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第33部分 山川の想いがメンドクサイ方向へ

今回の文字数は空白、改行含めて2150字です

 イケてる女子2人と俺っ娘村木。フィーチャリング俺。


 という変則カルテットで歩いていると周りからチラ見されていることに気が付いた。篠原さんと村木と桂木を従えて歩く俺はリア充のなかのリア充、リア王に見えるに違いない。


  道を開けな。モブキャラども。俺たちリア充のお通りだぜ。


 肩で風を切って歩く。気持ちよかった。前を向いて歩くことが、こんなに気分がいいなんて。

 

 こんな事すら忘れてたんだな、俺。


 篠原さんと桂木と村木のはしゃぎ声も一瞬、忘れた。


「なあ、そろそろ、腹減ったな」


 しばらく歩いていると村木が腕時計を見ながら言う。


 高そうなごつい時計だ。思わず、俺の安物のデジタルウオッチを見る。


「そうだね。ちょっと早いけど食べちゃおっか」


 桂木が答える。


「え? でもまだ最初のチェックポイントにも来てないよ?」


 篠原さんが二人をたしなめる。


 俺たちが歩いているのは学校にほど近い倉田山の頂上へのハイキングコースだ。


 舗装されているとはいえ両脇は高い木々に囲まれた一本道。休憩できそうなところなんて見当たらない。


 ここは篠原さんの意見をフィーチャーする。


「え、こんな所で?頂上まで行けば何かあるんじゃないの」


「頂上なんて、すげえ混んでて落ち着いて飯喰えないよ。ランチはゆったりしようぜ。女子もいるんだし」


「ランチって、お前は女子かっ」


「うるせえな」


 やべっ。マジなトーンだ。


 こいつ。


 女っぽく見られるってのが地雷なんだ。


 それだけ女に見えてもおかしくないのに?


 その才能を活かして俺をもてなせよ!


 そんな想いは当然隠す。


 とりあえず謝っておくことにした。


「ゴメン」


「いいよ。別に」


 村木はプイッと顔を反らして、スタスタと歩いて行ってしまう。


「しょうがないなぁ。あー君ちょっと」


 村木が足を止めた。


「ほら、あんたから行きなさいよ」


「そうね。言いづらくても早めに、えいって言っちゃった方がいいよ」


 俺は篠原さんと桂木に挟まれて村木の前に立つ。


 でもなんて言ったらいいのかわからなくて、ただ突っ立っていた。


「しょうがないなあ。仲直りの握手して」


「あーちゃんに言われちゃうとね。しょうがねえなぁ。ホラ」


 村木が照れ笑いを浮かべながら右手を差し出した。


 俺は、ただその手を見ていた。


 ほっそりとした長い指。俺の手と違って傷もマメもない。爪も形が整えられていた。


 テレビや雑誌なんかのアンケートとかで『綺麗な手の男っていいよね』などと無邪気に言う若い女の人のイメージが浮かんだ。


「ほら、あんたも手を出しなさいよ」


 桂木が焦れたように俺の手を掴もうとした。


 思わず、その手を振り払った。


「何だよ。お前」


 村木が言う。その声は明らかに怒っていた。


「ちょっと、待って。あー君」


 村木はやれやれ、とでも言うように、両手を上げた。


「山川、私の目を見て」


 桂木が俺の顔を下から覗き込む。思わず身構える。


「何か訳があるんでしょ? 言ってごらん」


 昨日は問答無用で疑ったくせに、今日はやさしい声を出す。


 なんだよ?


 言いたくなかった。


 桂木から目を逸らすと村木と目が合ってしまった。


「別にもういいよ」


 村木は振り返って歩き出すとポケットからハンカチを取り出して、顔に何度か当てがった。


 俺もつられてジャージの袖で顔の汗を拭った。


 俺がつけている安物のデジタルウオッチが一瞬見えた。


 ハンカチで顔を拭く村木とジャージで顔を拭う俺。


 高級腕時計をさりげなく身に着けスマートで、キレイな顔して天然サラサラヘアの村木。


 いつも女子に囲まれている村木。


 俺は安物のデジタルウオッチ。シンプルにデブ。ごつい顔してストパーフェイクのサラサラヘアの俺。


 そして俺を取り囲んできたのはヤンキーども。


 俺たちなんでこうも違うんだろう。


 同じ人間なのに。 


 スタスタと歩く村木の後姿を見ているうちに段々と腹が立ってきた。


 少しでも俺の気持ちを思い知らせたくなった。


「ちょっと待てよ!」


 思わず叫んでいた。村木の体が固まった。


 村木は振り向くことなくそのまま立ちどまっていた。その後ろ姿に語りかけた。


 上手く言えるかわからない。


 わかってもらえるかなんてどうでもいい。


 ただ言うことに決めた。


 とにかく言ってみる。


「お前の手が綺麗すぎるんだよ」


「キレイならいいじゃないの」


 桂木が横から口をはさんでくる。思わずマジに言ってしまった。


「悪い。少し黙っててくれないか。大事な話なんだ」


「はいはい」


 桂木はそう言って俺から少し離れた。


「もっと、離れてくれ。村木と二人で話したい」


 素直に離れてくれる篠原さん。


 おお、俺の心のカノジョ(仮)よ。


「いやよ。めんどくさいもん。これでいいでしょ」


 そう言って桂木は両手で耳をふさいだ。


 このコドモ女豹が!


「絶対、聞くなよ」


 俺は咳払いをして村木の瞳を見つめた。

次回予告

山川が篠原ことサーティーンと桂木の前で村木に告げたその内容とは?

第34部分「大きければ良い、というのは思い込み」

近日掲載予定です

お楽しみに


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