5話
(今度こそ、見つけて見せる……)
もう何度も浮かび上がる旅立つ前の期待は、今のところ無駄に終わっているがそれでも昂るのは仕方のない事だろう
「君の事だから、明日の朝にでもここを出たいんだろうけど昼までは待ったほうがいい」
そわそわしたフールの姿を見たパンプキン卿は暗くなりかけた窓の外に目を向け、やはりにんまりと笑いながら言った
「なぜです?」
「君は魔女を見たことはあるかい?」
「は?そりゃあ見たことはありますよ。」
魔法が普及しているこの世界で魔女を見たことをない人間は少ないだろう
急な話題の変わりように戸惑いながらフールは当たり前だと返事をした
「ああ、私がいっている魔女は【魔法を使える女】ではなくて【魔に魅いられた女】のことさ。黒魔女とも呼ばれているね」
「いえ、聞いたことはないですね。その黒魔女が、俺と何の関係が?」
話の流れからなんとなく関連があることは分かるが、あまりにもったいぶるのでフールは少しムッとしながら問いただす
「淫魔族は知っているね?大きな街の娼館で働いているのを見かけたことはあるだろう?彼女達は相手の男の好みの姿に見えるように幻夢魔法を使うんだがね」
淫魔族とは美しい姿で人を誘惑し精魂を吸う。子供の頃は両性で大人になると本人の意思により性別が決まる。この淫魔族は淫魔族同士では子は出来ず、人族と子供をつくりその子供は必ず淫魔族として生まれてくるようになっている。
そして淫魔族は子供をつくるかどうかを自分で決めることができ、子供をつくった相手と永遠に添い遂げるという移り気なのか一途なのかよくわからない種族なのだ。
因みに伴侶となれば精気を奪わなくてもそういう行為が可能らしい
「彼女達に嵌まると恐ろしいよ。なんたって吸われ過ぎると萎びたゴボウのようになって死んでしまうからね。しかし黒魔女達はもっと酷い。幻夢魔法を使うのは同じだが、黒魔女は心の臓を生きたまま男から抜き取りそれを集めるのさ。まあ、行為の最中に魔法で抜き取られるらしいから男達は恍惚とした表情で逝っているらしいね。ある意味腹上死ってやつか。私ならさしずめ干し南瓜ってところかな?ハハハ」
フールはゾッとした。生きたまま心臓を抜き取られ、恍惚とした表情で心臓部分にぽっかり穴の空いた死体を想像してしまったからだ。
「ああ、驚かせてしまったかな?君が前に居た時にはなかった存在だからね。パンプキンジョークをおりまぜてもダメだったか」
HAHAHAHAと後ろに見えるくらい陽気に笑うパンプキン卿だったが、フールはまったく笑えなかった
「まあ、知らないと言うことは恐ろしいことだからね。彼女達がなぜそんなことをするかだが、心臓の数を競うのさ。誰が最も多く男の心臓を奪った優れた美しい魔女かを。それが黒魔女の狂宴。血の満月の日はその宴が開かれるのさ。そして早朝までその宴は続き、日が昇りきる前に黒魔女達は再び心臓集めに精をだす。次の宴に向けてね。血の満月の夜の次の早朝は各地で黒魔女被害が増えるんだよ。だから昼まではここでゆっくりしたまえ」
パンプキン卿は黒魔女に心臓を奪われたくはないだろう?と笑い窓から見える月に目を向けた
「彼女達からすれば、赤い月の力を飲み込んだ君の心臓は酷く甘美に感じるだろうからねぇ。ま、ゆっくり休んで明日に控えなさい。」