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第59部分 何を追う? 何を負う? 

今回の文字数は空白、改行含めて2135字です

「あー君。それってさ。マクガフィンなんじゃないの?」


桂木の言葉。


場所は村木のマンションで時間は午後7時半。


俺は桂木が持ってきてくれた学ラン、村木はジーンズにトレーナーという男として普通のいでたち。


村木のマンションのリビング。ソファに俺と桂木、村木と篠原さんが隣り合う形で向き合っていた。


テーブルにはそれぞれの飲み物とスナック類のお菓子が並んでいる。


村木の女装の事も、俺の沢田への復讐のことも桂木には黙っていた。


俺が洗面所で着替え終えてからソファに座ると桂木は冒頭のセリフを言い放った。


「なんだよ? マクガフィンって」


「映画とかで登場人物たちが追いかける謎。よくあるでしょ。アクション映画とかサスペンス映画で謎のスーツケースを奪い合うような奴。見てる人の興味を引きたくっていかにもなにか秘密がありそうってことになってるけど。ほんとはスーツケースの中身なんて意味がないの。そういう物語上の仕掛けの事」


「ふーん。それが今なんの関係があるんだ」


「あー君が、奈緒の鞄を気にしてるからさ。ほら、倉田学院のやつらが奪いに来たから。それ気にしてるんだって。奈緒も言ってたけどただの鞄でしょ。マクガフィンみたいなもんだって」


村木が言った。


「そりゃ気になるよ。あんな風に人が奪い合うような鞄、篠原さんは気にならないの?」


篠原さんは髪を掻き上げて言った。


「ごめんね。だって何の仕掛けもないただの鞄だもん。カン違いしてるだけだって。もし今度奴らが来たら渡しちゃう。もうめんどくさいし」


村木は粘った。


「いやでもさ。よくあるじゃないか。空港とかで勝手に自分のバッグにドラッグ入れられて知らぬ間に運び屋をやらされていたとかって言う話。目的地まで行ったら鞄ごと奪いに来るっていうような話が」


「いや。飛行機乗ってないし」


篠原さんは笑って手を振った。


「ね。あー君。気にするから気になるだけだって。そんなことより大事なことが一杯あるでしょ」


「そうだけどさぁ」


村木の目的がなんとなくだけどわかった。


たぶん村木は女装癖のことを桂木に黙ってるのが後ろめたいんだろうな。


よし。村木に助け船を出してやるか。


「なあ。桂木」


「なによ?」


「復讐したあとの気持ちってマクガフィンかな」


「は。何それ」


「いや実はさ。俺さ。中学のときに濡れ衣きせられてさ。それでいじめられるようになっったんだけど。今度おれに濡れ衣着せた奴に復讐するんだ」


「で?」


「いやそれでさ。俺にとってある意味そのマクガフィンってやつなのかもなって思って」


「意味わかんないんだけど」


「まあ上手く言えないけどよ。ずっと考えてたんだよ。そいつに復讐できたらスカッとするのか、それとも俺もソイツと同じ穴のむじなみたいに感じちゃって空しくなるのか。それが気になって死ななかったみたいなところあるし」


桂木は噴き出した。


「あははは。それが気になって死ななかったみたいなところあるし。って何それ」


「なんだよ。俺にとっては大事な話なんだぞ」


桂木は笑うのを止めて俺を見た。


真剣な眼差しで俺を見ている。


「あんたさ。死ぬくらいに思いつめる前にさ。誰かに相談したの?」


俺は横に首を振った。


「黙って耐え続けるのってつらかったでしょ?」


俺は桂木を見つめた。


「他に何ができたって言うんだよ」


自分でも驚くほどの低い声が出た。


「だから誰かに相談するとか方法はあっただろうし」


「誰に言えばよかったんだよ! みんな見てるだけだだぞ。声をかけても無視されてよ。親にだって言えねえよ。心配かけたくねえしよ! 教師に言ったところでお前が何かやったからじゃないのか? だってよ! 警察だって助けてくれねえよ。護衛してくれるわけじゃねえんだぞ? どうすりゃよかったんだよ。言ってみろよ。どうすりゃよかったってんだよ!」


気が付くと俺は立ち上がって桂木を見下ろしていた。


荒い自分の息遣いに気が付いていた。止める気もなかった。


「ごめん。確かにあんたの言う通りなんだろうね。私と一緒にしちゃ駄目だよね」


桂木は俺に頭を下げた。


俺は拍子抜けして思わずソファーに座ってコーラを飲んだ。


「ところでなんで今さら復讐するの? 今はいじめられてないんでしょ? だったらそんなこと忘れて何か好きなことに打ち込んだら?」


静かな声だった。


桂木は俺をまっすぐ見ていた。


「勇気が持てたんだよ。お前だって戦うか逃げるしかないっていってたじゃねえか。ちょっと時間がかかっただけだよ」


「奈緒に言われたんじゃないの?」


俺は顔をそらさずそのまま言い切った。


「関係ない。俺が決めた。別に暗殺するとか危険なことするわけじゃねえし。ただ挑戦するってことが大事なんだって気が付いた」


「わかった。その方法を教えて」


俺は相撲で挑戦することを説明した。相手にされなければそれはそれでいい。ただ勝負を挑むことに意味があると思ってることも伝えた。


「そっか。次のステップに進めるといいね」


そう言って桂木は俺の肩を軽く叩いた。

次回予告

第60部分 俺のステップアップがビミョーにな斜め上の方向へ


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