15 不自然な生活
後ろ姿が寂しげだった。
熊のように大きな背中が、いつもと違って頼りなかった。
進一は、簡素な丸イスにしょんぼりと座る先輩に目をやり、考えられる原因を探った。
一晩寝れば元通りになる人でも、さすがに疲れが溜まってきたのか。いや、八代さんが弱気になる、となると原因は柴田。昨夜なにか言われたのか? 昨日は変わりなかったはず……だとは思うけど、八代さんの記憶がまったくないな。昨日は異変があっても気づかなかった気がする。その前は……まずいな、理香に会えると決まったあとは、あまり自信がない。
進一は頭をかきながら、昨日みた理香の笑顔を思い出した。
自然と笑みがこぼれ、これはいかんと気を引き締る。
「作業、区切りついたみたいですね」
進一は平静を装い、学生食堂に八代を誘った。
進一は肉うどんを注文して、八代は肉うどんの大盛りを選んだ。ゆるめの冷房に湯気がゆれる。とくに会話もないまま、二人は席について食事をとる。進一は遠慮なく八代を観察した。八代は考えることなく選んで、味わうこともなく食べているようだった。
こうなると、けっこう繊細だからなぁ、この人は。
まあ、これだけ勢いよく麺をすする姿を見るかぎり、聞いても大丈夫か。
どうやって話を切り出すか考えていると、見ていることに気づかれた。八代に「どうした?」と逆に聞かれて、進一は頭をかきながら苦笑する。
「ちょっと気になりまして」
一拍おいたあと直球で尋ねた。
「柴田のやつに何か言われましたか?」
八代の箸が動きを止める。ストレートすぎて返事はなかったが、頭はしっかり働いていたらしい。他人の目に自分がどのように映っていたのか、八代は理解したうえで悩みを打ち明けた。
「その逆だ。なんも言ってくれないんだよ」
このところ、どうも早紀に元気がない。早紀は昨日も大自然研究会のメンバーと猫探しに出ていた。迷い猫は見つかり、飼い主にも喜ばれたわけだが、それでも早紀の表情には陰がある。八代は心配した。いつも必要以上に元気なのに、こうなっては深刻な病まで想像してしまうではないか。しかし、いくら八代が尋ねても、早紀は「なんもあらへんよ」と下手な作り笑いをみせるだけだった。
進一は相づちを打ちながら最後まで話を聞いた。
「俺は一体どうしたらよいのだ。佐山よ。早紀のことで何か心当たりはないか?」
「ありますよ」
しゅんとして悲しそうな八代に簡潔にこたえる。
驚きすぎて言葉もでなかった八代を見やり、進一はやれやれと頭をかいた。
八代さんに言えない柴田の悩み、間違いなくツチノコだろう。責任感が強いのもあるが、あいつは思い込みが激しい。笑ってすませたのは失敗だった。彼女の直感が鈍ったのは呪いのせいだと、どうやら本気で心配しはじめたらしいな。
緊張の面持ちでいる八代に、進一は苦笑しながら伝える。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、柴田に問題はありませんから。あいつは西園寺さんの直感力が鈍っていること、彼女に元気がないことが心配なんです。ツチノコの呪いなんてものを思いついて、それで、友人の変調は自分のせいだと考えた。彼女をツチノコ探しに引き込んだのは自分なのだからと、自分を責めているわけです」
真剣に聞いていた八代の表情は、悲しくも勇ましものに変わっていった。
「……そうか、元凶は俺だったのか」
「……なぜ、そういう結論に?」
「早紀が西園寺くんを連れてきてくれたのは俺のためだろう。そして彼女は見事にツチノコを発見して呪いに……早紀は、俺が自分を責めないようにと気をつかい、何も言わなかったのか」
熊のような男が泣きそうになっていた。
進一は、八代があっさりと呪いを受け入れてしまったことに戸惑い、彼が見た目以上に悩んでいたことを知った。
「あの、八代さんのせいじゃないですよ?」
「しかし、ツチノコ探しは俺のために」
「いや、たしかに柴田が何も言わなかったのは、八代さんが責任を感じないようにするためでしょう。あいつは呪いだと思い込んでいますから」
「佐山よ。それではまるで、呪いではないと言っているように聞こえるぞ」
「ええ、実際そう言っていますから、それでいいんです。仮にツチノコの呪いなんてものがあったとして、目撃したのは四人。なぜ追いかけまわしてもいない彼女だけが呪われるんですか」
「たしかにそうだが、彼女が特別に受けやすい体質なのかもしれん。いや、待て。ひょっとすると、なんだ、俺たちも呪われているのではないか?」
八代が新たな恐怖を見つけ出すにいたり、進一は自分の誤りを悟った。
この人は心が弱っている。
理性が働いてない状態なのに、呪いではないと理屈で説明しようとしたのが間違いだった。
「すいません。猫です。おそらく原因は猫です。誰も呪われていませんから落ち着いてください」
なんとかしますから、と進一は言った。
文恵の変調はプータローの訪問が減っていることが原因、と説明はしたが、説得できたとは言い難い。八代が受け入れてしまった呪いを解くには、早紀が元気になるしかない。つまりは文恵の調子が戻るしかない。
いつかプータローはいなくなる。
彼女はわかっているのだと、進一はあらためて思う。
そして、そんな予感を否定したいのは、自分も同じなのだと。
こうなると、やっぱり本気で追いかけるしかないか。そしてプータローの居場所を見つける。いたるところに世話をする人間たちがいるはずだと彼女は推測していた。いつも逃げられてばかりいるが、彼女が無茶をしないように見守るのでなく、協力すれば、なんとかなるかもしれない。
肉うどんを食べ終えるころ、進一の意志は固まっていた。
どこへ行くのか後を追い居場所をみつける。
文恵のため、勝手に呪われてしまった八代と早紀のため、そして自分のために。
ふと気がつけば、八代の箸が止まったままでいる。元気づけるはずだったのに、八代の食欲は減退してしまった。どうしたものかと頭をかきながら、進一は席をたつ。呪いは否定できないだろう。もともとの悩みはなんだったか。
そうこう考えているうちに、ほぼ確実と思われる未来がみえた。進一は口角をあげて笑い、やれやれと首をふる。二人分の茶を用意して席に戻ると、八代に湯飲みをわたして口を開いた。
「とりあえず柴田に元気がなく、何も語らなかった理由ははっきりしています。俺はちゃんとわかっているとか言えば、ぜんぶ話してくれますよ。あいつが不安を抱えるなんて似合わないですからね。こんなことを相談できる相手は少ないのに、それなのに、そのうちの一人は笑って聞き流しています。誰よりも頼りにしている八代さんに隠す必要がないのなら、柴田が黙っているわけがない」
あとはあの、足が遠のいている野良猫がいつあらわれるか、だな。
決意を秘めて、進一は熱い茶をすすった。
八代は食事を再開している。食欲不振は影さえない。ゆるい冷房の風にあたりながら、浅黒い顔を真っ赤にしていた。進一は照れている先輩をチラリと見て、手にした湯飲みを口に近づける。
お茶がうまい、と、進一は心でつぶやいた。
プータローが来ているかもしれない。そんな考えが焦りをもたらして、どうにも落ち着かなかった。まだまだ帰るには早かったが、進一は八代たちと挨拶をかわして研究室を離れた。
そんなに都合よく来るわけない、とは思いながらも帰路を急いだ。
来ているかどうか、文恵に連絡をとればよかったと気づいたのは、アパートに着いたあとだった。
予想に反して、プータローは期待を裏切らなかった。
進一がドアを開けると、奥から明るい声がとんでくる。文恵が六畳間で座っていた。
「あれっ? いつもより早くないですか?」
文恵がキャラメル色の猫を抱きかかえる。進一が質問に答えるまえに、質問したことを忘れている。気だるそうな眼をした猫に頬をすり寄せて、文恵は無邪気に笑っていた。
いまから柴田を呼ぼうか。この姿をみせたら、あいつの悩みは消し飛ぶ気がする……いや、やめておいたほうがいいな。おそらく、あの人たちは放っておいたほうがいい。少なくとも、今夜だけは。
笑うしかない、と進一は頭をかいた。
お互いの気持ちを確認しあい、八代と早紀は感動で胸を振るわせるのだろう。本人たちが真剣なだけに、喜劇としての質があがる。
進一は部屋の奥へ三歩すすみ、「久しぶりだな」と声をかけた。
プータローは無視したが、文恵は進一を見上げる。目が合って、文恵はすぐに視線を外した。抱えていたプータローを膝のうえにのせる。
文恵にやさしく撫でられて、プータローはグルグルと喉を鳴らした。
久しぶりにみる光景をまえに、なにを焦っていたのかわからなくなるほど気持ちが和らいでいる。
ずっと一人で暮らしていたのに、これがあるべき姿のように感じていた。
土鍋で雑穀ごはんを炊く準備がされていたが、文恵は忙しそうなので、待っていてもしかたない。しかたがないので、土鍋ごはんは忘れて夕食をいただくことにした。
文恵はテーブルに五種類のキャットフードをおいて、プータローに選ばせる。
「あとはルウを入れるだけですから」
と文恵が言ったように、コンロには豚肉と野菜が煮込まれた鍋があった。
進一は三種類のルウを一緒にいれてカレーを仕上げる。冷凍ごはんをレンジで温めた。二人分には足りず、食パンも用意する。
文恵は二種類のキャットフードを猫皿にうつした。
二人と一匹で食事をはじめる。
進一はポークカレーを食べて、素直に「うまい」と口にした。
ほんとに料理がうまくなったと進一は思う。最初に出てきたカレーはサイズの大きなニンジンが硬かったと記憶している。上達するだけの時間を一緒に過ごしてきた。慣れてしまったが、おいしい食事が待っているなど贅沢な話だ。
進一は、プータローに夢中でいる、文恵を見やる。
プータローがいなければ、彼女がここにいることはなかった。
すべてはプータローのおかげ、ということになるのだろうか。視線をうつせば、プータローが前脚をテーブルの上においている。見慣れてしまった。食卓に猫皿がならんでいることに違和感がなくなっている。なにかと不愉快な猫ではあるが、プータローがいなければ、この生活はありえない。プータローがいなければ、このポークカレーを味わうことはなかった。
理香に会えないでいた日々。落ち込むだけの生活が続いていたなら、どうなっていただろう。デートのキャンセルを受け入れずに、理香の邪魔をしていただろうか。それともこっそり劇場に忍び込んで、理香の演じる世界に引き込まれて、もう一度、どうにもならない空しさを味わっていたかもしれない。
「プーちゃんって、ほんとに行儀がいいですよね」
文恵が微笑み、進一も頬を緩めた。
「そうかもしれない」
文恵がプータローから視線を外して、意外そうな顔を進一にむける。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
文恵の笑みは硬かった。なんでもなさそうではなかったが、問いかけるまえに蜂蜜色の瞳がギラリと光り、意識をそらされる。気だるそうな眼差しでプータローが睨んでいた。敬意がないのは最初からだが、なにを要求されているのかわからない。
「もう食べないの?」
文恵に声をかけられて、プータローは残っていたカツオ味を食べはじめた。
すっきりとしないまま、進一は柔らかな豚肉を口のなかへ入れる。うまい。幸せを感じると同時に、ふっと時計が目について理香を想い、口元がにやける。
これからもずっと、理香を失うことはない。
理香に会えたことで不安は姿を消していた。心がざわつくこともない。文恵は猫好きの後輩に過ぎないのだから。
慣れるもんだな、こんなややこしい生活でも。
胸の中でつぶやいて、時計と文恵を視界に収めながら食パンにかぶりつく。豚肉の旨みがとろける口で食パンを噛みしめながら、このややこしくも愉快な生活を、どうやって理香に話そうか考えはじめて、進一の動きは異様に遅れた。
大学の後輩が部屋で食事を用意して待っている。
ふたりで一緒に食事をしている。
ほとんど毎日。毎晩。異性と。二人だけで。
なんだこれはと思いつづけた生活スタイルを、理香に話す……いや、どう説明できる?
この状況、他の女と生活している、といえなくもないのか? 理香はどう思うだろう。変なことはしていないと言ったら信じてくれるだろうか。たとえ信じてくれたとしても、いい気分になるわけないよな。劇団仲間の食事会とは違う。不自然だ。まず間違いなく、受け入れられるものじゃない。
どうすれば理香の負担は小さくなる?
とにかく恋愛感情や浮気などではないことはわかってもらわないといけない。
まずは彼女が猫のために来ているという事実を説明して……いや、そういえば以前、猫は好きじゃないとか言ったような気がする。そう、電話をしたときに猫が好きかを聞かれて、とっさに彼女のことを聞かれた気がして……もしかして、これはよくないのか? 恋人には知られたくない気になる存在がいる、ということになるのか?
あのときの会話、理香は忘れていないだろうな、たぶん。いまさら猫の話をしたら、理香は変に思うかもしれない。なんで猫のことを話さなかったのかと聞かれたら、なんて答えればいいんだ? 正直に伝えたら……西園寺文恵という相手がただの後輩ではないと思われてしまう。ちょっと意識していただけあって、完全に否定できない気もする。何を言っても説得力がない。すべてが言い訳にきこえる。
しかし、なんだろう。どんどん後ろめたい気持ちになってくる。これってやっぱり、理香に悪いことをしているからなのか? いや、考えてみれば当たり前だな。優さんは別として、理香が男と二人だけで食事なんて想像することさえできない。
理香は裏切られたと思うだろうか?
浮気されたと傷つくだろうか?
それはだけはダメだ。理香を傷つけることだけはあっちゃいけない。せめて浮気だと誤解されないためにはどうすればいい? 想いを伝える? すべてを話す? なぜ彼女を意識してしまったのかを? 理香に会えない寂しさを? 理香を失いそうな予感がして、不安にかられて理香を求めてしまったことを?
いや、ダメだ。そんな弱さを知られたら、理香の邪魔になる。
タローが最後を迎えたとき、理香は稽古を抜け出してきた。触れ合える距離にいてくれた。
傷つけずにすんだとしても、邪魔することになってはいけない。
どうも猫の話はしないほうが無難らしい。だが、できるのか? いや、そもそも現状について説明をする必要はあるのか? こんな生活を理香に知られないようにするべきでは? しかし、なんでこんなことになってる? なぜこんな生活をおくっているんだ? いや、いまは他に選択肢がなかったのか考えている場合じゃない。愚かだったのかどうかを悩むときではなく、問題なのは、一体いつまで愚かでありつづけるのかだ。まずはこの不自然な生活をなんとかするほうが先決……。
この生活を変える方法。
彼女が部屋にこなくなる方法?
もしかして、プータローが来なくなるほうがよくないか?
「おいしく、ない、ですか?」
遠慮がちな声に気づいて、進一は文恵をみる。動きは戻ったが、何を言われたかわからない。
文恵はうつむいた。
「ほんとは、土鍋でごはんを炊いて、カレーを煮込んで、サラダも作るつもりだったんですけど」
文恵が少しだけ顔をあげる。
「ごめんなさい」
進一の目をまっすぐに見ることはなく、文恵は悲しそうな表情で謝罪した。
進一は、口の中のものをゴクリと胃におくる。
「いや、謝られるとこっちが困るよ。これだけやってもらって、文句を言ったら罰が当たる」
「……明日は、忘れないようにしますから」
文恵は猫皿を舐めるプータローの頭を指先でくすぐる。プータローが動き出して、文恵の膝のうえにのった。文恵は片腕でプータローを抱えこむ。ほっと息をついて、進一をみた。文恵は安心したような、満ち足りたような顔をしていた。
プータローが来なくなれば、彼女がここに来る理由はない。
進一は考える。プータローが来なくなれば、理香には話せないような生活は終わる。不義理な生活だったと過去形で反省できる。
進一は食パンを少し口にして、ポークカレーをていねいに味わう。
プータローをみた。
気だるそうな眼をした猫は、文恵の膝でも進一を睨んでいた。
愛らしさの欠片もない猫と視線を絡ませながら、進一は胸中でささやく。
お前はひょっとして、彼女を困らせるなと言いたいのか? だとしたら、そんなに睨むなよ。
プータローにつづいて、進一と文恵も食事を終える。ふたりが食べ終えたのはほとんど同じだった。進一は食パンだけで二杯目のカレーを食べていた。文恵はバランス的にカレーが多すぎると気にしていたが、「うまいから大丈夫」と進一はこたえていた。思ったことを言っただけで嘘はついていない。少しばかり汗をかくのはしかたないことだ。
食後に訪れるスイーツタイム。
進一はカップの蓋をペリペリとはがして、ちらりと時計に目を向ける。
心がざわつく。
ざわつかせるのは罪悪感だ。
こんな生活を続けるつもりはない。
こんな関係はとっとと終わらせるが、しかし、だからといって彼女に、つらい思いをさせるわけにはいかない。
進一は、ハニープリンを味わいながら見慣れた光景をながめる。
文恵とプータローは一個のプリンを仲良くわけていた。文恵がスプーンですくったプリンは、三回のうち二回がプータローのものになる。プータローは蜂蜜色の瞳を輝かせながらスプーンを凝視して、文恵が食べさせてくれるのを大人しく待っている。
つまり、自分がこの部屋にいなければいいわけだ。
彼女にはプータローが必要だ。
この猫のいるところが彼女の居場所になる。
この部屋にプータローが来るかぎり、彼女の居場所はこの部屋だ。彼女を部屋から追い出すこともなく、理香に弁解できる程度の生活をおくるには、自分が部屋にいなければいい。研究室にこもって帰らなければいいだけだ。彼女は一人で食事をするだろう。八代さんの手伝いもできて、院生試験も万全になるはずだ。
ベストではないがベターではある。
問題があるとすれば、彼女の安全対策をどうするかだ。このあたりの治安が悪いとは思わないが、駅まで見送ることはできなくなる。プータローがこないときは、早く帰ってもらえばいいだろうか。けれどこれからの季節、明るいうちに帰るのは難しくなる。
夜道を一人で歩かせるのは気がかりだが、もっと気がかりなのはプータローが来たときだ。
避けるどころか、好んで危険に陥ってしまう。
危険度のステージが違ってくる。
プータローが来たときだけは、連絡をもらって帰るしかないか。
ベストからはほど遠いが、ほかにアイデアが浮かばない。
進一は頭をかきながら考えをまとめた。プータローが出て行く前に、彼女に話したほうがいい。
これからは研究室に居ついて学業に専念するので帰りが遅くなると。待つ必要はないので、プータローがこないと見切りがつけばすぐに帰ること。もしもプータローが来たなら、メールで連絡が欲しいとも伝えておく。
わざわざ説明はしないが、そのときだけ早く帰るのは、心配だから、というだけじゃない。
追いかける。
決意をもって、進一はプータローをみる。
彼女を困らせるなと言いたいなら、お前はわかっているのか? 今日だけで追いつめられるとは思っていない。けどな、彼女を不安にさせているのはお前なんだ。どこへ行くのか、きっちり居所をつきとめてやる。
プータローがチラリと進一を見た。
進一は、底意地の悪いニヤリとした笑みを、プータローに見たような気がした。




