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第15部分 気まぐれサラダを作るシェフの気持ちは想像できない

3月25日 一部修正を行いました

 そして焼肉パーティが始まった。


 村木が焼く。桂木が喰う。俺は見る。


 ボウル一杯のサラダ。3杯目。


 肉を喰う前にコレを喰え。


 桂木の提案だった。同時に喰い始めたら俺の方が沢山肉を喰うに決まってる。ハンデだ。そう言う話だった。これくらい余裕だ。最初はそう思っていた。だから掻き込んだ。


「よし。いいぞ。山川。その調子だ。もう一杯。あーちゃんに差をつけてやれ」


「任せとけ」


 2杯目を掻き込んでいる間に気が付いた。


 なんだ? これ? この大食い大会。ヘタすりゃ俺だけサラダ無限地獄じゃないか。

 

 とりあえず出されたものは喰いきる。そして言った。


「おい、肉を喰わせろって」


「あんた、その体でしょ? 3杯は食べてもらわないとハンデにならないじゃないの」


「茶碗じゃないんだぞ。ボウルだぞ。ボウルのサラダ3杯なんて食えるかよ」


「山川。肉はまだあるから落ち着けって。土産にしてやってもいいから、今はサラダを喰っとけ」


「いま食わせろよ!」


「いや、さっきの話があるからな。食べ過ぎると眠くなって集中できないだろ? 」


「そうだけどさ。それこそ後でメールでよくねぇ?」

 

 俺は心の中の小悪魔ルームに無敵の萌えガールとの思い出を仕舞い込んでいた。彼女との思い出はあとで使いたいときに小悪魔ルームから取り出せばいい。


「いや、お前にもいくつか質問があるからな。メールじゃ面倒だ」


「わかったよ」


 そして、俺は3杯目のサラダ(村木の気まぐれぶちこみサラダ、オリーブオイル仕立て、ドレッシングはお好みで)を見つめていたわけだ。


「よし、みんな落ち着いたみたいだな。食後のコーヒーと紅茶、どっちがいい?」


「あたしオレンジジュースお代わり」


「俺、コーラお代わり」


「はいはい。なんでも用意いたしますよ」


 笑いながらキッチンに向かう村木にツッコんだ。


「お前は俺の母親か!」


 村木が言う。


「ふーん。お前の母親ってこんな感じなのか?」

 

「いや、そういうわけでもないけど。ドラマとかでよくあるだろ? って言うか、ただのツッコミだ。気にするな」


「早くオレンジ!」

 

 桂木だった。


「お前は駄々っ子か!」


「今日入学したばっかりの高校生だもん。子供で悪いの?」


「あ、いえ。ただのツッコミです。すんません」


 反省した。

 

 一人で暮らしていて、家庭にいろいろあるっていう村木に母親か! とか、さっきから子供みたいに村木にだけは従う桂木に駄々っ子か! とかのツッコミには俺のいろんな想いが乗っかている。

 

 だめだなぁ俺。ちゃんとサラダも喰いきって肉を喰ってりゃ余計なツッコミなんてしないですんだのに。腹が膨れるといろんなことなんてどうでも良くなるってのに。俺はそれをよく知ってるってのに。


 村木が3人分の飲み物をトレーに乗せて戻って来た。


「リビングに移動しよう」


「あ、悪い。テーブル片づけるの手伝うわ。リビングまで使ったら後片付けも大変だろ?」


 俺が立ち上がろうとすると桂木は片手で俺を制した。


「名探偵が推理を披露するのはリビングに人を集めてからって決まってるでしょ。昔から」


「え、突然なに言ってんの? お前」


 俺を見つめる桂木の瞳は爛々と光っていた。


 俺は少しだけ引いた。


 村木はただ苦笑いを浮かべていた

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