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愚者の異世界旅行録  作者: 紫水
旅路と邂逅
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4話

パンプキン卿の部屋はリラックスするための私室というよりは、書斎のような有り様だった


美しい木目の作業机には書類や判が置いてあり、部屋に設置された天井まである本棚に本が傷まない程度の余裕をもちながらもぎっしりつまった本のせいか仄かにインクと古い紙の匂いがしている


『魔法理論における矛盾と解釈』


『毒から学ぶ薬のあれこれ』


『躰と心~魂とは~第1巻全150巻』


『これで完璧☆女心ハウ・トゥ本』


『南瓜の馬車~なぜ南瓜である必要があったのか~』


真面目な本からふざけた本まで様々だ



「ふむ。私の愛読書が気になるならば、後で好きなだけ読むといい。どれもなかなか愉快だからね」


キョロキョロと辺りを見ましているフールの姿を見て革張りのソファに座りながら両手を組んだパンプキン卿はニヤニヤとし、ワインの時のように手をヒラヒラとさせた

 

すると、本棚から一冊の本がスポーンと勢いよく飛び出しくるくるとパンプキン卿の周りを周回した


ちなみにソファから本棚までは、少し大股に三歩程歩き手を伸ばせば届く距離で魔法を使う必要は全く無い



(うわぁ・・・)


フールのその内心の声は驚嘆ではなく呆れからくるものだった


魔法の才能と魔力の無駄遣いにドン引きしているフールをよそに、その本はパンプキン卿の手元におさまるとピタリと先程のやんちゃ具合が嘘のように静まった


「特にこれなんてとても愉快でおすすめだ。愉快すぎて腹筋がネジ切れること間違いなし!是非とも読みたまえ」




『南瓜の南瓜による南瓜の為の南瓜の本*これであなたも立派な南瓜!!*』



「どうだい?表紙をみているだけで愉快になってくるだろう?」


「ええ、そうですね(頭が愉快なことになりそうです)」


ぐいぐいと面前に押し付けてくるそれから目を背け、最早面倒だという雰囲気を隠すことなく

、笑っているジャックオーランタンの頭がみっちり描かれたいやに分厚いオレンジの表紙をもう一度ちらりと見てフールはため息をついた


「そうだろう、そうだろう。ふふふ。なんなら君には特別に初版を譲ろう。私はまだ何冊かストックがあるからね」

 


(心からいらないです。ほんとうに)



内心そんなことを思いながら、ちらりと見えた(おそらくわざとであろう)著者の名前が目の前にいるふざけたカボチャ頭の名前であったことをスルーし、フールはさして気にもとめてないような様子で返事をした



「いえ、遠慮しときます。それより本題にはいってもいいですかね?」


フールにとってパンプキン卿とのこのやりとりはもう慣れっこと言って良いだろう。


はじめの頃はそれこそ驚きのあまりひっくり返ったり、年甲斐もなく子供のようにはしゃいだがそれをすると卿の話は大きく脱線する


おもに南瓜方向に。


「はぁ、昔のフールはもっと愉快な反応をしてくれたというのに・・・」



パンプキン卿は至極残念そうにため息をついて本をポンッと叩くと、分厚い本が目に痛いオレンジ色の鳥に変わりそのまま本棚へと戻る


そしてその鳥は本棚に静かに着地すると小さく一鳴きし、元々あった位置に本として鎮座した


「じゃあさっさと済ませてしまおう。まずは・・・これだね。戸籍証明書。あとは通行許可書に君の過去を適当に、しかし不自然ではないように見繕っておいたから口裏を合わせられるようにしっかりと目を通しておいたほうがいい。はいこれはそれを纏めた書類だよ」


パンプキン卿は一度立ち上がり作業机の引き出しをガタガタ言わせながらおざなりにそれらを取りだしポイポイと投げる。



やはりそれらにも魔法がかけられており適当に打ち捨てられた物は驚くほどゆっくりと、そして正確にフールの手元におさまった。


一枚目は羊皮紙にはフール自身の名前と後援者という欄にはオーランジュ、としっかり綴られている



パンプキン・オーランジュ。つまり橙の南瓜。


取り敢えずふざけていることだけは確実にわかる名前だった。


二枚目はバッチのようなものである。こちらはパンプキン卿の家名になぞらえた橙色の石がダイヤ型に加工され、金の台座に嵌め込まれただけの案外普通のデザインのものだ


流石に南瓜の形は正式な通行証としては受理されなかったらしい。当たり前だが


三つ目は少し分厚いしおりのようになっている。しかしこれは、部屋で読むことにしようとフールは瞬時に判断した


何故なら、そのしおりもどきの題名が【南瓜の精霊さんと学ぶ、フール君の波瀾万丈な人生】という構うとめんどくさいことになりそうなオーラぷんぷんのものだったからだ。



彼が南瓜の精霊さんの『さん』の部分に若干イラッとさせられたのは仕方のないことだろう



そうしてフールはツッコミをいれたいのをなんとか我慢し、目当てのものを漸く手にすることが出来たのだった

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