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持ち去られた頭部と右手  作者: ASP
第四話
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閑話~桐生~

閑話.


 二十二日、夜。桐生はソファで力なく横たわっていた。客人であるヒカリと家庭教師のアキラが桐生を気遣い、休ませてくれたのだ。彼等を離れに案内した後、桐生は二人の厚意に甘え、まだ休んでいることにした。


 事件の発覚の後、気丈を装うにも限界を感じていた自分が居た。彼の死は、本当の事なのだろうか。自分は悪夢を見ているのではないか。そう思えば思う程、桐生の心は徐々に蝕まれていく。夜が更けていくにつれ、桐生の視界も闇に包まれていくような錯覚に陥った。


 錯覚なんかじゃ、ない。


 くぐもった声が、桐生の胸中に響き渡る。


 彼は自分の光だったのだ。彼の名が示す通り、美しい輝きを自分に与えてくれた。彼を失くしては、この世は闇夜も同然だ。

熱い滴が頬を伝い、とめどなく流れ出す。

「う、う……」気が付けば、桐生は嗚咽を上げていた。痙攣を起こしたように、声は止まってくれない。食いしばった歯を、すり抜けては漏れていく。


 どうしてこんなことになったのだろう。

 自分の愛がもっと強ければ、彼はあんな目に遭わなかったのではないか。

 所詮は独りよがりだったのか。


 自責の念に何度も押し潰されそうになる。

 そう考える度に、腐食した鉄の臭いがせり上がる。とうに空っぽになったはずの胃の奥から悪心(おしん)が迫る。桐生は口を手で塞いだ。


 何てざまだろう。心中で毒づき、自身を叱咤した。このままでは、駄目だ。彼との愛への疑心を持つことなどあってはならないのだ。

 首に掛けられたネックレスに通した大切なリングを、もう一方の手のひらで強く握りしめた。このペアリングを贈ったときのことを桐生は思い出す。


 あのときから守られていた幸せを、桐生は守り続けなければならない。それが例え、ボロボロに朽ち果てた偶像だとしても、守り続ければならないのだ。このリングに込められた、愛に懸けても。


 必ず、私が守る。


 強い決意の裏のどこかで、救いを求めている自分から必死に目を逸らす。

 どうか助けて下さい。そう神に祈ってさえいるのに。


第四話終了です。

この後、問を投稿し、シンキングタイムをとります。

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