閑話~桐生~
閑話.
二十二日、夜。桐生はソファで力なく横たわっていた。客人であるヒカリと家庭教師のアキラが桐生を気遣い、休ませてくれたのだ。彼等を離れに案内した後、桐生は二人の厚意に甘え、まだ休んでいることにした。
事件の発覚の後、気丈を装うにも限界を感じていた自分が居た。彼の死は、本当の事なのだろうか。自分は悪夢を見ているのではないか。そう思えば思う程、桐生の心は徐々に蝕まれていく。夜が更けていくにつれ、桐生の視界も闇に包まれていくような錯覚に陥った。
錯覚なんかじゃ、ない。
くぐもった声が、桐生の胸中に響き渡る。
彼は自分の光だったのだ。彼の名が示す通り、美しい輝きを自分に与えてくれた。彼を失くしては、この世は闇夜も同然だ。
熱い滴が頬を伝い、とめどなく流れ出す。
「う、う……」気が付けば、桐生は嗚咽を上げていた。痙攣を起こしたように、声は止まってくれない。食いしばった歯を、すり抜けては漏れていく。
どうしてこんなことになったのだろう。
自分の愛がもっと強ければ、彼はあんな目に遭わなかったのではないか。
所詮は独りよがりだったのか。
自責の念に何度も押し潰されそうになる。
そう考える度に、腐食した鉄の臭いがせり上がる。とうに空っぽになったはずの胃の奥から悪心が迫る。桐生は口を手で塞いだ。
何てざまだろう。心中で毒づき、自身を叱咤した。このままでは、駄目だ。彼との愛への疑心を持つことなどあってはならないのだ。
首に掛けられたネックレスに通した大切なリングを、もう一方の手のひらで強く握りしめた。このペアリングを贈ったときのことを桐生は思い出す。
あのときから守られていた幸せを、桐生は守り続けなければならない。それが例え、ボロボロに朽ち果てた偶像だとしても、守り続ければならないのだ。このリングに込められた、愛に懸けても。
必ず、私が守る。
強い決意の裏のどこかで、救いを求めている自分から必死に目を逸らす。
どうか助けて下さい。そう神に祈ってさえいるのに。
第四話終了です。
この後、問を投稿し、シンキングタイムをとります。




