第8部分 公園でトーク! って、リア充の奴らの放課後って、いっつもこんな感じなの?
3月13日 一部修正、加筆を行いました
3月25日 スマートフォンで読みやすくするために改行を増やしました
村木に案内された公園はだだっ広いくせに、他に人がいなくて春だというのになんとなく寂しげだった。ベンチに寝転がっている桂木に声をかけるとすっくと立ち上がりボクサーのようなファイティングポーズ。
「なあ、それって最近女子の間で流行ってんのか?」
「何がよ」
「指出しグローブだろ? お前が着けてんの。制服にそのコーデはないだろ。お前にはな! 」
ミニスカートの裾が大きく揺れた。咄嗟に地面に伏せる。後頭部に何かが乗せられた。多分、桂木の足。踏みつけられている。必死に首をひねって、桂木の姿を捉えようとした。よし、見えた。
「何やってんの? お前ら」
桂木は俺を踏みつけている。俺は桂木のパンツを見ている。ただ、それだけだ。見てわからないのか。
「あーちゃん、やめなって。人が見たらいじめだよ」
「だって、こいつムカつくんだもん。写真のことも聞き出さなきゃだし」
「これじゃ、山川も話せないよ。それにこいつ、あーちゃんに踏まれて少し嬉しそうだよ」
村木は悪戯っぽく笑って俺を見た。リア充と非モテとはいえ男同士。多少は分かり合えるかもしれない。
「え、うそ。ヤダ、ちょっと」
慌てて、後ろに下がる桂木。スカートの裾を抑えている。顔は少し赤かった。
「見たでしょ?」
「何を?」
睨み合う俺と桂木。
「いいから、お前も早く立て」
村木に急かされた。
もう少し桂木をローアングルから眺めていたかったのに。やっぱり、村木とは分かり合えそうもない。
「絶対見たでしょ?パンツ」
「はあ? 見てねえし。気にしすぎじゃねぇのか」
「まあ、あの体勢じゃ見えないよ。それより、これでも飲んで落ち着きなよ」
俺たちは村木を真ん中にして、ベンチに並んで座った。桂木は、まだ睨みつけてきたけど、気にしないで村木から受け取ったコーラの缶を開けた。
コーラが噴出した。急いで缶を口で塞ぐ。それでも抑えきれなくて、口の周りから溢れ出しやがった。
「あはは、バーカ。ひっかかってやんの」
桂木は大声で笑いだした。
村木が耳元で囁く。
「パンツ覗いてたろ?。これはその罰」
俺は黙って、人差し指で桂木の方を指さした。村木が顔を向ける。
笑い転げる桂木のスカートの中身は丸見えだった。
さっきは黒かと思った。
この女は分かってる! とも思ったもんさ。
だが!
撤回する!
だってよく見たら……
こいつのパンツはスポーティ。
こいつ絶対、男の気持ちが分かってない!
こんな女とは分かり合えなえくて結構だ!
「あーちゃん、パンツ見えてるよ」
村木はフツ―に冷静だ。コイツも男のクセにホントに分かってないな! いや分かってないから冷静なのか。
「え、うそ。マジ?」
跳ねるように立ち上がると桂木は俺を指さし言った。
「アンタ、サイテー」
「はいはい。どうせ俺はサイテーですよ。そんなことより早くスマホ返せよ」
考えてみたら俺が公園までわざわざ付き合ったのはスマホを取り返すためだった。桂木なんかのパンツを見てる場合じゃない。
どうせスポーティだし!
「そうだ、あーちゃん。さっきのスマホ貸して。もう一回、ちゃんとよく見てみようよ」
桂木はスマホを村木に手渡す。
スマホをいじり始めた村木が言う。
「あれ? ロックがかかってる。よかったな。山川。多分、彼女の方から連絡あるかもしれないぞ」
「なんでそんなことが言えるんだよ?」
連絡があれば嬉しいけど、無理に決まってる。だって彼女に俺の電話番号を聞かれてないからな!
クソっ。モタモタしてないで俺から教えておくんだった。
「スマホってさ、失くしたときのために遠隔操作でロックかけられるんだよ。ロックをかけたってことは、GPS機能でこの場所も分かっている可能性がある。そういうこと」
「ふーん、お前、詳しいな」
「こんなの常識だっての」
俺と村木のやりとりに桂木が割り込んできた。
「そんなのどーでもいいって。こいつ、あんな写真撮ってんだよ。ひどくない? トイレであの娘大変だったんだからね!」
桂木は腕を組み俺を睨みつけて言った。
「しかも、私のパンツ覗いてたんだよ!」
村木が桂木の肩を軽くポンポンと叩いた。桂木はフンと鼻を鳴らしてベンチに座って一言呟いた。
「それに入学式の時からなんかキモイし」
え? マジで? あの時からですか? 桂木さん?
目を見開いてただ口をモゴモゴしている俺をまっすぐに見つめながら村木が言った。
「山川、言いたいことがあるなら聞くけど?」
俺は黙っていた。今朝のことは彼女に口止めされている。
って言うか、この状況で何か言えるか!
「言わないなら、このこと学校の掲示板サイトにあげちゃうけど」
村木はニヤけていた。
「ダメよ。この娘が可哀想」
桂木が真顔で言う。
俺は力づくでもスマホを取り返すことに決め、立ち上がった。桂木は無理そうだけど村木になら勝てる。村木に勝っても、そのあと桂木にボコれそうだけど。心はさっきボコられたけど。
それでもやる。俺だけならまだしも彼女の人生を汚されてたまるか!
「あーちゃん、そんな怖い顔しないでよ。山川のことだけ。山川が入学式に遅刻したのはパンツ脱いで鼻血だしてニヤケてたからだって」
「なら、まあいいか」
俺と桂木の声が重なった。
「いいのかよっ!」
村木と桂木のツッコミが重なった。
村木が続けて言う。
「お前、俺だって本気じゃないぞ。ちょっとからかっただけなのに。なに言ってんだよ?」
「別に俺のことはどう思われたっていいんだ。でも、彼女のことは守ってあげたい。なあ、俺のことなら好きにしていいから、それ返してくれよ。マジで頼む」
気が付いたら土下座していた。
体が勝手に動いていた。
ああ、習慣って恐ろしい。
「頭あげなよ。冗談だよ。マジになるなって」
「そうよ。うちらが悪いみたいじゃん」
「お前ら俺を脅迫してたんですけど」
俺は二人の顔を見上げてツッコんだ。
二人は一瞬見つめ合ってから、大声で笑い始めた。明るく楽しく生きてきた美男美女。お似合いのカップル。そして、その前で土下座している俺。他の人からは俺たち3人はどう見えるのだろう?
俺は立ち上がると、手と膝に付いた砂を払って、ベンチに腰をおろした。村木が隣に座る俺の頭をまじまじと見て言う。
「お前その頭、もしかしてストパーか?」
「え? 急になんだよ?」
「髪型。いや、不自然にまっすぐだから。気になっちまった」
「よくわかったな。俺、天パなんだよ。しかもパーマかけてんじゃねえよって、中
学のときヤンキー達に目をつけられちまった」
「なるほどね。それでストパーかけたのか。うちの高校にはヤンキーなんていないだろ」
「いや、やっぱ天パじゃモテないだろ」
「そっちかよ!」
「そういうお前だって、薄く茶色に染めてんじゃねえか。これ以上、モテてどうすんだよ?」
「これは、地毛なんだよ。中学の時は黒く染めてたけどな」
「何だ。お前も学校のヤンキーにビビッてたのか?」
「違うよ。俺の中学私立だしな。ヤンキーなんていなかったけどさ。中学生なんかで電車通学してるとさ、くだらない言いがかりつけてくる奴がいるんだよ。別にビビってたわけじゃないけど、たかが見た目なんかでトラブル起こすの馬鹿らしいだろ?」
たかが見た目か。モテる奴ってのはさらっと言いやがる。
「くっだらない」
桂木が割り込んできた。
「別にビビッてたっていいじゃない。怖いものは怖い、何がいけないの?」
「いや、あーちゃん。俺は事実を言ってるだけだから」
「泣き虫だったくせに」
「それは、小学生のころの話だよ。俺は中学に入ってからは一度も泣かされてないから。なあ、山川。お前、証人になってくれよ。見たことないだろ? 俺が泣いてるところ」
「当たり前だろ。初対面なんだから。って言うか、お前、涙目だぞ」
「泣いてないもん!」
叫び声だった。こいつ、そんなに気にしてんのか? って言うか、泣いてないもんって、お前は小学生か!
思わず、村木の顔を見つめてしまう。
村木は顔を赤くして、瞳を大きく開いて、ただ俺を見ていた。つい目を逸らしてしまった。
「ごめん」
俺は深く頭を下げた。なかなか顔を上げることはできなかった。笑われるのには慣れているけど、人の泣き顔を見るのには慣れていない。
肩を軽く叩かれた。
顔を上げると村木の顔が目の前にあった。涙は流れていなかった。ただ、唇が少し震えていた。その震えはだんだんと大きくなり、ついには完全に開ききった。
「あははは」
村木は腹を抱えて笑い出した。
「なんで?」
予想外の出来事にそんな言葉しか出なかった。ひとしきり笑い終わると村木がおどけて言う。
「人を動かすにはいろんな方法があるのだよ。チミィ」
「お前は悪い政治家か!」
クソっ。騙された。悔し紛れにツッコむ。
「そうなるって決まってるんだよ。俺は」
なげやりにそう言う村木の横顔は少し寂しげだった。
「ところでさ、あんたは中学のとき、どんな感じだったの。あー君はモテモテで困
るってのはよく聞かされたけど」
桂木が聞いてきた。
「別に。大した事ねえよ。モジャ丸って呼ばれてたな。天パで頭がもじゃもじゃだったから。こんな見た目だし、帰宅部だったし、どんなキャラだったかわかるだろ?」
「もうそんな風には呼べないわね」
桂木が俺の頭を見ながら言う。今の俺の頭はストパー効果でサラサラヘアだ。
「まあな」
俺が照れ笑いを浮かべながら答えると、村木が勢い込んで言ってきた。
「俺、同じ中学からうちの高校来た奴いないからさ。一緒に楽しくやろうぜ」
即答してやった。
「無理」
村木と桂木、二人の顔が固まった。
「だって、俺さっき振られたばかりなんだぜ」
二人揃って笑った。爆笑だった。
「ちょっと、トイレ行ってくる」
俺はそう言い残してトイレに向かった。さっきからコーラを沢山飲んでいたから
いい加減ガマンできなくなっていた。少し離れてところから振り返って見てみると、村木と桂木は本当に美男美女のお似合いの二人だった。俺なんかと一緒にいるのが不思議だった。まあ、悪い奴らじゃなさそうだけど。
トイレはベンチからかなり離れたところにあった。やっと、スッキリできる。そう思うと自然と体が小走りになる。勢い込んでトイレに入ろうとした俺はすぐに慌てて引き返した。小便のことなんて頭から吹き飛んだ。俺はトイレの入り口で男子用のマークがあることを確認すると、入り口からそっと顔だけ出して中を覗いた。
なんかノートPCを小脇に抱えた貧弱なのとなんかごついオジサン。今朝、駅のトイレで俺がスティック状の生理用品を鼻に突っ込んでいるところを見ていたあのごついオジサン。
そして、ごついオジサンにお姫様抱っこされている無敵の萌えガール!
何だよ? これ?
それに、気が付きたくなかったあのニオイ。
俺の白い衝動と同じあのニオイが鼻をついて離れなかった。
どういうことだよ?
何があったんだよ? 無敵の萌えガール!
これからどうすんだよ? 俺!