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第18部分 聞いた方が早くても、言うかどうかは相手次第

3月28日 一部修正、加筆を行いました

『いや、合わせろって言われも! っていうか彼女が盗聴なんてするわけないだろ! それに盗聴なんてどうやって?』

 

 って言おうとしたけど、俺の声は口の中一杯のサラダのせいで、モゴモゴと言ってるようにしか聞こえない。


 いくらでデブでもブヒブヒなんて言わないし!

 

 あれ? もしかして本当に盗聴されていたとして俺のツッコミが彼女に聞かれないように? まさか? だから、やたらと俺にサラダを? 村木はそこまで考えて?


 もう、一度村木の顔を見つめた。

 

 村木は真剣な顔で頷いた。


「なあ、山川。お前たちがドラッグ中毒なら秘密厳守の病院を紹介できる。警察に捕まる心配はない。俺も力になりたいんだ」

 

 え? なんでそうなるの?


 だめだ。なんて答えたらいいかわからない。桂木に間を持たせてもらおうとアイコンタクトを送ってみた……

 

 桂木はファイティングポーズをとっている!


 桂木は人を殺しそうな目をしている!


 桂木は殺る気満々だ! 


 俺は桂木から慌てて目を逸らし精一杯の笑顔を浮かべて村木に向けて親指を立ててみた。


「いいね!」


 村木は口に軽く手をあて俺から素早く顔を背けた。


 村木は静かに深呼吸をすると俺の肩に手を載せて言った。その手は小刻みに震えていた。


 笑いたければ笑えばいいだろ!


「元カノに連絡取れるか?」


 村木の問いかけに俺は何も言わずに肩を竦めた。


 そのままゆっくりと顔を桂木のほうに向けた。


 桂木は口に手を当ててその肩を小刻みに震わせていた。


 その目は笑っていた。


 よし、桂木の殺る気を削いだ! 

 

「そうか。彼女から連絡がお前にあればいいんだけどな。いつでも病院の手配はしてやるから」


 あ……


 そう言えば彼女『救急車は逆に困る』って……


 ドラッグなんて信じられないけど……


 でもあれだけフラフラしてたのに救急車が逆に困る理由って他にあるか?


 まさか、もしかして……


 嫌だ! そんなことは考えたくない! 


 だけど……


 腰に感じたあのビミョーなふくらみは……


 まさか! 赤ちゃん?


 俺の?


 ってことはさすがにないか……


 でも!


「いや! 病院は彼女が周りの人ときちんと話し合ってからだ! こういうことは結論を急いじゃいけない! もちろん俺も全力でサポートするつもりだ! 場合によっては俺は学校を辞めて働く!」


 ドラッグなのか妊娠なのかはわからない。だけど俺は彼女の意志を尊重したい。


 いずれにせよ彼女ときちんと話し合わなきゃならない。でもドラッグだろうと妊娠だろうとそう簡単に相談できることじゃない。とにかく俺にできることは俺が彼女の味方だって伝えることだ。


 盗聴なんてホントかどうかわからないけど言わずにはいられなかった。


 そう思ったらむしろ彼女が盗聴してるのも俺の本当の気持ちを確かめたかったからのような気がしてきた。不安だったんだろうな。俺、『君はそういう女なのかよ!』なんてヒドイこと言っちゃったし。


 俺と話し合いたくてドライブに誘った。でもやっぱり言うのが怖くなって走って行っちゃった。


 そういうことなのかな?

 

 あれ? 妊娠してても喧嘩とかダッシュとかできるものなのか?


 じゃあ、やっぱりドラッグのせいか?


 つらいことがあったら何かに頼りたくなるのはわかるけど…


 俺のためにヤンキーと喧嘩を出来るような心も体もタフな彼女だ。


 ドラッグに頼るなんて考えにくい。

 

 あれ? でも、ちょっと待てよ? わかったかも? こういうことか? よしわかった! こういうことに違いない!

 

 よし、考えを整理しよう。彼女の行動の中で今思えばおかしなことはいくつかあった。それを考えてみよう。

 

1、俺の腕を縛ったこと。これは簡単だな。俺の腕を縛ったのは加圧トレーニングだ。喧嘩に強い彼女の事だ。何かトレーニングをしているに違いない。あの時の俺は腕が痺れていた。そのことは彼女も知っている。加圧トレーニングの理屈はよくわからないけど、気が付いたら腕の痺れもなくなってたし!

 

2、スマホをグルグル回したのは俺へのメッセージだ。


 『私は閉じ込められて困ってる』


 スマホが描く残像で光の輪の中にいるように見えた。彼女は本当に閉じ込められて困っているように見えた。でもそう見えたのは気のせいなんだとさすがに今なら俺もそう思う。


 でも思い出してみれば彼女はストレートに質問しても答えてくれなかった。彼女は気持ちを素直に伝えるのが苦手なんだ。でも俺に伝えたかった。だからあんな一見よくわからないことをした。


 でもわかってしまえば簡単なことだ。言葉を使わずに何かを伝えるにはどうすればいいか?


 そうジェスチャーゲームで伝えればいい!


 さすがに俺も魔法使いとかを本気で信じてはいないから魔法使いがなんとかってところは…… 


 横に置いといてっと。

 

 俺だって学校や家で本当の気持ちを閉じ込めて、キャラを作ったり作らされたりして、なんとかその場を乗り切ってきた。嫌というほどわかった。閉じ込められて困ってる彼女のその気持ち。


 それに俺はまさにここで村木や桂木に……

 

 キャラを作らされナウ!

 

 それがわかれば車がなかったことなんて簡単だ。彼女は元々ドライブがしたかったわけじゃくて俺と話したかっただけなんだもん。それを素直に言えないからドライブとかって言ったんだろうし。高校生だけでドライブなんてできるわけないし。

  

 きっと彼女はビバリーヒルズあたりの金持ちで自由な高校生たちに憧れてるフツ―の女の娘なんだ。ただそれを現実にやろうとするとどこかで無理がくる。お金だって自由だって俺たち高校生は、いや大人だって満足するほど持ってる人はそうはいない。


 そして最後で最大の謎。彼女が走って帰った理由は急に門限を思い出したから。急がなきゃいけないから挨拶なんてできなかったんだろうな。それくらい家の人が厳しいんだな。


 ほら、やっぱり彼女は閉じ込められて困ってる!


 そこまで推理して疲れてきた俺は、コリをほぐそうと首を回してみた。桂木と村木がじっと俺の様子を見ていたことにに気が付いた。なんとなく照れくさくて村木に微笑みかけてみた。


 村木がなぜか不安げに言った。


「山川。お前大丈夫か? ちょっと思いつめてたみたいだけど」


「別に大丈夫だよ。ちょっといろいろ考えちまっただけ。ゴメンな。よし、仕切りなおしてトークを続けようぜ」


 俺は二人の反応を確認する。


 やばいな。俺が考え事してる間に二人はテンション落ちちゃったみたいだ。


 ここは俺が彼女のために頑張って明るく引っ張っていかなきゃ。


「あーあ。彼女から連絡くれないかなぁ。やっぱり忘れられないなぁ。ちなみに俺は倉田高校1年A組の山川なんだけどなぁ」


「あんたホントに大丈夫? クラスメイトなんだからわかってるんだけど、そんなこと」


「いや、山川って苗字はよくあるんだよ。念のためだよ。念のため」


 桂木に邪魔された。


 彼女のためだと覚悟を決めて気合を入れて芝居したのに桂木に邪魔された。

 

 なんかもうヤル気しない。


 桂木のせいだからね!


「お前の元カノにこのスマホも返してあげなきゃいけないしな。スマホを失くしてもは買いかえればいいけどスマホは大事なデータが入っているものだし。とりあえず金庫にしまっておくから彼女から連絡あったらちゃんと教えろよ」


 村木はポケットからスマホを取り出した。そして、俺の前で軽く振る。


「なあ、彼女から連絡あるといいな。振られた方からはちょっと連絡とりづらし」


 ただ力強く頷く俺。


 そんな俺に村木は俺に見せつけるように大げさな動きでスマホの通話口に指をあて俺の耳元で囁いた。


「安心しろ。俺がなんとかしてやる。言っただろう? 人を動かすにはいろんな方法があるって。だからそう心配するな」


 俺の耳元から顔を離した村木。 


 照れくさいのか困ったように曖昧に笑っている。


 照れるくらいなら何も耳元なんかで言わなきゃいいのに。


 こいつ…… 

 

 もしかして…… 


 俺のこと好きになってないだろうな?

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