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第20部分 違和感もギャップと呼べば萌え要素

3月30日 一部修正を行いました

4月 3日 一部修正を行いました

 桂木と俺のことを彼女がどう思っているのか考えてみた。人は自分に何かしてくれた人よりも自分がなにかしてあげたい人のほうが好き。それが自然な考えだ。俺を助けてくれた彼女はやッぱり俺が好き。その考えは揺るがない。よし。


 ただ昼間みたいに桂木のことを小動物みたいに可愛いとはもう思えない。奴が時折みせる猛獣の様な激しさ。やっぱり小動物。というよりは女豹。ただ女豹と言ったらTバック。決定事項だ。異論は認めん。


 俺はまだ実物の女豹にお目にかかったことはない。噂程度でしかその存在を知らない。


 人類は未知なるものに恐れと関心を抱き、未知なるものを既知なるものに変えることで人類は進歩してきた、そして戻ることはもう無理だ。っていう話を何かで読んだ。


 それと同じことなんだ!


 例えどれだけ願っても、桂木をただの小動物みたいに可愛いと思っていた無邪気な頃には戻れない!


 知るということは危険が伴う。それでも人は人であるために知らないままではいられないって言うことも何かで読んだ。


 だけどこんな風にも思ってしまんうんだ。


 もしあのとき俺が桂木のパンツがスポーティであることを知ってしまうことがなかったのなら……。


 俺の中で桂木綾乃女豹認定委員会の会議が踊ることもなかったろうに!


 クラッシュアイスをボリボリかじる音がスー、スー、スーという呼吸の音に変わり始めた。俺は頭の中の会議を一時中断して音のする方を見た。


 桂木は俺と村木に一言も断りなくソファーの背もたれに背中を預けてその長い足を投げ出して眠っていた。もちろんミニスカートだ。制服の上着はすでに脱いでいた。ブラウス姿の桂木。呼吸に合わせて胸が上下に動いていた。胸が上昇するたびにうっすらとスポーティなブラが透けた。


 俺の中でスポーティなブラはブラじゃない。下着。ではなくただの装備だ。


『そんな装備じゃ恋の冒険に出発するのはまだ早い』


 子供みたいに桂木は無防備な姿を晒していた。


 ハーレムを夢見るこの俺の目の前で……


「う、うーん」


 寝返りを打った桂木はソファーの上で胎児みたいに丸まった。


 白いソファーの上で、桂木は手足を抱え込むように丸まった。


 正面に座る俺からは丸見えだ。


 スポーティなパンツ……


 目のやり場に困って横を向いた。


 公園だったらスポーティなパンツはシンプルにスポーツを連想させる。でもここは教室や体育館やグラウンドでもない。


 ここはリビングなんだ!


 白いソファ、黒いスポーティ。


 白と黒のコントラストに目を奪われそうだ。


「子供かよこいつ!」


 桂木を指さし、村木に向かって笑って見せた。


「確かにガキの頃から変わってないな。じゃあ毛布とってくるから変なことするなよ。信じてるぞ」 


「やれやれ。彼女は子供さ。そんな心配は10年早いさ」


 俺は肩をすくめて苦笑いしてみせた。


「信じてるからな」

 

 村木はそう言い残してリビングを出て行った。


 眠る桂木と二人きり。


 パンツ丸見えの桂木と二人きり。


 あえて言う。


 俺はいくらなんでもこの状況でパンツに穴が開くほど見つめていいとは思わない。


 俺はジェントル。


 エンジェルなんかになれないけれどアニマルにだってなりたくない!


 だから……


 そう! 


 パンツじゃない! 寝顔を見るのだ!


 だって俺に寝顔を見られるのがいやなら俺の前では寝ないはず!


 寝顔を見るだけなら桂木はすでにゴーサインを出している!


 桂木のホンネはそう読み取って間違いない!

 

 そして近くても遠くても……


 見るということには変わりない!


 例え桂木が裁判長を努める法廷に呼び出されたって主張する!


 『見てただけだけど? 君の天使のような寝顔をね!』


 俺はそっと四つん這いになった。


 息を殺した。


 そーっと、動いて、目標目の前!


 

 眠れる姫がいまここに 


 俺の耳には吐息の音がスウ スウ スウ


 俺の鼻には甘くて酸っぱい ふわ ふわ ふわ


 俺の心に炎が灯って ぼわ ぼわ ぼわ。


 俺の瞳が ガン ガン ガン見。


 いけね!


 ポエム作ってる場合じゃなかった。


 しかも韻を踏みきれてないし!

 

 まあそんなことはどうでもいいか。


 俺は桂木が女豹かどうか確認する義務があるのだ。


 観察を開始する。


 微妙にズレた知性派眼鏡。


 瞳。長いまつげをさらしてる。


 鼻。何かを求めて拡がって、力尽きて戻ったり。


 頬。ほんのりオレンジ。え? オレンジ? ピンクじゃなくて?


 唇。微かに開いて、わずかながらにグロッシー。


 口。小さな白い歯の隙間から、オレンジの香りを漂わす。


 胸。呼吸に合わせて上へ下へと行ったり来たり。スポーツブラはどうでもいい。


 お尻。丸出しスポーティ。


 太もも。


 観察中止!  


 桂木が動き始めた!


 ヤバイ! バレた! 喰い殺される!


 違う! 見てるだけだと主張するんだろ!


 落ち着いて主張すればいいだけだ! 


 そう自分い言いきかせてみたところで、ただ口を抑えて音が聞こえてきそうな早すぎる鼓動を感じる俺がいるだけだった。


「う、うーん」 


 言いながら桂木はその手でほんのりオレンジに染まった頬をカリッとひと掻き。


 俺を叱り飛ばした時の凛として情熱的な顔と無防備にさらけだすその寝顔。


 知性派眼鏡とスポーティパンツ


 ソファは白くてパンツは黒い。


 俺は立ち上がり両手を大きく拡げて深呼吸。


 胸の高鳴りはとまらない!


 動と静、知と力、天使と悪魔、小動物と女豹。


 俺はまるでそれらの波間に漂う小舟のようだ。


 これが……


 ギャップ萌えというものなのか!


 真理を胸に刻み込んだ。


 立ち上がり両手を拡げて深呼吸。


「お前、何やってんだ?」


 村木の声だった。


「いや、ちょっと酸欠。いろいろ考えちゃってな。深呼吸して落ち着こうとしてたところだ」


「そっか。確かにあーちゃんの気持ちも分かるけどちょっときつかったよな?」


 村木は毛布をやさしく桂木にかけてやった。 


 その様子を俺は深呼吸をしながら見てるだけだった。


 咳払いをして気持ちを切り替えてソファに座る。


 村木もソファに座って俺を見た。それを合図に彼女をアマチュアと呼んだ理由を聞くことにした。


「質問なんだけど」


「ああ。なんだ?」


「お前さ。彼女の事アマチュアだとか、プロが待ってるはずだとか何とか言ってたな。サーティーン業界にはワールドカップでもあるのか?」


「山川。ここ笑うところか?」


「いや。ちょっと何か挟んでおかないと聞きにくい。それだけ」


「そうか。じゃあ結論から言うぞ」


「そうしてくれ。回りくどいのはもういいよ」


「俺もだ。まあ、簡単に言っちゃえば俺はサーティーンには大きな組織が絡んでると思っていた。だから、プロの犯罪者みたいなのがきっと現れるはず。そう思ってた。あーちゃんには言うなよ。ちょっとサーティンに共感してるみたいだから」


「ちょっとかぁ?」


「すまん。ちょっとってのは嘘だ。かなりハマってる」


 俺と村木はお互いにニヤリと笑いあった。


「あれ? でもなんでお前そんなこと考えたんだ? ドライブ行くだけなのに?」


「本気で言ってるならお前も相当だな」


 村木の顔から笑顔が消えた。


「どうした? 俺、何かマズいこと言ったか?」


 村木は真顔で聞いてきた。


「しつこいけどホントにドラッグなんてやってないよな? お前?」


「やってない。それはマジ。っていうかお前もちょっとしつこいな」


「そうか。悪かった。まあ、何となくは感じてたけど。お前と俺たちはあの時の状況の捉え方がすごくズレてるみたいだからちょっと説明聞いてくれるか?」


「ああ、頼むよ」


「公園のトイレのところで俺たちと話してるとき彼女は俺のこと知ってるようなこと言ってたよな? 国会議員の息子ってことまで。」


「そういえば、カメラの呼び方がどうのとかって話してたのはなんとなく覚えてるな」


「そうだ、でも俺は彼女の事なんて知らない。昼飯のときが初対面だ。自己紹介もしてないんだ。それなのに俺のことを知っていた」


「ああ」


「俺は一応政治家の息子だ。そういうことを自慢する奴もいるけど俺はオヤジの力で友達を作る様なマネはしたくない。だからできるだけ隠してるんだ」


「そっか、気を使って大変だな」


「別に大したことじゃないよ。お前だっていちいち家族の事なんて話さないだろ?」


「ま、そうだな」


「話を戻すぞ。あのとき俺はこう考えた。俺を拉致するつもりだと。誰かがサーティーンに復讐を依頼した。そうじゃなくてもサーティンがやったっていうことにして、俺は痛めつけられて写真を撮られて脅迫される。そんなことになったらマジで人生終わりだ。オヤジに絶縁されかねない」


「まさか? 父親だろ?」


「俺が一人でここに暮らしてるのもある意味勘当なんだよ。そんなことでオヤジを頼るわけにはいかない」


「そうか。政治家の息子ってのも大変なんだな。ところでさ。お前は誰かに恨まれる心当たりがあるのか?」


 こんなマンションに一人で住まわせてもらってるくせに、ある意味勘当とかありえないだろ?


 こいつ、それだけで誰かの恨みを買うってことは考えないのかな?


「そんなわけないよ。俺なんてオヤジに迷惑かけないように人より大人しくしてるくらいだ。だけど、逆恨みってあるだろ? サーティーンが金さえ払えば何のこだわりも持たずに依頼を受けるのかそれとも、きちんと調べて復讐に値すると確認するのかなんてわからないからな」


「言われてみれば確かにそうだな」


「ああ、それに俺とあーちゃんはあの写真を見てた。二人のツーショットもあるし、あーちゃんの話も聞いてたから正直わけがわからなかった。お前はちゃんと話さないし。だけどさ、俺たちが追いついたときにはもう彼女はお前の首をじわじわと絞め始めていたからな。そこで俺の中で全部繋がった。ここまではいいか?」


 そう言って村木はコーヒーを一口飲む。俺もうなずいてコーラを飲んだ。クラッシュアイスが解けてもう甘みはなかった。


 村木にウィンクしてみた。


「マジに話してるんだぞ」


 怒られた。


 ちょっとは俺の行動の意味を自分で考えろっての。


「お前、今日はコーラ飲み過ぎだからな。もうそれでガマンしろ」


 村木はニヤリと笑うと言った。


「はぁい。村木君の邪魔してすいませんでしたぁ」


「はい。いいお返事です」


 村木は咳払いをして続けた


「冗談はこれくらいにして続けるぞ。彼女はスマホを必死で探したはずだ。それで俺はこう考えた。彼女やその仲間たちはスマホを見つけたくて遠隔操作でスマホを操作した。誰かに拾われていないか確認するために周りの音を盗聴するようなこともしたはずだって」


「たかがスマホでそんなことできるもんなのか?」


「ああ。もちろん技術や知識がいるし俺には無理だ。でもサーティーンは結構大がかりな組織が関わってるだろうしな。それよりタイミングが気になるんだよ」


「タイミング?」


「スマホなんて大事なものを無くしたらすぐに気が付くと思うんだ。お前があーちゃんの鞄に入れてずっと持ってたのに俺たちが最初スマホに気が付いたときにロックはかかってなかった。それまで探さなかったのかなって」


「なるほどね」


「お前は彼女と誰かが会ってるのを見たらしいけど何かおかしなことはなかったか?」


 あった。


「そもそもおかしくないか? 彼女が復讐を代行するなら単純に俺を闇討ちでもすればいいだろ? 拉致るのだってそうだ。あんな面倒な真似しなくても学校帰りに俺が一人になったところを車に連れ込めばいいんだから。まあ単なるミスの可能性も…… おい。山川。お前また思いつめた顔してるぞ」


 村木の言葉を聞きながら俺はあのときトイレで感じた誰のモノかもわからない白い衝動のニオイを思い出してしていた。 

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