第32部分 桜の木の下には……
今回の文字数は空白、改行含めて3166字です
4月13日一部修正を行いました
「それでは、第九十八回、徒歩遠征大会スタート。」
前川先生の声がマイクを通して響いた。俺たちは倉田高校の校門から数人ずつ固まりながら、ダラダラと歩き始めた。みんな学校指定のジャージを着て背中にデイパックを背負っている。
今日は倉田高校の伝統行事、徒歩遠征大会だった。先生の話では入学したばかりの一年生やクラス替えをした2、3年生の親睦を深めるという目的があるという話だったけど。
俺は見事にグループからあぶれていた。
一人だけ出遅れた俺はなかなか進まない人の波の後ろの方で校門の前で迷子の気持ちを思い出していた。
だけど、俺は寂しくなんかなかった。
俺の脳内には妄想力という心強い相棒が住んでいる。相棒の活躍が待ち遠しい。
前川先生は俺のかなり先を歩いているはずだ。
昨日のタイトスカート姿を思い出す。揺れるお尻が脳内に現れた。
今日も俺の相棒はいい仕事をしてくれそうだ。
それに前川先生はスポーティな恰好になっているはず。
俺は相棒に前川先生の揺れるお尻、ジャージにパンツの線が浮き出ているところを脳内ビジョンに映し出してもらうことにした。
あと一歩のところで上手くできない。脳内ビジョンのピントがなかなか合わない。
早く篠原さんに会いたかった。
おい、しっかりしてくれよ。相棒。今日はジャージの女子の後ろ姿という素晴らしい素材を大漁ゲットできる日なんだからな。
一人の女子に囚われてる場合じゃないんだ。
まあ、ジャージもダサいけどな!
学年ごとに色分けされていて、3年はエンジ色、2年は緑。俺たち1年は青。
チャックの無い上からスッポリ被るタイプ。
そんなジャージを着ているはずなのに、人目を惹きつける可愛い女子3人組がいた。
道のはじの方で固まっていた。
そしてそんな3人のうち一人が俺に気づいて笑顔で手を振る。
篠原さんと村木と桂木だった。
「山川、一緒に行こうぜ。っていうか顔色悪いぞ。お前大丈夫か?」
村木が言う。
「お前は俺の顔色しか見てないのか? 教室で裸の王様になってんだからそりゃ顔色もブルーですわ。それよりお前らだけか? なんかナイト的な奴らは?」
「みんな、同じ中学同士で行くんだろ。何十キロも歩くんだから。俺もその方が気が楽だ」
「そうか。わかった。じゃあ4人で行くか?」
「ねえ奈緒。コイツ、山の中にウチラを連れ込むかもよ。どうするぅ?」
「するかよ。そんなこと」
「大丈夫よ。私は信じてるから」
篠原さんはにっこりほほ笑んだ。
良いことだとは思うけど。
なんで女子って仲良くなるの早いんだろう?
まあいいけど。
男同士とはちょっと違うよな。
それに今は考える時じゃない。
素材を集める時なんだ。
篠原さんは大きめのジャージをブカブカな感じできている。
可愛いなぁ。
そう言えば俺の学ラン。彼女ブカブカな感じで羽織ってた。
そして焼きそばパンだ。
カレーパンでもメロンパンでもましてやアンパンでもないんだ。
焼きそばパン!
きっと彼女も俺が胸が詰まって唐揚げとコーラを飲み干せなかったみたいに焼きそばパンを食べきれなかったんだろうな。
ベランダで青い空を見上げて雲というキャンバスに俺の顔を思い描いていたんだ。
こうやって会えない時間も相手を想う。
きっとこれが愛。なんだろうな。。
いつか篠原さんに俺のワイシャツを着せる。
一つ目標ができた。
こうして俺は一つ一つステップアップしよう。
リア王までの道のりは長いけど。
とりあえず前を歩く篠原さんと村木と桂木の後ろ姿を何となく見ながら想った。
桂木は知性派眼鏡のきりっとした感じの美人。
その実態はコドモ女豹だけど。
まあ、やんちゃな妹系?
篠原さんは昨日は桂木に似た感じだったけど高校デビューするためにイメチェンしていた。
キレイでやさしいちょっとHなお姉さん系。間違いない。
その実態はイマイチわからないけど
でもわかっていることが2つある。
それは彼女は復讐請負人サーティーンとして危険を顧みず戦ってきていたこと。
頑張って背伸びしてお姉さんとして振る舞っていること。
あと村木さん。
薄い茶色のサラサラヘアー。
下手したら桂木よりも細いかも。そんな華奢なボディ。
でも大人しそうな顔して言うことはハッキリ言う理論派。
それでいて俺の体を心配してコーラを飲ませなかったり、顔色を気にしたり。
俺の力になりたいから、何て言ってくれる情に厚いところもある。
あ、もしかしてサラダもやたらと食わせたのも俺の健康のため?
おいおい。言いたくもなるよ。
『お前は俺の母親か!』って
まあ、ちょっと口うるさいけどしっかり者の押しかけ女房系ってとこかな。
時々自分の事を俺って呼ぶ僕っ娘ならぬ俺っ娘。
やべぇ。3人ともすげぇ萌えるんですけど。
もしかして、俺はすでにリア王なんじゃないのか?
だって3人だよ。3人。
認めよう。篠原さんや村木さんや桂木を惑わす魅力が俺にはあるのだ。
ようやく分かった。
リア充はこうやってさらに女の娘を求めリア充スパイラルを駆け上るのだ。
この世の真理を見た気がした。
あれ?
何かがおかしい。
何だ? この違和感。
桜の並木道の下をそうやって歩くキレイな顔で微笑む村木。
止めろ。
なんかお前まで可愛い女子に見えてくるだろ?
それに俺は4人で行こうって言ったよね?
そしたらフツ―俺と篠原さん。お前と桂木。
そうなるよね?
なんでお前ら3人で並んであるいて俺一人で後をつけてんの?
村木よ。
俺は今お前に爆発してもらうことよりも。
お前ら3人に『アーン』とか言われながら桜の木の下で唐揚げ食べさせてもらうところが脳内ビジョンに映し出されてるんですけど!
あとなぁ。お前らお喋りに夢中で気付いていないだろうけど……
「おい。あの3人かわいくねえか? ちょっと追い抜いて顔を見てみようぜ!」
さっきからお前らを追い抜いた男子のグループが振り返ってお前ら見てるんだぞ。
「なあ。あのデブだろ? 教室で裸で走り回ったって奴。顔を見てみようぜ!」
さっきから俺を追い抜いた奴らが俺を指さして笑ってるんだぞ。
クソっ。
どうして桜の木ってのは人を狂わしちまうんだろう?
「山川」
3人が振り返って俺を見た。
やべえ誰に呼ばれたのかわからない。
タイプは違うけど……
なんかみんなキラキラして見える。
「これから私も山川ってよぶことにしたから。よろしくね」
篠原さんだった。
「ああ、いいけど。どうして急に?」
「ほら、3人で相談したの。私だけ変わった呼び方するよりも3人で一緒に合わせようって」
「え? なんで?」
「山川はみんなの山川だから」
3人の声が重なった。
3人は顔を見合わせて声を上げて笑った。
舞い散る桜のなかで笑う3人。
それはスクールカーストの頂点にいるイケてる女子グループにしか見えなかった。
しかも篠原さんと村木はキャリーバックだし!
リュックじゃないよ! キャリーだよ!
やべぇ。
俺。ホントにドラッグなんてやってないよな?
俺が気が付かないうちにドラッグ吸わされてたりしてないよな?
よし。
今の俺の気持ちは桜の木の下にいるからだって信じることに決めた!




