいたい七時半より前だったそうです。履歴も確認させて頂いている筈です」

 『call』で万里子と約束をした人物が偽物でない限り、まさに死の直前の会話だったのだろう。万里子と会話を終えて、早ければ三十分後には、何者かが朝陽を殺害した。イメージすると恐ろしい話だ。


「ところで、ヒカリさん」和泉が呼び掛けた。「朝陽さんの部屋ですが、鍵が掛かっていなかったのですよね?」

 ヒカリは朝陽のアパートに着いたときのことを思い出す。その後の事情聴取で、死体発見の再現を何回か繰り返したときのことも思い出した。

 間違いなく、万里子はドアの鍵を開けようとして、逆に閉じてしまった。つまり、もともと鍵は開いていた。

「そうです。鍵は開いてました」ヒカリは言った。

「そこなんですよね……」和泉は少し考え込んだようだった。

 鍵が掛かっていなかったのが、そこまで不自然だろうか。ヒカリは考えた。確かに、用心深い犯人であれば、死体発見を遅らせるために鍵を奪って閉めることくらいはやりそうなものだ。だが、別に閉めずに逃げたとしても不思議なことはない。鍵を持ち出すという発想は、そうそうできるものじゃない。

「まあ、後で考えるとしましょう」和泉は言った。


「あの」ヒカリはずっと気になっていたことを切り出した。「和泉さんは、今回の事件をどう思ってるんですか」

「難しい事件です。ただでさえ、殺人の動機を探らないといけないのに、死体を切断した理由まで考えなきゃあいけない」和泉は言う。

「その理由について、思い当たることがあるんじゃないですか」ヒカリは言う。「普通に考えたら、朝陽君に強い恨みを持った人が、残酷な殺し方をしたんだろうなって考えになりますよね。でも、怨恨の線を調べるのなら、警察の得意分野でしょ? なら、和泉さんは別にアキラに協力させる必要なんてない」


 和泉は黙って聞いている。夕輝は腕を組みながら静かに聞いていたが、その表情は驚いているように、ヒカリには見えた。

「切断の理由はただの怨恨じゃなさそうだって、和泉さんは思ってるんじゃないですか」ヒカリはダメ押しとばかりに言った。「もしかして、夕輝さんに何か心当たりがあったんじゃないですか」


 車内に沈黙が訪れた。しかし、それは和泉によって、早々に破られた。

「誤解せず、聞いて下さい」和泉はゆっくりとした口調だ。「まず、この事件の捜査体系はかなり大規模です。その理由は、朝陽さんのお父様が、財界に棲んでおり、かなり大きな力を持った方だからです」

 そうだ。藤堂はかなりの権力持ちである。ヒカリは思い出した。つまり、警察はこの捜査に全力を注ぐと和泉は言いたいのだろうが、話がまったく繋がらない。

「それゆえ、我々はかなりの人数で捜査をすることになります。私や沢谷警部、奥野巡査部長以外にも、捜査をしている刑事は何人もいる。警察は貴女の言う通り、強い怨恨を持った人間による犯行であるという前提で、捜査方針を定めています。現段階では、ね」


 和泉はわざと勿体をつけているわけではない、とヒカリは思った。言葉を選んでいるのだ。ヒカリのようなもの相手に、意味のないことだとは思ったが、丁寧で慎重な部分も和泉の売りだ。

「これからお話しすることは、捜査本部の総意ではないと思って下さい。私個人は怨恨よりもこちらの説が、より気になるというだけのことです」和泉は言った。「夕輝さんからお聞きした説です。夕輝さん。もう一度、お話して頂けますか」

「わかりました」夕輝は頷いた。「とは言っても、そんなに難しい話ではないんですけどね」


 夕輝は腕組みを解き、両手の指を組んだ。

「うち、朝陽の実家には、宝物庫があるんです。ヒカリさんもご存じだと美雪が言っていましたが」

 ヒカリは以前、朝陽に宝物庫を見せてもらったときのことを思い出した。

「はい。朝陽君に見せてもらいました」

「そのとき、宝物庫の扉を開けるために、朝陽は手のひらと瞳で認証を行い、ロックを解除したと思います」

「もしかして」ヒカリは夕輝が何を言いたいのか、理解した。

「犯人はうちにある宝物庫のセキュリティを解除するために、朝陽の頭と右手を利用したんじゃないかと思ったんです」


 認証を持たない者が、宝物庫に侵入するための、まさかの方法。認証を持つ者の手のひらと網膜を奪い取り、認証を行う。

「宝物庫に泥棒に入るために、セキュリティの解除に必要な朝陽君のパーツを、切断して持ち去ったってことですか」ヒカリは言った。

 座席越しに、運転中の奥野が息を飲み込むのが、ヒカリにも伝わった。


「今日の昼ごろに宝物庫に入ったとき、一枚の絵画が無くなっていたんです。朝陽が持ち出したのだろうと思いました。しかし、朝陽を殺した犯人が盗んでいった可能性がある。……そう思いました」

 現実にそんなことをする者がいるのだろうか。ヒカリはにわかには信じがたい気持ちだったが、一方で夕輝の話には説得力があるとも感じた。


「ご遺体が本当に朝陽さんなのか、まだ調査中です」と和泉。「もしも、本当にそうであるなら、今の夕輝さんの説は無視できないでしょう?」

 ヒカリはようやく和泉の考えを理解した。殺人の動機に依って捜査をするより、宝物庫破りの可能性を追求する方が、和泉らしい方針の立て方だ。


 そして、今の説が正しいとなると、宝物庫と、そのセキュリティのことを知っている人物が犯人だということになる。また、動機のような心理的側面でなく、合理的側面からのアプローチであり、論理的な思考能力が求められる考え方だ。どす黒い感情による行動のブレを考慮しないなら、理詰めで物事を考えていくのが一番である。そういうものの考え方は、アキラの得意分野だ。

 ヒカリの中で、和泉の思考が明るみになってきた。


「これから藤堂家に行くのは、宝物庫を調べるためですか」ヒカリは和泉に訊く。

「ええ、何かしら分かることがあるかもしれませんからね。それだけではなく、ご家族から朝陽さんについてお話を伺いたいと思っていますが」和泉は答えた。

 もし、宝物庫から侵入者の痕跡が見つかったらどうなるだろう。ヒカリは考える。それは、あの死体が朝陽であることが確定してしまうということだ。ヒカリは夕輝を見たが、彼の表情からその胸中を伺うことは出来なかった。


「ヒカリさん。だいたい疑問は解けましたか」和泉が尋ねてきた。

「あ、はい」


「では、夕輝さん」和泉が今度は夕輝に呼びかける。「ちょっとフライングになりますが、朝陽さんがどんな方なのか、お話をお聞きしたいのです。ご自宅でも聴取をさせて頂くので、二度手間になります。申し訳ありません」

「わかる範囲でなら」夕輝は静かに答えた。「ただ、朝陽とは疎遠になっていましたから。あまりお話しできることはないと思います」


「朝陽さんはお一人で暮らしていますね。疎遠になったきっかけは、朝陽さんが実家を出られたからですか」和泉が聞く。

「いいえ、逆です」夕輝は間髪いれずに言った。「家族が朝陽と仲違をして、朝陽は出ていったんです」

「仲違ですか」和泉は少しも遠慮する様子はない。「その理由は?」

 夕輝はため息をついた。

「朝陽が大学を辞めてからおかしくなりました」よくある話です、夕輝は続けた。「朝陽は大学に通っていました。有名な国立大です。父や僕……、おそらく全員、朝陽はこのままエリートコースを歩んでいくのだろうと、信じ切っていました」


 ヒカリは夕輝の顔を見るが、無表情で冷めた印象を受けた。

「五年ほど前、朝陽は大学を突然辞めてしまいました。『自分はもう自由に生きていく』と朝陽は言っていました。あの時ほど、父が怒ったことはありませんよ。それが原因で、朝陽と父はしょっちゅう喧嘩をするようになりました」

 夕輝はいったん区切る。

「父と朝陽は荒れました。僕は当時まだ大学一年でしたが、物事の分別くらいはつくようになっていたつもりです。正直、朝陽の身勝手さに呆れましたし、父が毎日怒っているのは朝陽のせいだと思いました。朝陽も何を考えているのかわからないし、ずっと苛ついていました」


 ヒカリは万里子と一緒にいた朝陽のことを思い出す。飄々としていながら、自信に溢れていた人だったが、そのような過去があることに驚いた。

「ある日、僕は朝陽に父に謝罪するように言いました。もちろん、朝陽は謝るはずありません。それどころか、僕のことを口汚くなじったんです。逆ギレってやつですよ。朝陽に対して、完全に失望しました。やがて、家に居づらくなったんでしょうね。朝陽は一人暮らしを始めました」

「その後、朝陽さんとお話は?」和泉がキリのいいところで質問する。

「……してないと思います」夕輝はやや自信なさげに答えた。

「では、会ったりもしなかった?」

「いいえ、朝陽はときどき実家に帰ってくるんです。会話はしなくても、顔を合わせるときぐらいは何回かありました」夕輝は答える。

「では、現在の朝陽さんについては、ほとんど何も知らない状態なんですか」和泉は淡々と質問する。

「いえ、下の妹だけは、朝陽と連絡をとっているんです。妹から朝陽の話を聞くことだけはありました」

 下の妹というと、美雪のことだろうとヒカリは思い至る。朝陽には、美雪と蓮の他にもう一人妹がいたはずであったが、ヒカリと面識はない。


 それにしても、夕輝はあまり嫌な顔をせずに家庭の事情を話すものだと、ヒカリは思った。心に多少の抵抗があっても、相手が警察であるから素直に答えているのだろう。だが、なんとなくヒカリは、夕輝は事実を事実として割り切っているのだと感じ取ることができた。アキラと同じタイプで、外聞に対する執着が薄いのだ。


「ということは、妹さんは、朝陽さんとの関係は悪くなかったのですね?」和泉が確認した。

「その妹は朝陽とああなった当時、まだ中学二年生でした。反抗期が一番強い頃だったので、朝陽に共感したんだと勝手に思っています。あるいは、事情をよく知らなかったのでしょう」

 なるほどね。和泉は一回頷いた。


「その妹さんから、朝陽さんの様子を聞いていますか」再び和泉が質問する。

「いえ、これといって特にはないと思います」夕輝は考え込んだ。「ああ、インディーズで曲を出すとか。それくらいだと思いますけど」

 全く寝耳に水な話である。凄いことではないか。朝陽がフリーターをやりながら、音楽をしていたのは知っていたが、そんなところまで行っていたとは思わなかった。万里子からは、そんな話は一言も聞いていない。


「そうですか。では、交友関係についてはどうでしょう」和泉は別段驚いた様子もなく、話を促す。

「ううん……。わかりません」夕輝は首筋に左手を当てた。「友達が多いのは知ってますけど、その中で僕が知っているのは、ヒカリさんだけだと思います。それもアキラ先生が美雪の家庭教師を始めてから、美雪と先生の会話を聞いて知ったくらいです」

 『アキラ先生』で噴き出しそうになったヒカリである。


「まあ、朝陽について知ってることは、妹のほうが多いと思いますよ」夕輝は言った。

「その妹さんが知らないようなことを、夕輝さんはご存じないですか」

「そうですね……」夕輝は考えていた。ヒカリは僅かに夕輝の表情が変化したことに気が付いた。何だかわからないが、違和感を覚える。


「あ、電話みたいです」何故か夕輝は腕時計を見た。「出てもいいでしょうか。うちの家政婦です」

「どうぞ」和泉は言った。


 夕輝はズボンの右ポケットから携帯電話を取り出した。携帯が空気に触れたが、ヒカリにはバイブレーションがわからない。気のせいだろうか。夕輝の携帯は全く震えていないように感じた。

「もしもし」夕輝は携帯を左耳に当て、通話を始めた。「いや、まだ決まったわけじゃない。……死体が切断されて、判別がつかない。……ああ。悪いんだけど、朝陽の部屋に死体があったことは、もう皆に伝えておいてほしい」

 事件のことを、家族には伝えずに来たのだろうとヒカリは想像する。美雪も蓮も、このことをまだ知らないのだろうか。もし知ったら、どんな気持ちになるだろうか。そのときのことを考えると、ヒカリは胸が痛くなった。


「今、帰り道だ。警察の人が一緒。帰ったら、詳しい説明をしてくれる。……ああ、ちょっと皆にも話を聞きたいそうだから、そのことも伝えておいてほしい」夕輝は一拍置いていった。「多分、長くなると思うから。今日の勉強は中止にしてもらってくれ。それどころじゃないしね。それから、警察の人が先生にも話を聞きたいらしい。先生に伝えてくれないかな。和泉警部補という方で、先生と面識があるそうだ。……うん、……うん。言いにくいだろうけど、なんとか頼むよ。……僕は大丈夫。じゃあ、切るよ。続きは後で」


 夕輝は右手に携帯を持ち替えて、親指で通話を切った。右手の親指にはめられている、簡素だが上品なリングが目立つ。

「すみません。話の途中でしたね」夕輝は和泉に言った。「とにかく、朝陽の身辺のことであれば、妹だったり、朝陽の友人だったりの話を聞いた方が参考になると思います。僕だけ知ってるようなことって、無いんじゃないかな」

「そうですか」

 和泉は特に落胆した様子も、疑っている様子もない。ただただ、フラットに夕輝に質問を繰り返している。聴取に慣れるとこうなるのだろうか。


「今の電話は、家政婦さんですって?」和泉は尋ねた。

「ええ、そうですが」

「ご兄弟には、まだ今回の件は?」

「伝えないで、家を出ました」夕輝は言った。「これからのことを考えると、気が重いですよ。朝陽は……死んだのでしょうね」夕輝はため息交じりにぼやいた。

「まだ決まったわけではありません」和泉は言った。


 しかし、ヒカリには和泉の言葉が夕輝には届いていないだろうと思った。夕輝が言った最後のくだりから、彼の疲労が僅かに伺える。ようやく見えた、夕輝の本心のように感じられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ