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第6部分 ファストフード店にてリア充野郎を迎え撃つ

3月25日 スマートフォンで読みやすくするために改行を増やしました

 俺は、駅前にあるファストフード店で昼飯を食べながら、今後の戦略をたてることにした。途中のコンビニで買った雑誌も持ち込む。リア充ばかりいるファストフード店で一人ぼっちで食事をする時は雑誌が俺の話し相手だ。

 

 母親は、仕事で家の事をしてあげられないからと、一か月分の小遣いとメシ代をくれていた。本当は自分で料理をすれば、節約できて好きなラノベやゲームももっと買えるはずなんだけど、大抵ファーストフード店の安いハンバーガーとポテトで済ませてしまっていた。慣れているから別に寂しくはなかったけど、周りの目は気になった。


「よう、山川。ちゃんと聞いてなかったみたいだからもう一度言っとくけど、俺、村木。ところで、いい加減おでこの文字消して来いよ。サーティーンにやられたのか?」

 

 俺は思わず、両手で額を抑える。俺と桂木の愛の印だ。誰にも汚されたくない。

 

 目の前にはさっきのリア充野郎が座っていた。しかも、隣には桂木が座っている。俺は一人で汗を掻きながらハンバーガーを頬張っていた。

 

 デブだからな!

 

 って言うか、俺がまだハンバーガー食べてるでしょうが!

 

 返事なんてきるか!

 

 否!

 

 してやるもんか!

 

 しかも、おでこには桂木との愛の印、数字の13が書き込まれている。奴はこんな俺の目の前に何の断りもなく座るといきなり尋ねてきたのだった。


「ほんとみっともないよ。何よ?それ。さっきは鼻血にしか気が付かなかったけど」

 

 桂木も呆れたように言う。

 

 いや、君が書いたんでしょうが!

 

 とは村木がいるから言わないでおく。俺は雑誌に目を落とすと、二人をチラ見しながら黙ってハンバーガーを噛み続けた。

 

 桂木が村木を追い返すのを待っていた。

 

 今、俺の目の前にいる桂木と今朝あんな事をしたのが夢のようだ。昼時の明るく清潔なファストフード店で楽しそうに喋る桂木は何事もなかったかのように無邪気に笑っていた。

 

 それとも、俺が気にしすぎなんだろうか。考えてみれば前川先生だって大人の女の人で美人だ。彼氏くらいいたっておかしくない。もっとHな事だってしたことがあるはずだ。でも、そんなことちっとも感じさせなかった。

 

 リアルな女ってすげえな!

 

 やっぱ、ゲームとは違うぜ!

 

 俺が一人で考え事に集中していると村木が思い出したように言った。


「そういや、山川。お前、学生鞄の落とし物とか聞いてないか。彼女の鞄が無いんだ。今朝、駅のトイレで誰かのと入れ替わったらしいんだけど。って言うか、お前もなんか喋れよ。山川」


「もういいよ。多分、見つからないよ。買ってもらったばっかりだったんだけどなぁ。ねえ、山川君。君が知ってるわけないよね?」


 桂木が悲しそうな顔をする。泣くな、桂木。お前には笑顔が似合う。


 お前には答えてやってもいい。


 否!


 この瞬間を待っていた。


「ほら、これだろ?」


 俺は隣の椅子に大切に置いておいた鞄を桂木に渡した。その時、微かに桂木の手が触れた。この手があんなことするなんてなぁ。


「うそ!ホントに!。よかったぁ。ありがとう。どこにあったの?」


 桂木は嬉しそうに聞いてきた。


「え?駅のトイレの前だよ。忘れてっただろ」


 桂木の顔が曇った。


「あんた、まさか、女子トイレに入ったっての?」


 その言い方に少しイラッときた。


「んなわきゃねーだろ。お前が男子トイレに入ってきたんだろ。って言うか、お前、二つも鞄持ち歩いてんのかよ。入学式の時、鞄を開けてゴソゴソやってたじゃん」


 高校に入ったら女子のことをお前って呼ぶって決めていた。できるか心配だったけど、桂木がさっきあんな事してくれたおかげでハードルは随分下がっていた。


 あっさりできたことがなんとなく誇らしかった。


「ふーん、見てたんだ。あれ、私のじゃないよ。中身空っぽだったもん。だから、多分トイレで誰かのと入れ替わっちゃったんだって、あー君とも言ってたんだもん」


「え、て言うか、あー君て、誰?」


「俺だよ。俺たち幼馴染みでよ。そう呼ばれてるんだ」


 照れ臭そうにそう言う村木。何、お前。リア充のくせして、さらに俺の桂木と幼馴染みなの。


 ふざけんなよ!


「クソっ」


「ご飯食べてるんだから、汚い事言わないでよ」


 なんだよ、さっきはあんなに汚くなっても平気だったたくせに。あ、平気ではなかったか。あとで、ちゃんと謝ろう。


「って言うかさぁ。あんたが、あの時、私に鞄を返してくれてたら、挨拶だってちゃんとできたのに。ホント、あんたサイテー」


「あーちゃん。これ飲んですこし落ち着けって。」


 村木が桂木にドリンクを渡した。言われたとおりにストローでドリンクを飲む桂木。小動物っぽくてかわいかった。


「ありがとう。ごめんね。あれ、悔しくってさぁ」


「わかるよ。山川のせいで大恥かかせられたからな。山川、土下座しとけ」


 そう言いながら村木は俺にウィンクをして見せた。キザな仕草が絵になる男だ。


「まあ、確かに。俺がとっととお前に渡しておけばよかった。ごめん」


 謝って済むならいくらでも。どうせ俺の土下座は安い。中学の時に散々やってきた。さすがにここで土下座はやめておいたけど。


「わかればいいのよ。わかれば。悪気があったんじゃない事はわかったから」


 桂木も落ち着き始めた。


「でも、これ誰のかしらね。」


 村木が答えた。俺にわかるわけなかった。


「やっぱり、さっきの話に出てきた女子のじゃないのかな。うちの制服だったんだろ?」


「だと思うんだけど。名前もわからないからなぁ」


「明日、先生に事情を説明して預けちゃえばいいよ。あ、でも明日は遠足大会か。荷物増やしたくないよな」


「ごめんなさい。ちょっといいかしら」


 女子の声がした。振り向いた。そこには桂木と同じような髪型で、同じような眼鏡をかけた女子がいた。微乳だった。もう一度振り向く。そこには桂木がいた。桂木の胸を見る。微乳だった。


 わけがわからなかった。


 俺の中の、何か。


 なんだかわからないけど俺の中で何かが間違っている。


 それも、すっごく。


 その予感だけは泣きたくなるほど感じていた。


 って言うか、その予感しかしねぇ。

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