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第60部分 俺のステップアップがビミョーに斜め上の方向へ

今回の文字数は空白改行含めて2489字です

 遠足大会の翌日は日曜日だった。


 その日曜日のお昼前。


 俺は俺と村木が初めてであった公園にいた。


 春の暖かい日差しが俺の体を照らす。


 俺は廻し一つで公園に立っていた。


 石灰でラインを引いた即席の土俵の中だ。


 沢田を待っていた。


 篠原さんのプロデュースだ。


 昨日家に帰ってから篠原さんから連絡があった。


 桂木には秘密にしておいた。


 のけ者にしたというよりは俺と村木の復讐だ。


 村木は女の恰好で沢田に立ち向かう必要があった。


 幼馴染だけに逆にまだ女装の事は桂木には言えないとのことだった。


 急な話だったけど篠原さんが手を廻してくれて俺はここで沢田と相撲を取る。


 相撲だ。


 喧嘩じゃない。


 篠原さんはカジュアルだけど清潔感のある恰好。


 村木はパンクファッション。ミニスカートが良く似合った。


 あいつなりに気合を入れているんだと思う。


 カメラを首から下げていつでも写真を撮れるように準備していた。


「こらあ。モジャマル。てめえ殺すぞ」


 沢田がやってきた。


 当たり前だけど廻しなんか絞めてない。


 ただの黒いジャージ姿。


 身長180cmくらいのごつい体。


 俺は沢田から目を逸らさない。


 沢田も土俵の中に土足で入ってきて顔が触れそうな近さで俺を睨みつけている。


「二人とも気合十分だし。はじめっちゃおっか」


 篠原さんが俺たちの間に入って明るく言った。


「てめえら何もんなんだよ? こらあ」


「モジャマルとその仲間たち。ただそれだけ」


 篠原さんが可愛らしく言うと沢田は少し笑って言った。


「ふざけんな。弥生はどこにいんだよ! てめえらだろ? 電話してきたの」


「え? 誰それ?」


「てめえらが拉致ったんだろうが」


「いや知らないし。うちらはただあなたに山川と相撲を取ってほしいだけなんだけど」


「ああ。ラクショーだべ、。瞬殺してやっからよ。そしたら弥生の居場所教えろよ」


「だから知らないっての。まあ勝負が終わったら一緒に探すの手伝ってあげる」


「ふざけやがって」


 二人の会話が自然と耳に入ってくる。


 沢田がやってきた理由がわかった。


 さすが篠原プロデューサー。


 まあ篠原さんの事だから本当に拉致なんてしてなくて何かの頭脳プレイだろうな。


 だって篠原さんは一人で戦ってきたタイプだもん。


 拉致なんて卑怯な真似するわけがないっての。


 バカだな。沢田。上手く乗せられてやがんの。


 あれ? ということは……


 俺はこんなバカに嵌められて、怯え続けてきたのか。


 テンションが少し落ちかけた。


 村木の泣き顔が頭に浮かんだ。


 沢田がくだらない男だろうとどうでもいい。


 村木を傷つけてずっと苦しませてきた男に変わりはない。


「それじゃあ準備はいい?」


 篠原さんの声に俺は頷いた。


 俺と沢田は睨みあいながら構えた。


 沢田も構える。


「はっけよい。残ったぁ」


 一瞬だった。


 俺は沢田の上にのしかかっていた。


 気が付いて立ち上がった。


 俺の勝ちだ。


 予想外だった。


 あっけなさずぎた。


 あの沢田を倒した。


 自分に言い聞かせても実感がわかなかった。


 沢田は頭を打ったらしく両手で後頭部を抑えて丸くなっていた。


 俺に駆け寄ってくる人の気配に気が付いた。


「やったね」


 そう言って俺に飛びついてきた。


 パンクでキュートなメイク。


 想いっきり笑った笑顔。


 俺は沢田を倒すことなんかよりも大切なことに気が付いた。


 そうだ。村木さんの笑顔を取り戻せた。


 これが大事。


「ほら。山川も笑いなよ」


 俺を見上げて俺のほっぺたを両手で上げようとする村木さん。


 俺は確信した。


 これって……


 キスする流れだろ?


 俺は村木さんを抱きしめて瞼を閉じて唇を突き出し顔を近づけた。


「え? え? え?」


 村木さんの声が聞こえてきた。


 照れてるのか。


 愛い奴。


 俺は村木さんを抱き抱えた。


 無理矢理キスするなんて真似は俺はしない。


 俺は空に向かって笑ってみせた。


 村木さんが言った。


「太陽がいっぱいってほんとなんだ」


「見えないけど月だってあるんだぜ。連れていってはあげられないけど感じることはできるだろ?」


 俺と村木さんは顔を見合わせて笑った。


 篠原さんがスマホで俺たちを撮影していることに気が付いた。


 俺と村木さんは一瞬顔を見合わせた。


 それからスマホに向かって口元で裏ピース。


 篠原さんは俺たちに親指を立てて見せた。


 沢田の声が聞こえてきた。


「ふっざけんな! 仲間呼んでてめえらぶっ殺すぞ!」


 篠原さんは地面に座って足を投げ出して両手で体を支えて利う沢田に駆け寄った。


 耳元で何か囁いていたけど俺には聞こえなかった。


 沢田はフラフラと立ち上がりスマホで電話をかけ始めた。


「あっ! 弥生か! 今どこだ?」


 そんなことを言いながら俺たちから遠ざかっていた。


 立ちどまって俺に向かって沢田は叫んだ。


「てめえモジャマルが調子こいてんじゃねえぞ!」


 俺は叫び返した。


「俺はモジャマルじゃねえ! 山川だ! 山川遼太だ! なめんじゃねえぞ!」


 沢田は舌打ちして歩き出して行ってしまった。


 残された俺たちは顔を見合わせた。


 「あいつから復讐されることはないから安心して」


 篠原さんが言った。


 「大丈夫。もう泣き寝入りはしないから」


 村木さんが言った。


 「ああ」


 俺が言った。


 俺の未来がどうなるかなんてわからない。


 俺の過去の事実なんて変えられない。


 俺には今しかないんだ。


 怯えたり、後悔するよりも。


 ただ生きてることを味わおう。


 すすめ! 俺のステップアップ! ビミョーに斜め上の方向へ!


 俺はそれすらも楽しんでみせるさ。

この第60部分にて完結とさせていただきます

拙い作品に長いあいだお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。

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