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愚者の異世界旅行録  作者: 紫水
旅路と邂逅
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6話

肌を射す太陽は、もう既に頭の天辺を越えている



「ありがとう。食事もうまかった。何かお礼が出来ればいいんだけど、今は旅に必要なものくらいしかなくて・・・」


パンプキン卿の忠告通り、フールは旅支度を済ませたあと出立に思いを馳せ時計を気にしながらその時を待っていた。


日の光が部屋を完全に照らす頃には邸をでても大丈夫だろうというパンプキン卿のよくわからない助言を人伝に聞き、フールは頻繁に時間を確認していた。


取り敢えず空には太陽がしっかり登り、雲ひとつなく透きとおっている


「いいえ、私達(わたくしたち)はただご主人様に命じられるがまま仕事を成しただけでございます。しかしフール様のお心は有り難く頂戴します。」


パンプキン卿は何でも急用ができたとかで、そこにはいなかった。フールの見送りに玄関先にいるのは昔ながらの顔馴染みであるハウスメイドのカーミラのみだった。


カーミラは吸血鬼と純鬼族とのハーフで赤い目と190㎝の高い身長が特徴の美しいメイドだった。彼女の血筋は代々パンプキン卿に使えているらしくフールも彼女の祖母と母をよく知っていた。二人は純血の吸血鬼だった為とても長命だったがもうすでにこの世にはいない



何故か彼女達は多少の性格や体つきの差違はあれど皆生き写しといってもいいほど似ている。それは血の繋がりにしても常軌を逸している程に。違いといえば瞳の色や髪色、カーミラの母マリアンヌは少しタレ目気味であったがカーミラとその祖母のマーガレットなど色味くらいにしか違いが無いのではないだろうかと思うほどだった


「いや、でも昼の分まで食事を用意してもらったし何だか悪い気がするよ・・・」


フールの手元にはバスケットに入った昼食がある。中にはサンドイッチと少しのおかずがはいっていた。


「僭越ながら(わたくし)が用意させていただきました。フール様のお役にたてることができ喜ばしいかぎりでございます。」


「でもなぁ」


フールがあまりにも申し訳無さそうなのを見かねてカーミラは口を開いた


「・・・ならば、また此処を訪れてください。ご主人様はフール様が訪ねられるのをそれはそれは待ち焦がれておりましたから。あの方の幸せが(わたくし)の幸せでございます」


本心からの言葉だとわかる眩しい笑顔は朝日の下ということもあるせいか、カーミラが(ノクターン)(キング)と呼ばれる吸血鬼の血をひいていることなど微塵も感じさせなかった


(ロード)もカーミラを嫁さんに貰えばいいのになぁ。カボチャ頭の卿をそんなに想ってくれるのなんてカーミラ達ぐらいなのにさ。マーガレットもマリアンヌも結局はそのままだったし」


そんなことをいう割にフールはパンプキン卿がそうしないのを知っていた。マーガレットとはカーミラの祖母の名前で、マリアンヌは母の名前だ。マーガレットもマリアンヌも夫を愛し、子を産んだがそれでも彼女達は自分の生涯の一番はパンプキン卿だと言い残し逝った


それはおそらく目の前にいるカーミラも同様だろう。


フールはパンプキン卿が何故カボチャ頭なのか、何故不老不死なのか詳しいことは知らない。それでもパンプキン卿が彼女達の好意に気づきながらそれに応えるつもりがないことや、彼女達が受け入れてくれないことを承知で卿につかえていることぐらいは知っていた


事実、カーミラはフールのその言葉にほんの少し悲しげに目を伏せ長い睫毛で影をつくって微笑むだけで何も言わなかった



(こういう表情を隠しきれてないところはマーガレットやマリアンヌとは違ってまだ若い証拠だな)


フールがパンプキン卿の元へ来た頃にはまだマーガレットもマリアンヌも生きていてマリアンヌは独身で、マーガレットも現役。二人はフールのそういう話題に眉一つ動かさず受け流していた


『待って居られるのです。あの方は。(わたくし)たちの使命はそれを見届けあの方がその命を全うするのを見守ることでございます。ですから、良いのです。ただお側にお仕えすることが出きるだけで本望なのですよ。』


『待つ?何を?』


『・・・あの方にとっての永遠を。』


昔、フールはたった一度だけマリアンヌに何故パンプキン卿は妻をとらず独り身でいるのかを聞いたことがあった。


その時はマーガレットが死んで間もなくの頃でマリアンヌはパンプキン卿への気持ちと夫への罪悪感で不安定になっていた。フールはあまりにも苦しんでいる彼女を見て、何故そんなにパンプキン卿は頑なになるのかを聞いたのだ。

 

彼女達ができるだけ純血であろうとしたのは長命であることによりパンプキン卿が一人にならないようにだというのを聞いた直後だったこと、そして何より彼女はフールにとっての愛しい人だったこともありつい口が滑り問い詰めた結果彼女はただそう言ってそれ以降は口を閉ざした


未だにパンプキン卿の永遠とやらは解らないが、カーミラもおそらくそうなんだろう。パンプキン卿の幸せが彼女の幸せ


特にカーミラの母親マリアンヌはパンプキン卿の為に吸血鬼よりも長命な純鬼族と結ばれ子を産んだ


生涯、一番はパンプキン卿。



(そうだろう、マリアンヌ)


「わかった。また来るよ。パンプキン卿によろしく。カーミラも、元気で」


フールがそう言って笑うと、カーミラもはっとしたように先程の表情を打ち消しにっこりと笑った


「はいフール様にとっての願いが叶い、幸多き旅路になりますよう願っております。」




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