第49部分 知りたい 守りたい つながりたい
今回の文字数は空白、改行含めて2281字です
俺たちはけもの道をぬけて舗装された道までもどってきたところで遠足大会をどうするか話し合った。
昨日大きな公園のトイレで篠原さんの芝居に騙されて彼女をトイレで介抱していた二人組のオジサンたちもいた。
さすがに俺と篠原さんはTシャツまで俺の悪魔の生物兵器で汚れていたからこれ以上参加するのはあきらめた。
学校に戻って着替えるのもマズかった。
俺だけなら構わないが篠原さんが汚れた服で歩いているところを他の誰かに見せたくはなかった。
桂木は一人で先に遠足大会に戻っていった。
「ここから先はわたし一人で行く。先生にはわたしから説明しておくから。あんたたちはその服をなんとかして。悪いけどわたしはこの遠足大会を途中であきらめるわけにはいかない。それがわたしが選んだ道だから……」
なぜかやたらと芝居がかって俺に言った。
コドモ女豹は我が道を行く。
そういうことね。
と俺は納得した。
「山川のことはわたしにまかせて。安心して行ってきて。山川を決して一人にしないから」
篠原さんが言うと桂木は言った。
「奈緒。よく聞いて。山川はうんちをコンビニ袋に入れて振り回すような男よ。そしてあなたにうんちをこすりつけた男。それはそれはとても危険な男なのよ」
「そうね。危険な男ね。その通りだわね」
篠原さんと桂木は見つめ合った。
二人とも微笑んだ。
なぜだろう?
俺は風邪にも似た悪寒を感じていたけどその理由はわからなかった。
まあ、とりあえず二人が俺を危険な男だとわかってくれたならいい。
俺はいい人なんかじゃくてちょっとワルめのイケテル男だからな!
それにマシュマロちゃんにも俺のちょっとワルめのイケてる男っぷりは分かってもらえたはずだ。
俺は篠原さんや桂木、村木だけじゃない。
マシュマロちゃんはあの太くて硬そうなマイクをつかって俺の言葉を聞いてると確信していた。
だから頑張れた。
俺は一人の女子で満足できる男じゃない。
いつだってたくさんの女子に俺をアッピールする。
そうでないとリア充の中のリア充、リア王に上り詰められるわけが無いんだ。
だけど一人の女子を守ることも出来ないでたくさんの女子も守れるわけがない。
俺はリア王にはどうすればなれるのかもっと細かく考えなきゃいけないこともわかった。
村木に相談するのが一番だな。
「あー君の家で待ってなさいよ! あたしだっていろいろ知りたいことがあるんだから!」
そんな事を考えている俺に向かってそう言い残すと桂木は風のように走って行ってしまった。
はっはっはっは。
コドモ女豹は元気があって結構。結構。大いに結構。
篠原さんがキョーカンと呼ぶオジサンは倉田学院の奴らを自分が乗ってきた車に乗せると言った。
教官じゃない……
キョーカン。
なんだ……
「ここは俺に任せてお前たちは先にいけ」
『キューカンさんよ。死亡フラグを立てるのはあんたの勝手だ。だがな言わせてもらうぜ! さっきアンタにあの場を任せて先にここまで来た俺は汗だくですでに死にかけてるんですけど!』
ツッコみたかった。
キョーカンの迫力に負けたからじゃない。
俺はジャンケンに負けたからあえてツッコまなかった。
俺はジャンケンに負けた奴が帰りもみんなの荷物を持って行くという俺が作ってしまったルールきちんと守りたかった。
だから桂木に足を蹴られて歩けなくなった倉田学院の木原とかいう奴をおんぶしてけもの道を歩いて戻ってきた。
『荷物はトランクに入れないとな』
そう言って木原というお荷物をトランクに入れようとしたらキョーカンに止められた。
『気持ちはわかるがやめておけ』
真顔で言われた。
ただの軽いボケだったのに。
それにこのキョーカン。
篠原さんの頭をなでなでしていた。
それ以来、俺がキョーカンを見る時はARタグがついていた。
[ENEMY]
篠原さんがセンセーとよぶオジサンが倉田学院の奴らが乗ってきた車の運転席から顔を出して言った。
もちろん先生じゃない。センセーなんだ。
「彼らに説明しないのはどうかと思うがね?」
篠原さんに言っていた。
篠原さんはにっこり笑って言った。
「これで失礼します」
「言いから聞きたまえ」
篠原さんは顔の前で軽く手を振った。
それからだ。
センセーを見るたびにARタグがついた。
[NOT ENEMY BUT FLY]
篠原さんは俺の手をとって引っ張った。
「山川君。早くいこっ」
篠原さんの手は暖かかった。
俺たちこの瞬間一つになったナウ!
汚れてしまったジャージは脱いであるから村木が持ってきていた別の大きめのスーパーの袋に入れて袋の口を堅く縛ってリュックにしまっってあった。
『ゴメンね。ジャージは洗って返すよ』
俺はそう言って篠原さんのジャージも拾って俺のジャージと同じ袋に入れていた。
俺と篠原さんは俺が生み出してしまった悲しいモンスターを通しても繋がっているんだ。
なんか胸にあったかいものが拡がった気がする。
俺は村木に言った。
『村木。俺はシャワーを要求する』
『タクシーが乗せてくれればいいけどな……』
村木はそう言ってスマホを取出すとタクシー会社に電話をかけた。
風を感じた。
胸のところだけ妙に冷たく感じたけどどうでもよかった。
俺と篠原さんのつないだ手は暖かく繋がっていたんだ。
俺は篠原さんを守れる男になる。
そう誓った。
次回予告
桂木がいない状況でサーティーン、山川、村木が村木の自宅で過ごしますが……
第50部分「サーティーンの相談 三寸の舌がよっても文殊の知恵は程遠い」
近日掲載予定です
お楽しみに




