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第51部分 鏡の力は恐ろしい

今回の文字数は空白、改行含めて2880字です

 俺は村木に持ってきてもらった扇風機の風にあたりながら風呂の脱衣場で鏡を見ていた。


 大きな鏡がある洗面台。


 鏡は正面だけじゃなくて両脇の壁にもあって俺を取り囲んでいる。


 のぞき込んだり両脇の鏡を動かすと鏡の中に何人もの俺が映った。


 何人もの俺はみんなデブだった。


 洗面台の隅に置かれた白い陶器の天使の人形が俺の姿を笑っているように思えた。


 俺は裸だ。


 全身から汗が噴き出ている。


 身長170cmで体重が96キロの俺の体。


 走るだけで胸も腹も揺れる体。


 バカでかい声を出して様子を見に来てくれた村木に扇風機を持ってこさせた威張って甘えたくだらない男。 


 本当は篠原さんに裸を見せてしまわないようにリビングのドアをそっとあけて村木に扇風機を持ってきてもらうように頼むつもりだったのに。


 ドアをそっと開けようとしたら篠原さんと村木の会話が聞こえてきた。


 聞いてしまった。


 村木が篠原さんにサーティーンか? って聞いたら篠原さんは認めた。


『俺と君だけの秘密じゃなかったのかよ!』


 そう思ったらそこから動けなくなってしまった。


 声をかけて二人の邪魔をしちゃいけないなんて思ってしまった。


 そのまま風呂場に戻るのは負け犬みたいでそれも出来なかった。


 俺はドア一枚で二人と俺が住む世界がわけられていることを思い知った。


 その気になったら警察も動かせる権力者の息子。


 襲いかかってくるかもしれないとか思われている醜くて汚い男。


 篠原さんが村木を選ぶのは当たり前だ。


 権力者の息子ってだけじゃない。


 見た目も全然違う。


 身長は村木と俺は同じくらいだけど村木は顔が小さく手足も長くて細身だからバランスが取れていて恰好いい。キレイとも言える見た目だ。


 篠原さんは女子だから俺たちよりほんの少し背が低いけど、やっぱり顔が小さいし手足が細くて長い。


 村木と篠原さんが二人並んで歩いてたらさぞかしお似合いでしょうよ。


 宮本に振られた時のことまで思い出した。


 いまさらどうでもいいけど……


 ついでに桂木は篠原さんと同じくらいの身長。顔が小さくて手足が長い。


 昨日あいつが眠った時にちらっと見えた太ももは長距離ランナーみたいに引き締まっていた。


 おまけにマシュマロちゃんは背が低いけど篠原さんや桂木と違って巨乳でお尻もでかい。


 みんなそれぞれ魅力的だ。


 俺だけだ。こんなに太ってて醜いのは。


 俺より村木が好きって言うのが普通だよ。


 彼女の言っていたことは全部うそだったんだ。


 うそって言うのがひどいなら彼女は自分で自分の気持ちがわかっちゃいなかったんだ。


 多分こういうことだ。


『わたしは別に山川のことを好きじゃないけど可哀想だからエッチなことをしてあげた』


『エッチなことをしてあげたんだからわたしは山川のことが好きなのかもしれない』


『でも村木君も気になるし。わたしどうしたらいいんだろう?』


『そうだ。二人と仲良くなって確かめよう』


 だから俺に近づいてそれを確かめたかっただけなんだ。


 今朝はたまたま村木じゃなくて先に俺を見かけたから俺に話しかけただけかもしれない。


 考えてみれば篠原さんは遠足では桂木と村木を挟んで並んで歩いていた。


 俺はその様子を後ろから見ていただけだったし。


 でも『桜の庭』でのことが決定的だったんだろうな。


 普通に考えたら嫌われて当たり前だ。


 俺の気持ちを知らない奴が見たら俺が今日したことなんて……


 教室で一人で朝から早弁をして、脱衣をかけてデュエルをやってみんなの前で大負けしたあげくにキレて裸になって教室を走り回って、村木の握手を拒否って、でかい声で自分のオナニーについて語って、記念写真に写るのを村木が誘ってくれたのに俺は勃起までしてそのことで恥ずかしがっている篠原さんに姑息なやり方でさらに恥ずかしかがらせて、隠し事しているのが気に入らないって桂木に説教された。


 心のなかで篠原さんにツッコミもした。


『君が俺に隠しごとさせてるんですけど!』


『サーティーンだってこと黙ってるんですけど!』


 えっらそうに……

 

 そのうえクソを悪魔の兵器だと喚き散らしたあげくにその悪魔の兵器で篠原さんを汚した。


 とにかく助けたくて無我夢中だったけど彼女は自分でなんとかしたみたいだったし。


 どうやって助かったかは知らないけど俺なんて必要がなかったってことはわかった。


 しかも倒れているやつに俺は昨日の恨みを晴らそうとして……


 アイスの棒につけたクソのにおいを嗅がせてたし!


 誰がそんな奴のことを好きになるんだよ?


 俺なんて本当の意味でただのクソ野郎じゃないか!


 俺は昨日から何を浮かれていたんだ?


 本当は篠原さんに会わずに帰りたかったけどちゃんと言うべき事は言うつもりだ。


 篠原さんが座っていた位置なら俺がリビングのドアの前で動けなくなっていたのを気が付いていたかもしれない。


 これで俺が何も言わずに帰ったら彼女はきっと心配してしまう。


 彼女が俺じゃなくて村木を選んだとしても優しい人に変わりはないんだから。


 俺。


 好きだったんだな。


 鏡に映る俺がなんか滲んでる。


 こんな顔を彼女に見せちゃだめだ。


 俺はハーレムを作る男なんだろ!


 笑って言ってやれ。

 

 『君なんてただの通過点だし! 俺はリア王になる男なんだからな!』


 しっかりしろ!


 違うだろ!


 俺はバスタオルでゴシゴシ顔をこすると腰に巻き、もう一枚を拡げて肩に乗せた。


 汚れたTシャツとジャージは村木と篠原さんに言われて捨てていた。


 二人ともはっきりとは言わなかったけど当たり前だよな。


 俺のクソで汚れた服なんて洗ったところで着れないよな。


 クソはついていないけどジャージのズボンとトランクスも村木は洗濯機に入れてくれた。乾燥もできるスゴイ洗濯機らしいから待っていればいいらしい。


 桂木が俺の制服を学校から持ってきてくれることになっていた。


 帰りは制服を着ていくから問題ない。


 村木が桂木に頼んでくれた。


 村木はそこまでやってくれるいい奴なんだ。


 敵うわけがないだろうが!


 ああ。


 もうクソを悪魔の生物兵器と呼んだなんてことは黒歴史として永遠に封印しよう。


 そして彼女に言うんだ。


『俺は知らなかった方がいいことを知ってしまった。でもそれでよかったんだ。さようなら。ありがとう。お元気で』


 脱衣場で竦む腿を、震える膝を叩いた。


 鏡に向かって笑ってみせた。


 よし。


 行くぞ!


 リビングのドアに近づいた。


 深呼吸をして息を整えた。


 おや。


 どうやら汗も引いてきたようだ。


 それではそろそろドアをあけるとしようか。


 そしてドアは開かれた。

次回予告

真剣な思いを打ち明けようとした山川が見たものとは?

第52部分「見たい 見せたい 見せたくない 神の見えざる手は働かない」

お楽しみに

掲載予定日未定です。申し訳ございません。

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