第28部分 それをデュエルと呼ぶには無理がある
お知らせ
作品を掲載していくなかでタイトルのハードボイルドという言葉と作品の内容のズレが大きくなってきたと感じるようになりました。そのため、誠に勝手ながら次回より以下のタイトルに変更させていただきます。
新タイトル「俺のステップアップがビミョーに斜め上の方向へ」
ハードボイルドテイストの作品をご期待下さった皆様
ご期待にお応えできなくて誠に申し訳ございませんでした。
読んで下さる皆様に少しでもお楽しみいただけるように努めますので今後ともよろしくお願いいたします。
今回の文字数は空白、改行含めて4303字です
㋄21日 一部修正いたしました。
「お、いけるな。砂糖は使わず出汁で味付けか。お前のおふくろさん料理上手いな」
学帽男は卵焼きを噛みながら言う。
モグモグと卵焼きを噛むその姿。
シンプルにゴリラみたいだと思った。
とりあえず学帽男改め『学ランゴリラ』
そう命名しておくことにした。
「まあな」
それでもなんかちょっと元気出た。
どうでもいいけどおふくろなんて言う奴を初めて見た。
「コイツ、キッタネー! 俺が吐いたのくってやんのー」
坊っちゃんガッパがはしゃいでる。
「なんだ? お前。自分が吐いたのが汚いって言ってんのか? 別にこれくらいなら食えるよ。俺は。もう一個いいか?」
学ランゴリラはクールに切り返した。
「悪いな。俺も好きなんだ。おふくろの卵焼き」
俺も学ランゴリラに合わせておふくろって言ってみる。
何だか照れくさい。
「そうか。いつかまた食わせてくれ」
「ああ」
俺と学ランゴリラは何となく笑った。
その瞬間だった。
「うわーこいつハゲだハゲ。キシシシシ」
坊っちゃんガッパは学ランゴリラの学帽を振り回していた。
別に学ランゴリラはハゲじゃなかった。
ただの丸坊主。
はしゃぐ坊っちゃんガッパを無視して学ランゴリラは言った。
その目はぶっとい眉毛の下で鋭く光った。
「お前。こいつをやっつけたいだろ?」
「そりゃ、そうだけど…… どうするんだ?」
「任せとけ。おいハリー」
「あいよ」
ハリーと呼ばれた男子が教室の入口の柱に立っていた。細身の背の高い男。調子の良さそうな感じでにこにこと笑っていた。そしてハリーは人差し指を中指をこめかみにあてていた。そうこめかみに2本の指をあてて待っていたんだこいつ。
そしてこめかみからピッとその指を俺たちに向けた。
どうでもいいけどこいつらわざわざ入口のところでポーズ付けるののなぜなんだ?
「行くぜ。ジェイ」
「おう」
そしてハリーはポケットから何かを取出し学ランゴリラ改めジェイに向かって投げた。
カラン。
はらはらはら。
沢山のカードが宙を待った。
たぶんカランっていうのはカードが入っていたケースが床に落ちた音だと思う。
「あーあーあ」
とか言いながらジェイとハリーは床に拡がったカードを拾い集める。
「キシシシ。落としてやがんの。だっせぇー」
坊っちゃんガッパだけだった。
誰も笑えないし動けない。
笑う前にまず状況を見守ろう。そんな感じだった。
「おい。ハリー。ちゃんと輪ゴムで留めておけっていつも言ってるだろ!」
「おい。ジェイ。いいだろ輪ゴムぐらい? 拾えばいいんだからさ!」
そんな会話が聞こえてくる。
なんなの? この凸凹バディ。
カードを拾い集めるとジェイは俺の近くにやってきていった
「なあ、山川。ここは俺とハリーに任せて奴と勝負しないか? 頭脳と度胸を武器に戦うカードゲームだ。危険はない。」
「いいけど……」
俺は坊っちゃんガッパの方を見た。
「キシシシ。何のデッキ使うんだよ? 言っておくけど俺はデュエルで敗けたことないんだぞ。」
デュエル…… いろんなキャラクターの描かれたカードを使った決闘。
やったことがなかった。
いつもゲームソフト屋に言ったとき、時に真剣に、時に楽しくデッキを操ってプレイしている人たちを見て憧れていた。見知らぬ人をデュエルに誘うなんてできるわけがなかった。もちろん学校でも誘えるわけが無かった……
クソっ。デュエルをやったことがない俺が勝てっこない。
思わず叫んだ。
「俺のターンだ。村木と桂木を召喚する!」
桂木…… 属性 コドモ女豹 カード効果 高校生レベルのモンスターを瞬殺
村木…… 属性 リア充改め猛獣使い カード効果 桂木の暴走を無効化
改めて考えるとこの二人。セットじゃないと使いにくいな。
「それは、無理そうだぜ。見てみろよ」
ジェイが顎でしゃくって見せると人の壁ができていた。
後ろにいる大切な人を守る、そんな気持ちが溢れていた。男子数人との女子数人の壁。目つきは鋭い。大切な人を守るナイトと女騎士。多分それぞれの壁の向こうに桂木と村木がいるんだろう。
俺のせいで不穏な雰囲気ができて大切な人を守りたくなったんだろうな、きっと。
村木。桂木。お前らが何も言ってくれないのもわかる。クイーンやキングを守るためにナイトや女騎士が必死なんだ。それをのこのこ出て行くようじゃ人の上に立つ資格は無い。
でもこれだけは後で言ってやる。
『お前ら何かの召喚士か!』
「安心しろよ。大戸も聞いてくれ。これは流行りのカードを使ったゲームじゃない。ただのトランプ。されどトランプだ」
「トランプかよ! だっせー。キシシシ」
と坊っちゃんガッパ。こいつのホントの名前はわかったけど呼んでやらない。
「トランプか? なら出来る思う」
と俺。
俺たちの反応を確かめるとジェイは坊っちゃんガッパに言った。
「なあ、大戸。ここで勝てば女子から注目……」
「ちょっとエロブタと遊んでやるか」
ジェイの言葉にかぶせるように言うと坊っちゃんガッパは椅子の向きを直して俺の前に座った。
目の前に座るぼっちゃんガッパが言う。
「瞬殺してやるよ。キシシシ。お前を引っ叩いた女子も見てるかもしれないしな」
望むところだ!
絶対勝つ!
もしサーティ―ンが見ててくれたら……
『この勝利を君に捧げるよ。坊っちゃんガッパはなんのアイテムもドロップしなかったから……』
『ううん。いいの。おねぇさんは君が無事だっただけで嬉しいんだゾ」
俺は彼女の語尾の『ゾ』が片仮名なのがちょっぴりウザい。そんな気持ちはドブ川に叩き込んで俺のストパーヘアーをやさしく撫でてもらうのだ。
ハリーが調子よく声を上げた。
「ヘイ、ボーイズアンドガールズ! さあ、さあ、お立会。これから大戸と山下のデュエルが始まるよぉ。男たちの意地とプライドを賭けた勝負だ! ルールはシンプルだから見てるだけでも楽しいよ。みんな寄っといで!」
わらわらとみんなが俺たちの周りに集まってくる。半円状に俺たちを取り囲んだ。まるで俺が夢見た闘技場。アニメで散々見てきたバトルシーン。燃えてきた。俺はここで愛と誇りを賭けて闘士として憎き宿敵を打ち倒すのだ!
俺は思わず窓を開けて新鮮な空気を鼻から大きく吸い込んだ。
恐怖も不安もない! それなのにこんな緊張感と興奮を味わえるなんて!
ハリーが続けた。
「オーケーみんな集まったな。じゃあ、勝負のルールを説明させていただこう。インディアンポーカーっていうゲームだ。知ってる人いるー?」
ギャラリーも俺も坊っちゃんガッパも小首を傾げるだけだった。
「オーケー。じゃあちょっと長くなるけど説明しよう。一対一のデュエル向けにハリー流にアレンジしてあるからルールはチョー簡単だ。プレイヤーにはスペードとハートそれぞれエースからキングまで13枚のトランプが配られる。そしてそれぞれ自分の手札をシャッフルした後にテーブルに置くんだ。自分では見ない。自分でカードは選べない。それを相手だけに見えるようにおでこの辺りで持つんだ。いいかい?」
そこで区切ってハリーは自分で実演して見せながら俺と坊っちゃんガッパとギャラリーの顔を見渡した。
みんなうんうんと頷く。
「オーケー。では続けよう。このおでこの前でかざした手札。その数字の大小で勝負が決まる。エースが一番弱い。そして数字が大きくなるごとに強くなる。キングが最強だ」
いいね!
キングは最強。俺に相応しいゲームっぽいぞ。
「それじゃ『戦争』とどう違うんだよ。キシシシ」
そういやトランプの『戦争』っていうゲームはよくやったな。一人で……
そう。
あの頃、俺はロンリーキング……
ぼっちだったからな!
「違うんだよ。大戸。自分の手札がわからない。それは『戦争』も一緒だ。だけどこれはお互いに相手の手札はわかる。そこに駆け引きが生まれるんだ」
良くわからなかった俺は素直に尋ねた。
「駆け引きって?」
「オーケー。良い質問だ。山川。相手の手札を確認したら俺が『コール』って言うからお互いにコールしてくれ。分かりやすく本来の言葉と変えてあるけど、コールはウィンかルーズか勝負。この3つ。相手の手札を見て自分が勝てる。そう思うならウィン。敗けたと思ったらルーズだ」
「意味がよくわからないんだけど。自分で勝ち負けを決められるならウィンってずっと言ってれば勝てるのか?」
「キシシシ。バッカだなぁ。そんなわけないだろ」
坊っちゃんガッパは指さして俺を笑いながら言う。
「お前わかったんなら言ってみろよ」
思わず言った。
「キシシシ。言うわけないだろ」
「オーケー。山川。このハリー様がちゃんと説明するから待ってな。ギャラリーにもよくわかってない人がいるといけないからな。いいか? コールは3種類だ。勝負っていうコールもある。どちらかがルーズ、それか勝負とコールをした時点でお互いにカードを見せ合うんだ。そのときにお互いの手札の大小で本当の勝ち負けが決まる。ただし。ルーズとコールした方はその時点で負けだ」
まだよくわからない。
「じゃあ。ウィンとかルーズとかのコールっていらなくねぇか?」
「オーケー。山川。いいところに気が付いたな。そこがポイントなんだ。コールの回数ごとに何かを賭ける。そして、勝負のコールのあとで決まった勝者が全て総取りだ。もし自分の手札が相手より弱いと判断したらそこでルーズとコールすれば失うモノは最小限に抑えられるってこと」
ハリーは俺に向けて説明してくれた。
「え? 金かけんのかよ? それはさすがにマズいだろ?」
「オーケー。それは俺もジェイもよくわかってる。だから賭けるのは金じゃない」
「え? じゃあ一体何を?」
「なあ? お前ら。今日は靴下除いて何枚服着てる?」
ジェイだった。
「えっ?」
質問の意味がわからずジェイの顔を見ているとジェイはほがらかに笑って続けた。
「ベルトも上履きも1枚に数えないからな。気を付つけろよ」
どう気を付ければいいかなんて全くわからなかった……
次回予告
山川と大戸のデュエルで白熱する教室。勝敗の行方は?
第29部分「デュエルで得るモノ 失うモノ」
4月10日(金)午前7時掲載予定です
お楽しみに




