9話
赤ん坊の頭より少し大きい程度のオレンジ色の南瓜頭。その頭には黄色い花がちょこんと乗っていて手足は緑色の蔦が合わさってできており体は黒いマントのようなゆったりした布に包まれている
土にリリースしたせいで若干汚れているが、間違いなくパンプキン卿を彷彿とさせる生き物が
生えた
「ひ、ひどいホ。まさか問答無用で土魔法をかまされるとは思いもしなかったヒホ」
少し高めの不思議な声で、その生き物は自らについた土を払った
「・・・まあ色々言いたいことはあるが、まず聞こう。お前は何だ?」
いろんなものを飲み込み先ずは話を聞こうとフールはその生物に問いかけた
「ヒホ?おいらはパンプキン卿に造られた人工魔法生物ホ。」
人工魔法生物。その名の通り魔法を用いて人工的に造られた生物
魔法生物というのは魔力を持ち動いたり、意志があるもののことで、おおまかに魔法動物、魔法植物、魔法動植物に分類される。魔法生物とはこれらの総称だ
因みに先ほどの茸も魔法生物のうちの一つで魔法動植物に分類される。ただ、分類があやふやなものが多かったり、未だに学者達の間で分類に対する物議がなされている為に総称で呼ばれることが殆どだった
「ここ数百年で情勢は大きく変わったホ。本で得た知識だけでは心配だから、フールの役に立つようにおいらにパンプキン卿の知識の一部を入れたんだヒホ」
「だが、魔法生物を造るにしてもそれは完全じゃないはずだ。俺は不死者だぞ?ただの南瓜の魔法生物がそんなに長く存在できるのか?」
魔法生物の精製は魔法より錬金術に近い。物体を構築して魔方陣で仕組みを作り、魂を醸造する。
正直今時こんなことをわざわざする魔法使いはいないだろう。なぜなら魔力を莫大に消費するわりにそう長く動かせるものではないからだ。魔法生物を精製するときその生物は、入れ物として造られた物体の寿命と同時に壊れてしまう。例えば、人の形の入れ物ならば人の寿命。動物ならば動物の寿命までしか生きられない。
無機物には魔力を一時的に溜めてもその溜めている分の魔力が切れれば動かなくなってしまうので、自動人形や土人形に出来てもそれは生き物にはならない
生物として魔力を循環させることの出来る植物や動物でなければ魔法生物にはならないのだ
「ヒホホ。おいらはただの南瓜じゃなくてパンプキン卿の魔力を吸って生まれた万年南瓜の魔法生物ホ。種の時の記憶はうっすらとしかないけど、パンプキン卿の魔力に耐えられたのはおいらだけヒホ。万年南瓜の成長力と周囲の植物から養分を吸う能力を生命力と空気中の魔力を少しずつ吸いとるように改良されたから、少なくともおいらの寿命は其処らの龍種や妖精種よりずっとずっと長いから心配無用ホ」
万年南瓜とはその名の通り何万年もかけて成長する南瓜のことである。周囲の植物から魔力を吸うだけでなく、長い蔦をぶっさして人間や動物まで養分にする恐ろしい南瓜でこれはもう魔物として指定してもいい気がするレベルの危険植物だ。
伝説ではこの万年南瓜のせいでその昔、滅びた国があるとまで言われている
「・・・あの人が渡してきたならもう決定事項か」
フールは長い長いパンプキン卿との付き合いで彼の思いつきを受け入れなければもっと酷い悪戯が返ってくることを知っていた為に諦めたように一つ溜め息をついた
「納得したならおいらに名前をつけるホ。魔法契約でおいらを正式な使い魔にするヒホ」
「めんどくさいな。あぁー・・・ヒホでいいんじゃないか?さっきからヒホヒホ五月蝿いし。んぐっこれ旨いな。流石カーミラ」
「めんどくさがりすぎヒホっ!!しかも食べながら!せめてこっちを見るホーーぶっ!」
名前を考える途中から食事を始めるフールに憤慨しながらフールの周りをぐるぐる回り始めたヒホをフールはまるでハエでも叩き落とすように本で払う
「お前の名前はヒホだ。」
フールの指先がヒホを指差し、小さく背中合わせの双子三日月を描く。その瞬間、ざわざわと風が森を鳴らし地面に潰れているヒホに向かって紅い魔法陣が二つ飛んだ
二つの魔法陣はフールの描いた双子三日月を模していてそれらはヒホの頭の上をぐるぐる回転し、やがて重なり合い三日月だった月はこの世界の月の動きと同じようにどんどん形を変えて紅い円になった。
魔法陣を初めから見ていたらそれが満月だとわかるが、見ていないものからすればただの丸に見えただろう
陣はやがてヒホの頭を通過し首のあたりで収縮し紅い首輪になった。
「もっと丁寧に扱って欲しいホ~」
もちろんフールはそんな南瓜の言葉をスルーした
ちなみに頭の花はただの飾りだったらしい。可愛いだろうアピールがウザかった為フールは頭から毟りとり燃やした
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世界生き物大全~植物編~最新改定版
P8から
万年南瓜。
現存する植物の中で大変古く貴重な植物である。その名前の通り何万年もの時間をかけて成長しその成長がどこまでが限界かは未だに確認されていない。万年南瓜はその蔦を器用に使い周囲の生命力や魔力を奪いどんどん大きくなる。どうやって存在するのかは謎だが、魔力の元になる魔素が濃い場所に存在したことが長い研究の末に発見され魔素が収縮し目視できる程に濃密になり種として生まれるのではないかという説が最も有力である
その固体数は圧倒的に少なく小さなものは研究材料として持ち帰る事を推奨されているが、ある程度大きくなってしまったものは大変危険な為に本人の判断で即刻討伐許可がでている