第43部分 サーティーンを追う女の嘆き 学生のころに戻ったところで……
今回の文字数は空白、改行含めて1678字です
一部修正、加筆いたしました
相変わらず私の休日は碌なことにならない。私は目の前で行われていることにまるで現実感を感じられない。ここまでの経緯が頭を掠めた。
昨晩、珍しく前川先輩から電話がかかってきた。
私の母校倉田高校演劇部の先輩だ。高校に通った期間が重なることはなかったが倉田高校演劇部のつながりは強い。
卒業生も現役世代の公演などで顔を合わせることが多く、底で知り合った前川先輩は私の良き相談相手であった。
その前川先輩の頼み事。休日ならばもちろん断る理由がない。しかも簡単なことだ。
前川先輩が受け持つ生徒、桂木、山川、篠原。
入学式に遅刻や欠席した者たちでできるだけ早く掌握したいのでこの3人が遠足大会でどんな様子だったか見てくれないかということだった。
お安い御用だった。
また気心が知れた前川先輩は私のモチベーションを上げてくれた。
『桂木と仲がいい村木君はホントに美形よ。女の子の恰好させてみたい位に」
私は喜び勇んで朝早くから数時間もかけて集音マイクとカメラなど盗聴、盗撮用品一式を持ち込み、倉田高校演劇部員にはなじみのある『桜の庭』の藪の中で待ち受けていた。
前川先生の話だと『桜の庭』に彼らはやってくるとの話だった。恐らく現役の演劇部部長の鳴神恵梨香を使ったのかもしれないが、見事に村木君、山川、桂木、篠原の4名は『桜の庭』に現れた。
私は見とがめられた時のために変装をしていた。
万が一彼らが『桜の庭』に現れなかった場合は私も遠足大会のコースを歩く羽目になる。
その時のためにかつて高校時代に愛用していたジャージに久しぶりに袖を通した。ヘアスタイルも高校時代と同じく髪をお下げにし、銀縁の伊達メガネをかけている。
その姿で私は集音マイクが拾った音を聞くためにヘッドホンを装着していた。
私の周囲に野鳥観察のハウツー本を何冊か配し準備万端。
今日の任務に励んでいた。
楽しそうだった。
何となく自分も高校生に戻った気分で彼らを生暖かく見守っていた。
そして桂木の言葉が耳を打った。
『バカ! そっち風上でしょうが! 風下の方に行きなさいよ!』
そして方向転換をして私がいる藪の方へ向かってくる山川。
別に慌てる必要はなかった。
山川が私の存在に気が付いたとしても、遠足大会なのに野鳥を観察している変り者。ぐらいにしか思われないように偽装はしてある。そして、さすがに彼は私を避けて別の場所にいくであろう。
そう読んでいた。
だが私が落ち着いていても山川は慌てていた。
私の存在などまるで空気であるかのごとく、気が付くそぶりも見せないで隣でやおらズボンを、そして下着を降ろしてしゃがんだ。そして手に持ったコンビニの白いビニール袋の口を広げお尻にあてがった。
私はヘッドホンを外して思わ彼に聞いてしまった。
「あ、あなたは、なにをやっているのですか?」
「クソだよ。見てわかんないのか?」
「え?」
「あれ、同じ一年だよな? お前。タメぐちでオッケーだろ?」
「あ、いやそこではないんですけど?」
私は彼の姿を上から下まで二度見してみた。
それで伝わると信じる。そう決めて。
「ああ、これ? ほら自分の出したものはちゃんと持って帰らなきゃ。友達が俺に渡してくれたんだ」
全く伝わらなかった。
山川はお尻にあてがったコンビニの袋を軽く振ると照れくさそうに笑って俯いた。
そして私を見た。
なぜか一回立ち上がった。
しゃがんだ。
こっちを見た。
目が合った。
「えぇええええええ!」
山川の声は藪の中に吸い込まれていった。
なぜ私が張り切ると碌なことが起こらないんだろう。
とりあえずヘッドホンを外していたことが不幸中の幸いだ。
マイクで拾っった大声をヘッドホンで聞いたら耳が痛いに決まってる。
私は人の話を聞くときはヘッドホンを外すという教えを守った自分をほんの少しだけ誇りに感じていた。
次回予告
山川がサーティーンを追う女と藪の中で出会いますが……
第44部分 「真相はいらない 真理が欲しいんだ」
近日掲載予定です
お楽しみに




