1話 旅路と邂逅
紫水と申します。とっても飽き性です。そして不定期更新です(汗)
気ままに書いていきますので温かい目で見守って頂けると嬉しいです。よろしくお願いします
理に反する物。理解の及ばない事。いつか憧れた冒険や感動なんて有るわけもなく同じことの繰り返しで面白味なんかない人生だった。
夢とか希望なんてとっくに何処かに消え失せて毎日毎日決まった動作を繰り返す
平穏や安泰は、退屈と停滞だった。
死なない程度に無意味に生きるその他大勢の人間の1人として
窮屈な型にはめられた人生を窮屈なままに生きて、そして死んでいくんだろうとそう思っていた
だからあの日、全て喪ってそして与えられたあの日からずっとずっともがいている
もう遠い遠いあの日に還る為に。特に未練が在るわけでもないはずなのに自分の中の何かが囁くのを止めないのだ
(お前はかえらなければならない)
(お前はかえらなければならない)
(お前はかえらなければならない)
現実を捨てて冒険だけを楽しめる程若くはなかったし、かといって冷静にその不条理な現状を甘んじて受け入れるだけ歳をくってはいなかったから
◆◇◆◇
白い煉瓦作りの美しい建物。意匠を凝らしたであろうデザインと洗練された造りのその建物の周りには何処から見ても華麗に見えるように計算されつくした色とりどりの花が植えられた花壇
白亜の壁は建てられて間もないと錯覚するほど美しく眩しいほどで
何より目を引くのは幻想的な扉であった。
金色の扉には、左右非対称に植物の蔦と露に濡れた花。その花々には美しい模様が描かれた蝶が集い、蝶はヒラヒラと舞っていたかと思うと花に留まりその近くにある葉に溜まっていた露が落ちた。
扉の少し上と左右に嵌め込まれたステンドグラスはとても幻想的で上部にはめ込まれたステンドグラスには背を向け合う双子三日月が淡く光を帯び、左右のステンドグラスにはその月を見上げ、何かを祈るように瞳を閉じた女神が描かれてる。
そんな美しい扉の前に佇む一人の男がいた。
ボサボサな髪に簡素な服。持ち物は古びたリュックただ一つ。綺麗とは言えない格好のその男は呼び鈴をならすこともなく、ぼうっと邸を見つめていた
(珍しいな。いつもならすぐ出迎えに来るのに)
そんなことを考えながらその邸の主人が自分を出迎えに邸から出て来ることを待っていた
馬鹿馬鹿しいと普通の人間は思うかもしれないが、ここでは当たり前のことだ。
呼び鈴はあくまで訪問者の礼儀ではあるが、親しい友人を訪ねる時は別段必要なものではなかった。何故なら魔力を感知できる人間ならば、誰かが自分のテリトリーに入ればそれが知人かはたまたただの他人かすぐにわかるからである。
そう、『この世界』では常識であった。
暫くすると邸の扉がひとりでに開き、男は中から声をかけられた
「やあ、久しぶりだね。元気だったかい?フール。」
「お久しぶりです。」
それは、その世界でも異質な存在だった。
一目で上質だとわかる服は所々に上品な刺繍が施され、所作の一つ一つが洗練されている。
そこまでは普通の貴族などの上流階級のものならばわかる。
しかし、それの頭はカボチャであった。
彼の名は、パンプキン卿。といっても確実に偽名であろうその名前とふざけているのかと問い質したくなるカボチャ頭にフールと呼ばれた男は一切触れず、昔からの友人との再会を喜んでいた