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第45部分 サーティーンの状況分析 アクシデントはいつも無断で現れる

今回の文字数は空白、改行含めて2552字です

 山川が藪の中に用を足しに言っている間の事だった。


 桜の木の下でビニールシートを折りたたむ村木を観察していた。


「あ! 3人もいるぜ? 誰だ? わかんねぇよ。細田君」


「茶髪の女だって言ったろうが」


 振り向いた。


 こちらに近づいてくる倉田学院高校の制服を来た3人が近づいてくる。


 すぐにわかった。昨日のクソガキ二人ともう一人。


 改めてクソガキ二人と細田君と呼ばれた男を観察する。


 昨日のクソガキ二人。二人とも身長180㎝前後。一人は痩せ型。一人は筋肉質のガッチリした体型。頭髪は茶髪でだらしなく伸ばしていた。


 筋肉質の方は昨日俺のボディをブロックしてみせた男だ。ボクシングの経験があることは間違いない。


 細田君と呼ばれた男。身長175位か。昨日のクソガキどもよりも明らかに筋肉が発達している。そして首が太くて丸坊主。耳はつぶれていない。柔道かレスリング。そのいずれかの経験者と見当をつけた。


 俺たちと奴らとの体格差は大きい。手足の長さも体重も全く違う。まともに試合をする相手じゃない。


 もちろん喧嘩なら話は別だ。


 目の端で桂木の動きは捉えていた。


 踵に体重を乗せ両手をぶらりと落とした自然体。


 構えはしない。


 昨日も村木が俺をアマチュアと呼びプロが来るのではと挑発してみせたとき桂木はこの自然体で佇んでいた。


 いきなり構えを見せて敵対の意志を表明するような真似はせず、それでいて何かあったら瞬時に対応できる状態を保っている。


 桂木は落ち着いている。


 肝が据わっているのか? 予め知っていたのか?


 クソガキども倉田学院高校の制服を着た3人とも木刀を持っているのに。


 そして奴らはけもの道の入口までは車で来た公算が高い。単車の音は聞こえてこなかった。


 つまり少なくてもこいつらの誰かは車の運転ができる。もしくは運転をしてきた奴がもう一人いる。


 剥き出しの木刀を昼間から持ち歩く輩を見かけたら警官や一般市民が黙っていない。


 奴らから逃げおおせてもけもの道を出たところで取り囲まれる可能性がある。


 俺と同じ程度の事は桂木ならわかりそうなものだ。


 何も知らずにここまで落ち着いているのなら大したもんだ。


 舌打ちしたくなるのをこらえた。


 村木は俺と桂木よりも一歩前に歩み出ていた。


 あのクソガキは茶髪と言っていた。


 村木はここに到着するとポケットからスプレーを取出し頭に振りかけていた。


ご丁寧にブラシと手鏡まで使って。


『写真を撮るから黒くしておきたいんだ。桜には黒髪の方が似合うから』


 偶然にしては出来過ぎている。


 そして村木は女のように見られることに神経を尖らせていた。


 クソガキどもが倉田学院高校の生徒である前提すら疑った方がいい。 


 奴らはわざわざけもの道を通ってまでここにいる。


 奴らがここいにいるということは、俺たちと特定していなかったとしても少なくてもここに自分たちが探している者がいるというかなりの高い確度の情報を得ていたことを意味している。


 俺はこの場所、桂木の言葉によると『桜の庭』の存在を知らなかった。


 俺たちを誘ったのは桂木だ。だが桂木は昨日クソガキ二人を俺の目の前で蹴り倒して見せた。


 村木がここに来るつもりならキャリーバックなど持ってこないという仮説は成り立たない。

 

 奴は染髪用のスプレーもブラシも手鏡すらポケットに入れていた。

 

 この場で髪を染める言い訳ならこう言えばいい。


『昨日生活指導の先生に黒く染めてこいと言われたけど時間が無かったんだ。今日も何か言われるの嫌だからその前に簡単にスプレーしておくよ』


 そして頂上を目指すことを主張した山川は当然知らなかったはずだ。


 この状況を村木が作った。


 予断は危険だが可能性は高いと見ていいだろう。


 どこかで俺たちの行動を監視している奴がいる。


 その可能性も捨てきれないが。


 これはチャンスでもある。


 村木と桂木の本性をこの目で確認する。


 昨日のクソガキどもを許したわけではないが俺の私情よりも任務が優先だ。


 しかも、俺たちを監視している存在を頭に入れて行動する必要がある。


 ここは小さな児童公園ほどのスペースがある。


 狭いトイレじゃない。


 沙羅に連絡を取り応援を頼むことにする。


 おそらく自称傭兵辺りがやってくることになるのだろう。


 到着するまで逃げおおせてあとは任せてしまえばいい。


 傭兵なら奴らが昨日学生鞄を俺からひったくった背景に迫れるかもしれない。


 そう考えて俺はポケットからスマホを取り出しSNSアプリで応援を要請するメッセージを送った。


 符丁を使った緊急用のメッセージだ。


 沙羅じゃなければ正確な意味は分からない。


 あとは応援がくるまで時間を稼げばいい。


 まずは奴らの目的を探ることが第一だ。


 昨日のクソガキのうちで体格のいい方が言った。


「おめぇだよな? 覚えてるだろ? 俺ら。鞄はどこだ?」


 俺にに向かって言っていた。


「え? なんですか? ごめんなさい。意味がちょっと」


 俺は時間を稼ぎながらも内心ほくそ笑む。


 自称技術者曰く惚れ薬が仕込まれたあの学生鞄。それが奴らの目的だった。


 鼻で嗤うのを堪えるのに苦労した。


 素人は甘い。


 だがそれは昨日の朝、素人に俺が後手に回ったことも意味していた。


 油断はしない。


 気を引き締める。


 つま先を内側に向けしおらしく上目づかいで体を小刻みに震わし瞳を潤ませた。


 「あれ? 人違いかぁ?」


 クソガキどもが顔を寄せ合い話し合いっているときだった。


 ドスドスと重たい足音。 


 駆け寄ってくる人影。


 奴らはそちらに顔を向けた。


 俺は奴らから目を逸らさず観察していた。少し離れた位置で桂木も俺と同じように奴らを見ていることを目の端で捉えていた。


 隙を突かなかった。


 このままクソガキどもが引き返すならそれにこしたことは無い。

 

 だが、走ってきているのは山川だ。


 俺の丹田辺りで何かが縮む気配。


 勢いのまま俺とクソガキどもの間に割り込むと山川は叫んだ。


「あ! てめぇら! 昨日、篠原さんの鞄をひったくったって奴らだな! 死にたくねぇならとっとと失せろ!」


 細田と呼ばれていた男が叫んだ。


「おい! 篠原さんって誰だ!」


 俺は動揺などしなかった。


 山川の行動を読んでみてもどうせ徒労に終わることはすでに学習していた。

いつも読んでいただきありがとうございます。

次回予告

 山川が悪魔の生物兵器を……

「第46部分 サーティーンの困惑 予断も油断も天地も無用」

4月28日(火)午前7時掲載予定です

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