第31部分 信じるんじゃない! 信じるって決めるんだ!
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4月12日 一部修正を行いました
「みんな! 俺の話を黙って聞いてくれるって奴は拳を突き上げてくれないか!」
俺はハリーのギャラリーの気持ちを一つにする儀式みたいなものを真似てみた。
拳が上がった。
5つ……
篠原さんと村木と桂木とジェイとハリー。
「えっと。あの…… なんか調子に乗ってすいませんでした!」
とりあえず深く深く頭を下げた。
坊っちゃんガッパは俺を見ながらニヤニヤ笑っていた。
はい!
もうこんな奴はどうでもいい!
数なんて関係ない!
誰かが俺のために拳を上げた!
このことだけは俺は絶対忘れない!
「山川君。話は私があとでちゃんと聞いてあげるから今は服を着てくれる? 私の言ってることわかる?」
「は、はい。わかります。わかってます。今着ます。俺は人間ですから。人前では服を着ますから」
バサッ。
小気味よく布地を振る音がした。
「はい。山川君」
篠原さんの声。
俺の足元でトランクスを両手で拡げていた。
「えっ?」
俺を見上げながら囁くように言った。
「早く履いちゃって。あんまり他の女の子に見せたくないんですけど。山川君のこと」
「う、うん」
俺は彼女が拡げてくれた。トランクスに慎重に足を通した。
スルスルスル。パフ。
俺はトランクスを装備した。
「あとは、自分で着れるでしょ。はい」
篠原さんに服を渡された服をいそいで着る。
「先生。とりあえず注射の後とかは無いみたいですけど」
「そう? でも念のため足も見せてもらって」
「はい。わかりました。山川君。裸足になって。片方づづでいいから足の指を拡げて見せて」
とりあえず言われたとおりにする。
「オッケー。先生。足にもありません」
「わかったわ。篠原さんは席に戻って。山川君も服を着終わったら席につきなさい」
みんなずっと黒板の方を見ていた。
俺を見ちゃいけないもののように扱っている。
裸の王様。
そんな言葉が浮かんだ。
パチン
サスペンダーのゴムを伸ばして俺の胸にヒットさせてみた。
クスリとも笑う奴はいなかった。
俺は大人しく席に付いた。
「大丈夫? 落ち着いた?」
前川先生に尋ねられた。
「はい。大丈夫です」
「とりあえず時間もなくなっちゃったから遠足大会のこと手短に話すわよ」
え? さっきのことスルー?
「先生。すいません。さっきのこと説明しなくていいんですか?」
「もちろん聞きたいことも言いたいことも山ほどあるわよ。最初に私が心配したのは無理矢理裸にされたのかってこと。でもそれならあんなに嬉しいそうにはしないでしょ?」
「ええ。まあ」
「じゃあドラッグかといえば特に変な匂いもないし。注射器を使うようなものも疑ったけど篠原さんの話でそれもなさそうだし。まあ、素であんなことするのが一番怖いかもしれないけどね」
そう言って先生は笑顔を見せた。
教室の奴らも笑った。
「すいませんでした」
「山川君。これで終わりじゃないわよ。あとでタップリ聞かせてもらうわ。いくら何でも調子に乗り過ぎよ」
その目は決して笑っていなかった。
そして、先生は入学のしおりに書かれていたようなことを簡単に説明すると俺たちにジャージに着替えて移動するように指示を出した。それから俺の席までやってきた。
「あなた。恵まれてるわね」
「はい」
「あら。わかってるのね?」
「ええ。あの拳ですよね?」
「ええ。五人だけどあなたの話を聞こうとした人がいた。あんなことした人の話を聞こうなんて人。滅多にいないわよ」
「はい。大切にします」
「そうね。それがいいわ。それからね。よく人は信じるとか信じさせてとかって言うけど」
「はい」
「あの5人はね。きっと信じるって決めたのよ。あなたに信じさせてもらおうとかじゃなくてね」
そう言って微笑むと俺の肩を軽く叩いて先生は教室から出て行った。
先生……
なんか、いい話みたいにまとめてますけど……
裸になったのはジェイやハリーのせいでもありますから!
俺が駆け出したのは篠原さんが耳とか乳首とかにあんなことしたからですから!
『サーティーン、行きまーす!』とか言ってましたから!
悪気はないことを信じるって決めましたけどね! たった今!
村木と桂木は…… どうなんだろう?
っていうか、村木が一番しつこく俺のドラッグ使用を疑ってましたけど?
桂木は俺が篠原さんを拉致るとかって疑ってましたけど?
俺が心の中で前川先生にツッコみまくっているとみんなが教室にいないことに気が付いた。
俺を放っておいて更衣室に移動したんだ。
クソっ。
お前ら俺を一人にするなよな。
俺は慌てて更衣室に向かって走り始めた。
自分でもニヤケているのが分かった。
5つの拳が頭に浮かんでいた。
それでも拳を上げてくれたんだ!
俺は絶対忘れない。
次回予告
倉田高校伝統行事の遠足大会が始まりますが……
第32部分『桜の下には……」
お楽しみに




