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第5部分 さあ、入学式だ!新キャラ続々登場

3月15日 一部加筆、修正を行いました

3月25日 一部修正及びスマートフォンで読みやすくするために改行を増やしました

 とぼとぼ歩いて学校に着くと、校舎に人の気配はなかった。入学式に間にあったことに気が付いた俺は早速体育館に向かった。

 

 入学式会場の体育館のドアを開けるとスーツの若い女の人が駆け寄ってきた。短めのストレートの黒髪と色白の肌が綺麗で、頭の良さそうな眼鏡の奥で気の強そうな目が光っていた。


 ざっくりいうと姉御肌の美人という感じだ。


 「山川君、ね」


 「はい」


 「遅刻よ」


 「すいません。俺、おなかの調子が悪くって」


 「あれ?君、鼻血出したの? 跡が付いてるけど」


 「すいません。俺、花粉症がひどくって」


 「そう、つらいわよね。私、担任の前川理沙。遅刻の言い訳は後で聞いてあげるから、付いてきなさい。」


 俺は、あの無敵の萌えガールを探そうとはした。


 でも、無理だった。


 なぜかって? 俺の前を歩く前川先生のお尻のあたりに目線が奪われてしまったからに他ならない。


 だってさ、タイトスカートってさ、何か、こうさ・・・


 グッと来るだろ?

 

 俺は悪くない。


 もちろん、前川先生も、揺れるお尻も悪くない。


 俺のズボンのなかの分身、奴一人に責めを負わせれば済む問題だ。

 

 ほんの少し前屈みになりながら歩いているとあっという間に席に着いてしまった。

 

 俺の隣の席も空いていた。俺以外にも遅刻した奴がいる。とりあえず、隣に座るのが無敵の萌えガール、じゃなくてもいいから女子であることを祈った。


「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。生徒会長の鳴神恵梨香です。」


 生徒会長の挨拶が始まると、女子たちがひそひそと話しだした。


「すごい美人だね」


「うん、演劇部のスターらしいよ」


 スターといわれるのも納得。壇上の生徒会長はオーラを放っていた。演劇部のスターで生徒会長。いるところにはいるもんだ。リア充って奴は。


 会長は身振り手振りを交えて、熱く語る。まるで、大統領とかのスピーチみたいだった。挨拶が終わって、会長が一歩下がって礼をした。長い。なかなか顔を上げない。体育館がざわつき始めた。先生たちは何も言わない。


 何が起きてるんだ?


 会長がゆっくりと顔を上げた。体育館が静寂に包まれた。みんな、会長の言葉を待っている。会長はゆっくりと、人差し指を天に向かって突き立てた。


「今の君たちは不安で胸がいっぱいだろう。」


 低いがよく通る声だった。さっきまでの挨拶のときとは違って迫力があった。固唾を飲んで会長の言葉を待った。


 会長は振り上げた手を一気に振り下ろした。


「不安など必要ない! いつだって未来は明るいのだ! 私はそれを知っている!」


 低く力強い声が体育館に響いた。


 拍手が鳴り響いた。指笛も聞こえてくる。


 はしゃぐ奴らを見渡して思った。


 会長さん、俺、この学校のノリについていけるか不安なんですけど。


「さすがだなあ、恵梨香さんは。」


 隣で呟く声がした。女子の声だ。俺は恐る恐る顔を向けた。目が合った。眼鏡は似ていた。髪型も。でも確信は持てなかった。冷静に考えてみたら、俺はあの娘の胸ばかり見ていたじゃないか。思わず胸元を見てしまう。きちんと、上までボタンは留められていた。


「拭いたら? 鼻血が垂れてるよ」


 笑いながら、そう言ってポケットティッシュを俺に渡す。決まりだ。無敵の萌え

ガールだ。俺にやさしくしてくれる女子なんて、あの娘以外ありえない。


 鼻血が付いたティッシュを見つめた。俺が彼女の眼鏡につけてしまった白い衝動もこんな風に拭き取られたのだろうか。


 予感、いや確信だった。


 この娘と一緒なら非モテからリア充の中のリア充、リア王にだって上り詰められる!


 マイクを通して入学式の司会をしている男の先生の咳払いが聞こえてきた。体育館のざわめきが落ち着き始めると先生は説明を続けた。


「次、新入生挨拶。鳴神のあとじゃやりにくいだろうが、気にするな。思いっきりやりなさい」


 先生もノリがいい。自由な校風とは聞いていたけど、ここまでとは思ってなかった。必死に勉強した甲斐があった。中学時代の事は忘れて、俺もこのノリを受け入れるよ、鳴神会長。


「新入生挨拶、桂木綾乃」


「はい」


 その返事は隣から聞こえてきた。思わず顔を向けると、俺の無敵の萌えガールこと桂木綾乃は鞄を開けて中を覗き込みながら固まっていた。


 小声で聞いてみる。


「どうしたの?」


「アレがない!」


 追い詰められた表情で俺に答える桂木。俺の頭にはさっきの生理用品が浮かんだ。しまった!俺トイレで鼻血を止めるのに使っちまったぁ!


「どうした、桂木、何かあったのか?」


 先生の声が響く中、俺はなにもできずにただ桂木を見ていた。


「はい。あ、いえ大丈夫です」


 はっきりとそう答えると、桂木は立ち上がった。少し、ふらつきながら壇上に向かう。手足が一緒に動いている。代れるものなら代ってやりたい。


 桂木は壇上に立つと何度か咳払いをして微笑んだ。口を開いた。


「えー、昔から結婚生活には大事な袋が三つあると言われてまして・・・」

 

 体育館が凍った。

 

 席に戻って放心状態の桂木にとどめが刺された。


「先生は今の桂木の挨拶は素晴らしかったと思います。良かったと思う人は拍手」


 まばらな拍手が微かに聞こえた。


「やめてよ。余計惨めだから」


 桂木はそう呟くと、乱暴に上着を脱いだ。ブラウスが汗でびっしょり濡れていた。ブラが見えるかも。期待した。でも、俺は目を背けた。


 ここから先は俺が彼女を守る時間だからな。 


 俺は惚れた女のためなら、できることは全力でする男だ。あくまでも、できること、だけだがな。


 お前ら俺の揺れる巨乳でも見てやがれってんだ!


 ニヤケ顔で桂木を見る男子たちの視線から守るために体を前後左右に揺らしていると前川先生のささやき声が聞こえてきた。


「お疲れ様。大変だったわね。でもね。上着は着てた方がいいわ」


「え?どうしてですか」


「透けてるから」


 男子全員、壇上に注目。


「まあ、山川君が守ってくれたみたいだけど」


 背中の後ろで桂木が上着を着る気配を感じながら、俺は欲望に打ち勝った自分を誇りに思った。


「ありがとう、やさしいんだね」


 桂木が話かけてきた。俺は軽く微笑んで言って見せた。


「気にすんなよ。今朝のお礼さ」


 桂木は少し小首を傾げたが納得したように頷き、微妙に微笑むと前を向いてしまった。


 入学式の間、話しかけても二度と俺の方を見ることはなかった。


 真面目なんだな。桂木。


 俺も見習って入学式に集中する事にした。


 上着を着てしまった桂木が隣にいても、他にできることはなさそうだったからな!


 こうして、入学式も無事に終わった。


 体育館から教室に移動する途中で、何度も桂木に話しかけようとしたけど、男子に囲まれていてきっかけを作れなかった。


 そんな俺の目を惹く奴がいた。女子に囲まれている奴。


 名前はまだ知らない。そして、知りたくもない。


 女子に囲まれて、キャッキャ、ウフフしている男。奴は、女子の髪に触れたり、ヤダァとか言っているくせに微笑む女子から胸を軽く叩かれたりしていた。俺はそんな状況をハーレムと呼び、奴が爆発することを願わずにはいられなかった。


 教室に戻ってからも奴のハーレムの宴は続いている。ふと周りを見ると、一人ぼっちなのは俺だけだった。スマホを取出し、いじり始めた。周りにサイトを見ているのではなく、メールを打っていると思わせるために指を動かし続けた。その間ずっと、すべてのリア充どもが爆発することを願った。


 教室のドアが開き、前川先生が入ってくる。奴らは蜘蛛の子を散らすように席に戻る。爆発じゃないけど、まあ、良しとする。グッジョブ、先生。思わず、前川先生に微笑みかけた。目が合った。


「山川君」


「はい」


「ちょっと荷物を運ぶの手伝いなさい」


「え? なんで俺なんですか」


 思わず、声に出してしまった。俺には桂木を見守りつつ、リア充どもの爆発を祈る、という任務があるのだ。


 悪いが、今、手が離せない。


「いいじゃないの。一人でゲームするくらい暇なんでしょ。みんなとは挨拶したの?」


「メールです」


「どっちでもいいわよ。いいから来なさい。遅刻した罰よ」


「あれ、桂木は?」


「男の子でしょ。いいところ見せてよ」


 ほがらかに笑って先生は言う。


「お任せあれ」


 なぜか知らんが、クラスで爆笑が起きた。


 クソっ。そうやって、俺を笑い者にしているがいい。俺はこれからしばらくの間、前川先生と二人きりになるのだ。


 しかも、神聖なる諸君の学び舎で。


 諸君の前川先生と二人きり。


 何が起きるか、いや、この俺が、何を起こすかお楽しみだぜ!


「みんなは、黒板に書いてあるクラスの委員を決めておいてね。さっき、自己紹介したからお互いのことはある程度わかったわよね。それじゃ頼んだわよ。」


 そう言うが早いか、先生は廊下に出て行ってしまった。慌てて後についていく。仕方がない。力を貸すことにしよう。だが、先生さんよ。代償は払ってもらうぜ。


 俺は遠慮なくタイトスカートを履いた先生の後ろ姿を堪能する事に決めた。


 しばらく先生の後姿を堪能していると、突然先生は振り返った。


「ここなら誰も来ないわ。だから、あなたの遅刻の本当の理由を教えなさい」


「腹が痛くて、ずっとトイレにいました。」


 咄嗟に答えたが、もちろん嘘ではない。


「そう、率直に言うわ。近隣住民の方から学校に連絡があったの。うちの生徒が他校の生徒と喧嘩をしていたみたいだと。これ聞いて、どう?」


 まっすぐに俺を見つめてくる。俺も見つめ返す。桂木を守ってやりたい。自由な校風とはいえ暴力沙汰が許されるわけはない。だけど、どう説明したらいいのかわからなかった。


「どうしたの。何も言えないの」


 先生が顔を近づけてくる。キレイな目をしていると思った。


「キレイですね。先生は」


「急に何を言ってるの。今は大事な話をしてるのよ」


 先生は怒ったように言ったが、一度口を開くと、言葉が勝手に出てきた。


「あ、すいません。違うんです。正直に言います。俺が駅のトイレの個室にいた

ら、人がいきなり入ってきて」


「喧嘩になった、というわけね。」


「いえ、いきなり蹴られて気を失っちゃいました。」


「それが、私がキレイだというのと何が関係あるのかしら?」


 先生は少し早口だった。少し耳が赤い。


「俺、言われたんですよ。蹴られる前に。キッタネーって。それ、思い出したら、俺は汚いけど、先生はキレイだなって」


 先生は口元に人指し指をあて、少し考えて言う。


「ねえ、個室にいたってことは。」


「はい。ちょうど用を足してる最中でした」


 俺がそう言い切ると先生の右手が差し出された。意味がわからず、差し出された

右手と先生の顔を見比べた。


「握手」


 先生に言われた通りに握手する。少し、ひんやりしていて、ピタッと手のひらに

吸い付く感じだった。


「君は汚くなんかないわよ」


 先生は力強く言い切った。


「大丈夫です。中学の時もよくあったから」


「多少は聞いているわ。相談したい事があったらいつでも私のところに来なさい。

とは言っても、男子ってなかなか相談してくれないのよね」


 先生はその瞳から力を抜いて軽く息を吐く。


「じゃあ、職員室に1年A組と書いてある段ボールがあるからそれを教室まで運んでおいて」


「はい」


 荷物を運んでいると、廊下で話し込む先生と桂木に行きあった。


「丁度よかった。桂木さんとも話は終わったし、教室に戻るわよ」


 荷物を抱えている俺は自然と二人の後をついて行く事になった。桂木のミニスカートの裾が揺れていた。先生のタイトスカートのお尻が揺れていた。俺は二人の手の感触を思い出そうとしたけど、荷物が重くて集中できなかった。


 気が付くと教室についてしまっていた。こんな事なら、段ボールなんて置いて、目の前の二人のお尻をもっと堪能すべきだったな。一瞬の判断ミスが命取りになる。これからは気を付けよう。


 教室に入るとクラスメイトが一斉に俺を見る。このモブキャラども、お前らは知らないだろうが、俺はこのS級ランクの美女二人と愉しいスキンシップをした男だ。


 いいか? 二人ともだ。モブキャラどもよ。


 憧れるのもわかるがあんまり見るな。リアクションに困る。


 声に出して言いたかった。


 段ボールを教卓の上に置いて、モブキャラどもを見渡してみると、さっきのリア充野郎が人差し指で黒板を指さしていた。振り返った。


 級長 桂木綾乃


 副級長 村木歩


 その下僕 山川


「なんだよ、これ」


 思わず口をついて出た。


 しかも、俺だけフルネームじゃないし!


 先生が黒板消しを手に取るのが目に入る。ほら、モブキャラども、先生は俺の味方なんだぜ。


 俺は、あとの始末は先生に任せることにして、自分の席に戻ろうとした。


 爆笑が起きた。


 黒板に書かれた文字が目に飛び込んできた。


 その仲間 山川


 書き換えられていた。


 いや、その仲間って……


 俺はモブキャラじゃないし!


「冗談きついっすよ」


 思わず抗議する。


「あら、いいじゃない。仲間って大切よ」


 先生はクラスメイトが自分に注目しているのを確認すると話し出した。


「みんなは、アポロ13って知ってるわね」


 なんとなく頷くモブキャラども。


「月から帰る途中、アクシデントが起きたの。宇宙飛行士たちは死ぬかもしれない状況だったのね。でも彼らは無事に生還した。それは宇宙飛行士たちだけでなく、名も知れぬ管制室の人たちも一致団結して、不眠不休で作業を行ったからなの。彼らがいなければ宇宙飛行士たちは無事に帰って来れなかったわ」


「でも、なんでそれが俺なんですか」


 どうせなら、英雄として扱われる宇宙飛行士になりたい。そうだろ? フツ―は。


「自分の気持ちに流されないで、大きな視野を持ってやるべきことを優先できるでしょ?」


「俺には無理ですよ。買い被りです」


「そうかしら。まあ、級長や副級長って意外と忙しいから二人を助けてあげて。折角知り合った仲間なんだし」


 村木なんて知らないし!


 それに桂木よ、まさか、今朝のトイレでのこと言ってないだろうな。


 焦って、桂木を見ると目があった。桂木はわからないと言うように首を横に振った。まあ、後で聞いてみれば済むことだ。それに、他の奴に邪魔されないで桂木と一緒に行動することが増えると思えば、むしろ、これはチャンス!


「わかりました。よろしく」


 桂木と先生に笑顔を向けた。


 桂木は照れているのかすぐに、前を向いてしまった。


 愛い奴。


 リア充野郎が何か言いっていたが耳に入らなかった。もっと気にしなきゃいけない事がある。桂木と先生、どちらを先に攻略するか。それが問題だ。ゲームなら簡単に決められるのに。


 決めかねているうちにホームルームは終わり先生は教室から出て行ってしまった。


 仕方がない。今日のところは狙いを桂木に絞る。できれば一緒に帰りたい。なぜなら、恋愛シミュレーションゲームでは一緒に帰ることからすべてが始まる。


 まあ、俺たちはすでに始まっているのだが。


 『俺達ってさぁ、付き合ってる、ってことでいいんだよね?』


 どんなセリフにするか悩んだ末にそう言うことに決めた。


 俺は話しかけるチャンスを待った。


 桂木はずっと女子たちと楽しそうに喋っていた。


 俺は仲間になりたそうに、ずっとあっち側を見ていた。

 

 結局一人で帰ることにした。


 人がどう言うかは知らいないが、あえて言おう!


 戦略的撤退!


 俺はどんな時だってリア充の中のリア充、リア王を目指す男なんだからね!

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