第10部分 山川が騎士として目覚めたようです
オシッコが止まると俺は軽く分身を振ってそのまま外に向かってダッシュ。手なんて洗ってる場合じゃない。早く行かなきゃ!
外に出ると太陽が傾き始めて空が赤く染まり始めていた。ヤバイ! 暗くなる前に見つけなきゃ。でもどこへ行ったらいいんだろう? 俺は立ちどまり途方に暮れた。
「山川君」
振り返るとそこには無敵の萌えガール。俺は心臓が止まったように動けなくなった。俺のことを待っててくれるなんて。この娘って天使でしょ? そうなんでしょ?
彼女は感激で動けなくなっている俺に微笑みながら近づいてくる。俺は言葉が出なくて軽く手を上げる。傾きかけた太陽が彼女の髪をキラキラとオレンジ色に染めていた。そんな眩しい彼女の姿を目に焼き付けていた。ゆっくりと微笑みながら俺に歩み寄るこの姿。死ぬまで忘れない。誓った。
だって、コレって…… キスする流れだろ?
女は好きでもない男に体を許すことがあるけれどキスだけは本当に好きな男しかしないものなのよ。
何かの雑誌で女の人がインタビューに答えていたのを読んだことがある。大人がちゃんと雑誌に書いているんだからウソのわけがない。
どうする俺? 彼女のアゴをクイってあげちゃうか? それとも彼女に背伸びさせちゃうか? って、おい、落ち着けよぅ。俺。ここは俺が跪いて待つべきなんだって。絶対そうだって。ナイトはプリンセスやクイーンの前でいつも跪いてるだろう? 俺は片膝をつき彼女に微笑んで見せた。
彼女は手を伸ばせば届きそうな位置だった。彼女は俺に微笑みかけてゆっくりと右手を差し出した。
「スマホ。返してほしいんだけど」
俺は彼女の手のひらを見つめたまま動けなかった。しばらくそうしていると彼女の手に俺の右手が伸び始めているのに気が付いた。勝手に動いていた。
お手をする犬が頭に浮かんだ。
ああ、習慣ってホント恐ろしい。
だけどこれはこれであり!
なぜなら今の俺の飼い主は無敵の萌えガールだからな!
問題なんてあるわけない!
「ちょっと触らないでよ。ちゃんと手を洗ったの?」
確かにそれは問題だ。
俺が顔を上げると彼女は笑っていた。からかっているような。あきれているような。
「まあいいわ。触りたいなら触っても。気が済んだらスマホ返してね」
「いや俺は持ってないんだ。あっち側にいる村木って奴が持ってる」
俺は広場を挟んで遠く離れたベンチの方を指でさした。
「あ、そう」
彼女は歩き出した。跪く俺を見ることなく。
俺は立ち上がって呼び止めた。
「ねえ」
「うるさいっての」
彼女は野良犬でも追い払うみたいに、軽く腕を振った。でも、黙っていられなかった。追いかけて隣に並ぶ。それでも、彼女は歩くのを止めてくれなかった。歩きながら話しかける。
「ねえ、お金が必要なの?」
「別に」
「だって、さっきもおじさんたちが来る前に仕事してただろ? 俺、ニオイでわかっっちゃったよ。」
「君には関係ない」
「朝の奴らとも金のことで揉めたたんじゃないの?」
彼女は立ちどまって振り返る。目が合った。笑っている。バカにしていた。そんな顔だった。
言ってしまった。
「それとも君はそういう女なのかよ!」
彼女は一瞬、息を呑んだ。
勝ったと思った。
あっという間に自分を恥じた。後悔した。言い過ぎた。彼女の顔すら見れなくなって俯いた。
すごく長い間そうしていた。クソっ。
クソなのは俺じゃないか!
「私が悪いよね。あんなことしちゃったから。でも君とは住む世界が違うから。もう忘れてよ」
彼女の冷たい声が脳天から響いた。彼女が歩き出したのが気配で分かった。芝生を踏みつける彼女の足音が聞こえた気がした。彼女が歩いているのは芝生だってのに!
「じゃあ、なんで俺にあんなことしたんだよ。俺なんて全然イケてないし、金だって取らなかったじゃないかっ!」
彼女の後姿に向けて叫んだ。
彼女は振り向くことなく歩き続けた。何も答える気はなさそうだ。
その体がふらつき始めた。俺は駆け寄って体を支える。そのときうっかり彼女のお尻を掴んでしまった。手に何か湿り気を感じた。思わず何が付いたか確かめる。俺の指先にはうっすらと、ほんの少しだけ赤いものが付いていた。
「大丈夫?」
彼女に尋ねる。
「しばらく休んでれば大丈夫よ」
彼女は立ち上がろうとはした。でも力尽きてへたり込んでしまっった。
「救急車呼ぶからっ」
俺はポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。
「いいよ。救急車は。逆に困る」
「え、でも?」
「ゴメン。水が使えるところあるかな?」
「わかった」
俺は彼女を背負ってトイレに連れて行く事にした。お姫様抱っこなんてしたくもなかった。途中で彼女を落っことしたらどうすんだ?
背中に胸があたる。こうしてみると微乳とはいえボリュームがあった。腰に何かの膨らみが当たる。知らなかった。女子のアソコもビミョーに膨らんでるもんなんだ。なんだかほんのり暖かい。
耳元に微かに息が当たる。体温が伝わってくる。クソっ。俺の分身が何かを主張しようとしている。微かな胎動を感じた。
頼む!
女子がこんなときにも勃起する。そんなケダモノみたいになりたくない!
「山川君の背中って大きいよね」
「えっ?」
「お父さんの背中ってこんな感じなのかな?」
そんなの俺だって知らいないよ。それに俺は君のお父さんじゃなくて、君を連れ去るナイトですから!
だけどよかった。
彼女のおかげで俺の分身は迷うことなくクールダウン。それでも手から汗が出まくる。手を滑らせないかと気が気じゃなかった。
女子トイレに入ろうとすると後ろから声をかけられた。
「ちょっと何やってんの? 心配したんだからね!」
桂木だった。村木もいた。二人とも息を切らしながら心配そうに俺を見ている。
「大丈夫だから。お前らあっち行ってろ」
心配するな。彼女のことは俺が守るんだ。ここはリア充の出る幕じゃない!
「バカっ!あんたその娘トイレに連れ込んで何する気なのよ! 事情を説明しなさいよ! しかも、何よ? それ! チャック全開じゃないのよ!」
えっ?えぇぇぇ……
次回更新は3月19日(木)午前7時を予定しています




