2話
パンプキン卿は太陽が傾きゆらゆらと揺れる橙に目を向け、にっこりとフールに声をかけた
「さて、もうじき日も暮れるね。中にお入り。お腹も空いているだろう?夕食の準備はすんでいるからね。メリー、フールの荷物を彼の部屋に。部屋の支度はすんでいるね?」
静かにパンプキン卿の後ろに控えていたそれに彼は声をかけ、ちらりと視線をなげかける
その存在は金色の瞳を一度瞬かせしっかりと答えた
「はい、全て恙無く。フール様、荷物をお預かりいたします。」
パンプキン卿の影から姿を表した荷物を受け取ろうとちかづく存在を認識して、フールは固まった
なぜなら、その声の持ち主が二足歩行の山羊の姿をしていた為だ
獣人というわけではなさそうだが、なんとなくあの山羊独特の大きな瞳にじっと見つめられるのも居心地が悪く、フールはメリーに荷物を渡した
メリーは、フールから荷物を丁寧に受けとった後二人に一礼し影に溶けるようにしてその姿を消す
パンプキン卿はそれを見届け満足気に頷いた後、優雅に踵を返しフールを邸へ招き入れた
「・・・新しく使用人を雇ったんですね。パンプキン卿。」
塵一つなくピカピカに磨かれた長い通路と高そうな調度品達に目もくれず、一番気になっていたことをフールは問いかける
「ああ、やはり君なら触れてくれるとおもったよ。先程のメリーはたまたま見つけてね。頭も良いし仕事の覚えも良い。何より面白い!」
先程のメリーという従者の姿をフールは思い浮かべるが、ヤギ特有の独特な瞳と白く毛深い体毛は全身を覆い、威圧感を覚えざるを得ない巻角を生やしていた。やはり見た目は完全に山羊そのものであったし、差し出された手も蹄がついておりどんなに目を凝らしても山羊であることに代わりはなかったので幻覚ではない
「執事で山羊、名前はメリー。まあ名前は私が名付けたんだがね。なかなか愉快だろう?やはり類は友を呼ぶのかな。」
(彼も貴方には愉快だのなんだのと言われたくないと思いますけどね。しかも自分が愉快な存在だと理解しているのか?)
フールは類は友を呼ぶ、というパンプキン卿の発言にこっそりそうおもいながら機嫌が良さそうに話す彼に相槌をうっていた