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第47部分 サーティーンの覚悟 見るだけなら無料、というのは気を付けないと高くつく

4月28日(火)掲載予定の第46部分を誤って4月27日の夜に掲載してしまいました。

この第47部分はその続きとなります。

混乱を招いてしまって申し訳ございません。


今回の文字数は空白、改行含めて3561字です

 俺は奴らの声を聞き、呼吸を始めた。


 すぐに分かった。


 俺の下敷きになっている奴の言うことは正しかった。


 悪魔の生物兵器などと呼んだところで人糞は人糞だ。


 かなり手の込んだ加工をしているのなら話は別だが。


「おい。デブ。起きろ」


 細田だった。


 木刀を山川の顔に突き付けていた。


「言われなくても起きるに決まってんだろ!」


 山川は立ちあがった。


 多少前かがみでポケットに手を突っ込んでいた。


 細田は言う。


「ふん。強気だな。お前の切り札はもう使っちまっただろう? それとも何か他にあるのか? このクソデブ野郎が」


 山川と体を密着させていた俺には山川が前かがみでポケットに手を突っ込んでいる理由は十分に把握していたが教えてやるわけがない。


「ばーか。切り札は使わないから切り札。なんだぜ」


 山川は木刀を突き付けている細田をからかうように言うと尻のあたりで何度かこすった手を俺に差し伸べた。


 片手は相変わらずポケットに突っ込まれていた。


「ごめんね。篠原さん。こんなつもりはなかったんだ」


「私の手。村木君の手より汚れてるから握っても平気ってこと?」


 思わす言葉が出た。


 顔にも声音にもは出さないが俺は当然山川に腹を立てている。


 皮肉の一つも言いたくなった。


「篠原さんは汚れてなんかないよ。君はとても綺麗だ」


 俺は山川の胸元を見た。当然俺の胸元も奴のと同様に茶色いシミが広がっているはずだった。


「はやくどけよ。こらぁ」


 俺の下に転がっていた奴だ。


 奴の下腹部も反応していたことは俺の尻が感じていた。


 この男。使えるかもしれない。


 俺たちが全員立ち上がると細田は言った。


「おい。篠原。ついてこい」


「おい。細田君。こんなクソまみれの女。車に乗せんのかよ。絶対におうぜ。ここで脱がさせちまおうよ」


「俺がさせるかよ。ばーか」


 山川が言った瞬間だった。


 細田が山川のすねを木刀で打った。


「いっっでぇぇえよ。畜生! なにすんだよ! まあ。これくらいは俺様は平気だけどな」


 脛を抑えて地面に転がる山川。


 喚いた後冷静な声を出す山川。


 薄気味悪い。


 正直そう思った。


「軽く撫でてやった程度だろうが。調子に乗るなよ。殺すぞ?」


「殺せよ。できるもんならな」


 山川は脛を抑えて転がりながらも細田を見上げながらも睨みつけていた。


 山川? 本当に何か他に切り札があるのか?


 奴は藪の中で俺たがその存在の可能性を考えている監視している存在を見たのか?


 ならば、なぜその存在は未だアクションを起こさない?


 それとも、そいつが助けを呼んでいる。そんな確証があるのか?


 だが、細田達の前で尋ねるわけにもいかない。


 俺の切り札である傭兵も未だ来ない。


 村木の姿は見えなくなっていた。


 怖じ気づたか? 隙を見てスマホで人を呼んでいるのか?


 いずれにせよこんな時に黙って姿を消す奴は残された奴が後々そいつをどんな目で見るようになるかまでは考えていない。


 思わず桂木を探した。


 桂木は先ほどと変わらず木原と向き合っている。


 素手と木刀だ。


 いくら桂木がそれなりに腕が立つとしても木原がやる気ならとっくに決着をつけているはずだ。


 つまり木刀はあくまでも牽制。


 奴らの目的はあくまでも鞄を見つけることであって俺たちを痛めつけることじゃない。


 俺はそう判断した。


 奴らは鞄を手に入れるために雇われた。


 そして手ぶらで帰るわけにはいかない。


 細田と木原は仕事を優先している。


 この名前も分からぬクソガキの片割れは俺を仕事の対象ではなく女として見ている。


 俺は状況の舞台を奴らの車に移す覚悟を決めた。


 クソガキの片割れは言った。


『絶対臭うぜ』


 俺をトランクではなく車内に乗せるつもりだ。もしくはハッチバック式の車か。まあ、そうでなくても車内に乗せるように仕向けるが。


 車内にさえ乗ってしまえばやりようはある。


 クソガキの細い方。


 コイツの下腹部を刺激する言動で状況を転がせるはずだ。


 性欲に囚われた男ほど今の俺が組しやすい相手はいない。


 運転が始まってから内輪もめを起こさせる。


 覚悟を決めた。


「これ以上みんなに迷惑かけられない行くよ。わたしついて行くから。このジャージも脱げばいいんでしょ」


 俺はジャージを脱ぎ捨てた。


「ギャハハハ! 倉高のやつは男も女もホントだっせぇな。Tシャツの裾ズボンにインしてんじゃねぇよ。ウンコもついてるし。俺が脱がしてやるぜ」


 クソガキの片割れだ。


「え? それはちょっと……」


 言い淀んで見せた。


 男は見せられるより見る方を好む。


「おら。脱げよ。ぬーげ。ぬーげ。ぬーげ」


 クソガキの片割れは手拍子まで打ち鳴らし始め俺の後ろに回り込んだ。


「オラ。脱げねぇなら脱がしてやるよ」


「いやっ! 助けて」


 クソガキの片割れが俺のTシャツを掴んだ時に俺は形ばかりの抵抗をして見せた。


 別に下腹部さえ見られなければ問題ない。


 俺は男だ。


 胸を見られたところで本心から恥じらう理由がない。


 むしろ、腹筋を見られて奴らに警戒される方がやっかいだった。


 だがボクシングの技術を身に着けているのは山川にショートフックをお見舞いしてやったことで見抜かれているはずだ。


 今さら隠してもしょうがない。


 俺が考えているとクソガキの片割れが俺のズボンとショーツを一気に降ろした。


 俺はTシャツの裾を引っ張った。


「うわっ! こいつ。パンツにナプキンついてるよ。生理がちけぇんだ。生理だ。生理だ。キッタネー」


 うしろから羽交い絞めしながら俺の耳元で喚き立てる。


 慌てる必要はなかった。


 俺は伸ばせば足首にまで裾が届くTシャツを着ていた。


 尻を後ろに多少付きだせば事は足りる。


「オイ、コイツ胸小さいし、かてぇわ。お前も揉んでみろよ」


 クソガキはへらへら笑いながら細田に呼びかける


 だがこれ以上このクソガキにいいようにされるわけにはいかない。


 俺は体が自由になった時このクソガキをどう痛めつけるか。


 そのことを考えることに囚われ始めた。


「止めろ。福沢。仕事忘れんなよ?」


 ほう。福沢ね。覚えておく。 


 山川に向けられていた木刀の切っ先を細田が俺の後ろの福沢に向けられた瞬間だった。


「うわっ」


 細田の首に腕が廻されていた。細田のブレザーの襟を掴み右手の親指の付け根辺りを細田の頸動脈に押し込んでいく


「死ねよ! こらぁ! 沢田ぁ! てめぇホント死ねよ!」


 山川だった。


 沢田じゃない。細田だ。


 山川は頭に血が上っている。


 止めないとまずい。


 本当に殺しかねない。


 俺はショーツを上げることも忘れて福沢の右手の親指を両手でつかんだ。


 本来曲がらない方向へ押し曲げる。


 右手の親指を抑えながら転がる福沢に声をかけた。


「安心して痛がって。骨まで折ってないから。でもただで私の肌を見ようとすると高くつくわよ。覚えておいてね」


 そして山川の背中を数回叩いた。


 山川は俺の顔を見ると落ちつきを見せ始めた。


「ああ。君。無事だったんだね。よかったよ。ホント」


山川に解放された細田は両手と両膝を地面に付けせき込んでいた。


その隙に地面に転がる木刀を拾って細田に向けた。


山川はアイスキャンディの棒を福沢の鼻先に近づけ、繰り返し言っていた。


「嗅げよ。もっと。もっとだ」


桂木が近づいてきた。


木刀を肩に担いでいた。


木原の姿を探した。


膝を抱えて倒れていた。


「どうやって?」


俺が尋ねると桂木は無邪気に笑った。


「こっちが気になったみたい。あたしに背中見せるんだもん。簡単なもんよ」


カシャカシャと言う音が聞こえてきた。


村木だった。


「ユーたちの活躍バッチリ撮らせてもらったから」


片目をつぶり俺たちを指さす。


笑っている。


「あ、それからユーたち」


福沢と細田を指さして言っていた。


「ユーたちの悪行バッチリ撮らせてもらったから。その意味よく考えて。言っとくけどミーはお金なんかじゃ動かないからね」


俺は思い込んでいた。


壊れているのは俺だけだと。


違った。


こいつらは俺よりも壊れているのかもしれない。


『類は友を呼ぶ』


そんな言葉が脳裏に浮かんだ。


笑えなかった。

いつも読んでいただきありがとうございます

次回予告

どこか壊れた4人組のところへ自称傭兵が現れますが……

第48部分「サーティ―ンを追う女の計画 予定は未定 未来は不確実」

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