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第14部分 イベントの直前にテンション下がるのはよくある話

 タクシーを降りて見上げたオートロックの高級そうなマンション。


 ブランドもののハンカチを惜しげもなく俺に貸してくれる村木の家は勝手に大豪邸と想像していた。だけど村木の住むマンションは高級だけどフツ―と言えばフツ―のマンションだった。


 ここで家族と住んでるなら特別金持ちってわけでもないのかな。タクシー代はあいつが払ってくれたけど。


 気が付くと村木が俺の後ろに立っていた。


「念のために聞くけどこのマンション全部がお前んちってことはないよな?」

 

 村木は苦笑いを浮かべた。


「ああ。悪いな。期待に応えられなくて」


「いや、まあいいけど」


「あと、おもてなしもあんまり期待しないでくれよ。急に来ることになったんだから」


「ああ、でもうちの人は大丈夫か? 急に来ちゃって」


 勢いで来ちゃったけど高校の入学初日に俺みたいなの連れて帰ってきたら家族の人もがっかりしちゃうんじゃないだろうか。


「安心しろ。ここに住んでるの俺だけだから」


「え、お前一人暮らしなの? ああ、あれか家族の人が仕事で忙しくて帰って来ないとか外国で暮らしてるってパターンか」


「いや、家族は別の家に住んでる。まあ、いろいろあるんだよ」


「ふうん」


『お金もあるんだな!』


 さすがにツッコむのは控えた。っていうか、ただのひがみ。さすがに言わない。それに詳しく聞いていいのかよくわからなかった。村木の家族の事。俺だってあんまり聞かれたくないしな。言いたくなったら自分から言うだろうし、実はそれほど興味ない。

 

 キレイなお姉さんか妹か従姉妹か幼馴染かお母さんか叔母さんがいる。


 というのであれば話は変わるがな! 


 俺がいつか作り上げるであろう世界最大のハーレムの参加資格は女を捨てていないこと。年齢なんかはどうでもいい。いつか来るその日のためにイメトレのひとつとして、俺は俺が気に入った全ての女性を心の中のスィートルーム住まわせている。俺はいつの日かリア充の中のリア充、リア王になる男だからな。

 

 スィートルームはそれぞれの女性のタイプに合わせていくつかあった。そのなかでも広いのは天使と女神と飼い主と小悪魔のこの4つ。俺はタクシーで転送されているときに心の中で無敵の萌えガールを小悪魔ルームへとエスコートすることに成功していた。


 彼女の住処は小悪魔ルームで落ち着いたし。彼女との思い出は俺の武勇伝のひとつとしてときどき小悪魔ルームをノックしてから語り継げばそれでいいんじゃね?


 よし。段々と現実にもどってきてるようだな、俺。彼女のために無敵の萌えガール専用ルームを用意するってのは他の女性に失礼だもの。桂木でさえとっくスィートルームに叩き込んでやっていたし。

 

 その他大勢のスィートルームだけどな!

 

「いいから早く行こうよ。お腹すいちゃった。山川もボーっとしてないで早く来なさいよ。にーく。にーく」


 ガラス扉の前で足踏みしながら歌うように桂木が急かす。


 あ、そうかそうか。焼肉だ。焼肉。焼肉を喰いに来たんだっけ。あと、あれも聞かなきゃな。なんで村木が彼女をアマチュアって呼んだのか。

 

 村木の返答次第では彼女を住まわせるスィートルームが変わってくるし……


 だってビッチ専用スィートルームは俺の事情で封印中……


「はいはい」


 村木はそう答えるとオートロックを解除した。俺たちがマンションに入ろうとしたときガラス扉に映る3人が目に映った。スマートな二人の後ろをあとからついて歩く俺。

 

 なんとなくサーカスで美女と猛獣使いにのあとをよたよたと二本足でついて歩く子熊が頭に浮かぶ。その子熊は口のところに籠みたいなものを付けられて噛みつくどころか吠えることも、はちみつをなめることだってできなくされてる。子熊が吠えるかどうかは知らないけれど。

 

 こいつら俺の事どう思っているんだろう?

 

 ガラス扉はもう開かれたのに思わず立ち止まって考える。  

 

 無敵の萌えガールの言葉を思い出す。『オモチャにしてやるからね』 


 結局、俺はオモチャなのかな。からかうと本気にしてすぐに大騒ぎする、叩くと変な動きで笑わしてくれるオモチャみたいないじられキャラ。

 

 今までこいつらの周りには俺みたいなのいなくて物珍しいとか、そういうことか。飽きたらすぐに捨てるか売り飛ばす。そんな程度のオモチャ。

 

 それともこれから友達ってやつに俺たちはなれるんだろうか。そうまでして俺は友達が欲しいんだろうか?


「おい、大丈夫か?」


 目の前に村木。


「悪い。ちょっとボーっとしてた」


「いや、大丈夫ならいいんだ。お前怪我してるからさ。ちょっと気になっちまった」


 村木は心配そうに俺の顔の擦り傷を覗き込んでいた。


「そんなの唾でもつけときゃいいのよ」


「お前がやったんだろ」


「はいはい。そこまで。騒ぐと近所迷惑だから静かに頼むぞ」


 村木はそう言って俺の肩を軽く叩くと歩き出した。桂木もあとに続く。わざわざ振り反って俺にイーって歯を見せた。

 

 俺は軽く両手をあげて肩をすくめてみせると奴らのあとに続いてガラス扉の中に入って行った。


 さむっ。


 リア充どもの真似してみた自分がとっても恥ずかしい。


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