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第11部分 山川、ある意味、異能を発揮

「ハイ。両手を上げて学生注もーく」

 俺が、えっ?ぇぇぇぇとか思いながら桂木を見つめていると聞こえてきた。耳元で聞こえたその声の主。どう考えても俺が背負った無敵の萌えガール。

 溌剌としていた。なんでだろう? なんていうか…… うん、そうだ。アレだあれあれ、スクールカースト女子部門ランキング トリプルS級のチアガール。そんな感じだ。

 さっきまでの儚げな天使は消えてしまった……


 それに彼女の腕、結構強く俺の首に巻きついてるし!


 理由はどうあれ、元気になったならそれでいい。この娘は積極的なときにこそ光り輝く。そんなタイプだ!

しっかし、リア充どもに注目させてからなんて…… どんだけなんだ? 君って言う女は……

 

 サイコーだぜ!


 おい、俺の分身。お前が覚醒するときが来たようだぜ。いいぞ。胎動が小刻みになってきた。背中に当たる二つの膨らみと腰に当たるビミョーな膨らみに意識を集中して分身をバックアップ! 

 俺はトランクスの社会の窓のボタンは常に外していた。俺の分身は常に新鮮な空気を必要としているからだ。だって、蒸れるの気持ち悪いだろ? 俺はデブだからな!

 俺は彼女を背負って両手が使えないし、彼女は片手を俺の首に巻き付けてもう一方の手で俺の後頭部を強く撫でている。ときどき、爪なのか薄くて硬いものが当たるけれどもそんなことは気にしない。

 そんなわけでお互い手が離せないし、チャックは開きっ放しだし…… 

 

 結果は予想していた。

 構うもんか! 

 俺は彼女のプレイに賭けたんだ!

 

さあ、わが分身よ! 解放の時はきた。今こそその身に血をたぎらせて天に向かって屹立せよ! 


 俺の分身の屹立に恐れをなしたのか、村木は一歩下がって両手を上げた。桂木は一歩前に出て両手を上げてファイティングポーズ。指出しグローブは着けていない。よし、桂木はヤル気満々だ! 

 だけど 肩で息をしているからかその両拳は上下に揺れている。夏の昼下がりに道端で舌を出してあえぐ犬のようだ。準備不足だな。この木端リア充が! 俺が突き進むリア王への覇道をそうやって眺めているがいい。そして体力を温存しておけ。桂木よ。大丈夫。お前にだって次がある!

 さて、ここからどんな展開で18禁プレイになだれこむんだ? 期待してるぜ。俺の無敵の萌えガール。


「あんた。何するつもり?」

 桂木が言った。


 『それくらいわかるだろ? 空気読めよ! メンドーな女だな!』


 あれ? 声が出せないな。


「やめといたほうがいいよ。あーちゃん。たぶん安全カメラの死角だし。山川の解放を優先しよう」

 すげえな。無敵の萌えガール。そんなことまで計算済みかよ! まあ、俺は不特定多数の人に見られても構わないけど。それにしても村木も意外と分かってる男だな。確かに奴の言う通りここは俺の白い衝動の解放が最優先される局面だ。もう少し下がった方がいいぞ。俺の白い衝動は空気を切り裂き天をも貫く! 

 

『あ、それと桂木はあと一歩前へ』

 無敵の萌えガールのコーチングに期待したい。

 ああ、声が出せないってこんなにもどかしいものなのか。


「監視カメラ。でしょ。村木君。さすが国会議員のご子息は言葉の選び方が上手ね」

 耳元で聞こえる彼女の声。笑いを含んだからかうようなその声が、耳たぶを撫でて俺の鼓膜を震わせる。彼女のシャンプーの香りと汗が混じった甘酸っぱいニオイ。鼻を通って俺の脳味噌をガツンと直撃。思いっきり吸い込む。カメラの呼び方なんてどうでもいい! ただ耳と鼻と背中と両手で彼女の存在を味わい尽くす! 俺は瞼をぎゅっと閉じた。

 感覚を研ぎ澄ませ!

 瞳に映るモノを信じるな! 

 って、俺はすでに瞼を閉じているけどな(笑)


「はぁ? 別に。カメラの呼び方なんてどうでもいいし。山川のこともどうでもいいからあたしはやれるけど? でもいいの? 今朝だって私がいなかったらヤバかったみたいだけど? 」

 桂木は低い声でそう言った。

 

 『って言うか、お前がいなかったから彼女はあんなことしてくれたんじゃないのか? なんだよ桂木。俺のことどうでもいいのかお前も参加したいのかハッキリしろよ! 今朝から迷い続けてるって言うのか? ホントにお前はメンドーな女だな! 俺のことキモイとか言ってたくせに!』

俺の気持ちは声にできずに、息が口から途切れ途切れに漏れるだけ。ああ、焦れったい。

 

 「あ、そう? でも村木君は大切なんでしょ? 気になるわよね? あたしがどうするか?」

 無敵の萌えガールの言葉に納得。 

 『ああ、成程ね。そっちのパターンね』

 な、なんか喋ろうとするのもつらくなってきたな。

 

 いや、なるほどね、じゃない、よね。

 きみを、ひとりじめ、したいよ。おれ。


「あれ? さっきの威勢はどうしたの? ごめんねぇ。バカだからハッキリ言ってもらえないとわかんないの」


 ……

 

「わかってくれたみたいね? 付き合ってくれる? あっちに車があるからみんなでドライブ。楽しいよ。きっと」

『マジかよ! お預けなんてそりゃないぜ! 』

 目が覚めた! やべっ。こんな状況で危うく寝ちまうところだったぜ!

 無敵の萌えガールは俺の首から片手を離して車がある方向を指し示していた。目を開けたばかりで景色がにじんで見えている俺でもわかった。ほんの一瞬だけど彼女の腕の先は街灯の光を反射してきらりときらめいた。まるで魔法使いがキラキラ光る魔法の杖を振ったみたいに。

 彼女はいつだって輝いている。こんな彼女に相応しい男に俺はなる!

「よし、イクならイクで早くしようぜ。お前らあんまり彼女に手間かけさせんなよな。あと村木、俺のコレしまってもらえるか? 悪いけど俺はいま手が離せないんだ。よし、いま、俺の声ちゃんと出てるよな? 」

  久しぶりに出した声。調節できずに意外なほどのでかい声。

 桂木と村木はただ眼を見開いて俺を見ている。二人とも俺のことを上から下まで二度見した。それでも奴らは固まったままだ。しょうがねぇな。奴らに合わせてリア充風に言ってやる。

 「なんだよ、みんな。ノリが悪いなぁ」

 「えっ! ぇぇぇえええ!」

 夜空に響く彼と彼女のハーモニー。

 お前ら幼馴染だからって呼吸が合いすぎだろ! おい。

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