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かごめ  作者: らぷとる
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超能力

序章「因果律のユビキタス」

 1時限目が終了して、休み時間。レイジが俺の席までやってきた。

「おい朝倉、ちょっとこっち来いよ」

 おいおい、来て早々に呼びだしか?冗談じゃねぇぞ。

 とはいいつつも、行くにしても行かないにしても、どっちにしろ面倒なことになるならいっそ行ってスッキリした方がいいんじゃねえかと考えた俺は、おとなしくレイジの後をついていった。

 階段を2階分上がってレイジが連れてきたのは、学園の屋上だった。

「悪いな、いきなり連れ回して。教室じゃ多分落ち着いて話は出来ねーだろうからよ」

「いや、それは構わないんだが、話ってなんだ?」

「いやな、お前この学校のことをどこまで知ってる?さっき全寮制ってこと以外知らねえって言ってたが、んなことぁねえだろ。それだけで受かるほどここの編入試験は甘くねえ」

 ホントに何も知らんのだが。

「マジかよ……じゃあ、ここが何のための学校なのか何も知らねえのか……」

 レイジは頭を抱えて悶えた。ひとしきりうめき、悶え、頭を振り回した後、妙に爽やかな笑顔を浮かべてこっちを見た。正直、少し怖いぞ。

「しょうがねえ、入ってきた以上は仲間だもんな。改めてよろしくな、朝倉」

「ああ。よろしく、レイジ。俺のことは孝平でいいぜ」

「ん?そうか。じゃあ孝平、俺がこの学校について簡単に説明してやるよ」

 その後レイジの口から聞かされたのは、普通に聞いたらおとぎ話のような、突拍子もない話だった。

 まずこの学校、普通の教育機関としての面だけではなく、特殊人材育成を目的とした、国家が運営する国立学園。特殊人材ってのは普通の人がどう頑張っても身につけることのできない能力を使って、様々な分野で活躍する人材ってことらしい。

 で、その能力ってのが、“超能力”。通常、超能力ってのは2つの種類に分けられる。1つ目がおなじみ、物を浮かせたりねじ曲げる能力、サイコキネシスだ。もう一つはESP。動物の言葉を聞くとか、透視なんかが当てはまる。

 この学校でいう超能力とは、個人の資質に合わせて発現する不可解な能力全般を指すとのこと。

 さっき俺のPIASに表示された『タイプ:E』ってのは、エレクトロン。つまり、俺は電気を自在に操れる能力なんだとか。他にも、火を起こす能力、金属を見つける能力、明日の天気を見る能力など、まあ割となんでもありというような感じだ。

 ちなみにレイジはタイプ:I。炎という意味のラテン語から来ているという、さっきも言ってたが、火を自在に操る能力だそうだ。……冗談だよな?

「冗談なんかじゃねえぞ。ま、午後の特別授業でわかるさ。あれは超能力を鍛えるための授業だからな」



 午前の授業が終わって、昼休み。弁当の用意なんぞしていなかった俺は、レイジと共に学食へと向かった。国家が運営しているだけあって、ここの食堂の利用には金がかからない。購買もあるらしいが、そこの商品も通常の半額で買えるのだとか。そんなところに金使ってるから財政破たんなんぞしてんじゃねえかと思わせるような待遇ぶりである。ふと思い返すと、入学金や授業料、寮での生活費なども、異様に安かったように思う。代わりにいくつかの保険には加入させられたが。

「孝平、お前何食うんだ?」

「まあ適当にあるものを食べるさ。食券を買えばいいのか?」

「ああ、まあな。買い方は……見た方が早いか」

 見てな、といって、レイジはPIASを取りだした。券売機につけられた黒いパネルにPIASをかざすと、券売機のボタンが赤く点灯した。かき揚げうどんと書かれたボタンを押すと、食券が出てくる。

「な、簡単だろ?」

「PIASってのはあちこちで使うのな」

「まあな。この学園で過ごしたかったら、PIASだけは失くすんじゃねえぞ」

 レイジに習い、俺も券売機にPIASをかざす。今日は6月の13日、月曜日。

「右から6列、上から4行目っと……」

 選ばれたのはカレーの大盛りだった。

「へえ。カレー好きなのか?俺も好きだが」

「いや、日付で決めたから何とも言えん」

「日付け?なんだそりゃ?」

「横に月の数字、縦に日付の数字の合計。そうやって選んだんだよ。何頼めばいいかわかんねーときはいつもそうしてる」

「っはっはっは。お前おもしれーやつだな」

 食券を渡すとモノの30秒ほどで頼んだ品がやってきた。俺とレイジはそれを受け取り、座れる席を探した。都合よく空いている4人掛けのテーブルを見つけてそこに座る。さて、食べるかと箸を手に取ったところで、俺たちは声をかけられた。

「ごめーん、相席いいかな?」

 振り向くと、胸元まであるゆるくウェーブのかかった茶髪を揺らす女の子だった。目はぱっちりとしているし、鼻筋も通っている。どちらかといえばカワイイ系の子だった。それに……。

「ふむ、標準サイズか……」

「ん?何の話?」

「ああ、いや、なんでもない。どうぞどうぞ」

 手で席を示し、相席してもいいという意思を伝える。

「ありがとね。朝倉君だっけ。あたし、伊織(イオリ)。伊織=フォン=フォクスロート。朝倉君と同じ2年2組だよ。ちなみに隣の席」

「あ、そうなんだ。ごめん、気づかなかった」

 休み時間は大抵レイジと話してたから、まだクラスの人間の大半のことを知らない。ああ、俺はこの学校のこともクラスの仲間のことも知らないんだなと少し落胆する。

「ん。まあいいよ。レイジとは仲良くなれたみたいだし」

 クシシ、と特徴のある笑い方をする。まるでいたずらに成功した小学生のような、あどけない笑みだった。

「それで?朝倉君はレイジからどこら辺まで聞いたの?」

「俺が話したのは簡単なとこだけだ。説明役ってのは性に合わねえ」

 ふーん。と伊織さんはうなずきながら、再び俺の方を向いた。

「ねね、この後さ、時間あるかな?午後の特別授業まで、この私が特別授業して、あ・げ・る」

 ニヤリと含みを持たせたような、先ほどまでの子供のような無垢な表情とは違う、どこか妖艶な雰囲気を漂わせた大人の笑みを浮かべる。

「ね、どうかな?」

「それじゃあ、よろしく頼むよ、フォクスロートさん」

「伊織でいいよ。そう呼んで」

 つつーっと人差し指で俺の顎下をなぞる。耳元に口を寄せてきて、後でね、とささやいてきた。

 いつの間に食べていたのか、伊織は空になった食器を持って席を立った。

「孝平、気をつけろよ」

「ん?何が」

「あいつ、フォンだよ」

 くいっと顎で指し示す。

「今でこそ落ち着いたが、色んな噂がある。二つ名もな。何されるかわかんねえぞ」

「噂?それに二つ名?」

「ああ。なんでも男をとっかえひっかえしてた、とか、美人局やってた、とか。そこから来たのが、女郎蜘蛛。人形浄瑠璃の一幕が由来だ。なんの特別授業をするつもりなんだか」

「超能力のことについて教えてくれるんだろ?他に何があるんだ?」

「そりゃお前……いや、なんでもねえや。早く喰っちまおうゼ」

 レイジはやれやれと首をすくめた。



 食堂を出てすぐにレイジとは別れ、近くのベンチに座っていた伊織と合流する。

「ふっふーん。やっぱり朝倉君も特別授業に興味あるんだ」

「まあな。レイジにも散々言われたが、実際俺は何も知らないからな。後、 俺のことは好きに呼んでいいから」

「じゃあ、これからはコウって呼ぶね」

「オーケイ。で、何を教えてくれるんだ?」

 俺がそう問いかけると、伊織は少し顔を赤らめて、顔をそむけた。

「いきなりそんな……ここじゃ人の目があるし……」

「なんだ、話しにくいことなのか?じゃあ屋上にでも行くか」

 すると伊織はうなずき、てくてくと歩きだす。誘ったはいいが屋上への行き方を覚えていなかった俺は、おとなしく伊織の後に続く。

「コウ、なんで後ろ歩いてるの?隣に並べばいいのに」

「それもそうだな」

 1階にある食堂から実に6フロアを登り、屋上に到着する。

「ここなら人もいないな。じゃあ始めるか」

「う、うん……コウってば、積極的だね」

 なおも頬を赤く染めたまま、こちらを見ようともしない。

「しかも外でなんて……ダ・イ・タ・ン」

「よくわからんが早くしてくれ。俺は特別授業のことを知りたいんだ」

 少し声を低めにして、しっかりと相手の目を見て告げる。この後の特別授業のことを知っておけば、色々と便利だ。何より、未だよくわからない超能力のことを知っておくのも重要だ。何しろ1年分は遅れているのだから。

 俺の真剣さを受け取ったのか、伊織もこちらを見る。そして、また耳元に口を寄せ、囁く。

「わかった。だから、……少し、目を閉じて」

 何か準備するものがあるのだろうか。別にサプライズなど欲しいわけではないが、ここで変に機嫌を損ねてももったいない。大人しく従う。

 伊織が離れるのが温度でわかった。シュルシュルという音が聞こえる。突然風向きが変わり、伊織を風上にして、こちらが風下になる。甘い、いい匂いが漂ってくる。シュルリという音が聞こえるたびに匂いは強くなる。一体何をしているのか、少しだけ薄目を開けて確認する。

 すると、上のセーラー服を脱いで、ブラジャーをあらわにした伊織がそこにいた。

 つつましく、しかしながら綺麗に盛り上がったバスト。引き締まっていて、それでいて柔らかそうなウェスト。なだらかな輪郭を惜しげもなくさらしている伊織は、次にスカートに手をかけ……っておい。

「何をしているんだ?」

「何って、特別授業の準備だよ?」

 ダメだコイツ、早くなんとかしないと。

「脱ぐな、とりあえず服を着ろ」

「え、着衣でするの?ひょっとして制服フェチ?」

「黙れ」




「いいから、午後の授業の説明と超能力について教えてくれ」

「そんな怒んないでよー、ちょっとしたジョークじゃんか」

 ジョークで男に肌をさらすなよ。

「それで、超能力の説明だけど……これは、午後の授業の時に使うことになるから、とりあえずEタイプのことだけね」

 伊織の説明によると、Eタイプは汎用性の高い、万能型の超能力だそうだ。相手に電流を流すことで無力化する戦闘、微弱な電流で心臓マッサージを施す医療等々、使用者のアイデア次第で可能性は無限に広がっているとのこと。

「でね、Eタイプって強いし便利なんだけど、とにかく数が少ないの」

「そういやレイジも同じこと言ってたな。けど10000人に1人だろ?そこまで珍しいってもんじゃねーと思うけど」

「んとね、その10000人って、ここに入ってくる人の中で10000人なんだ。だから、全人類ってことになるともっと少ないの。確か、1000万人に1人だったかな」

 国の人口が1億2000万人だから……この国全体で考えても12人しかいない計算になる。

「ここに入ってくる人……って、なんか変な言い方だな」

「あー。編入だとやってないのかな、能力検査」

「能力検査?ひょっとして、変なカプセルに入れられてひたすら妙な映像を見せられるヤツか?」

 そうそれ。と、伊織は首肯する。

「あれで体内の異能資質を測ってるんだよ。一定以上の資質がないと、合格することは100%無いんだ。でないと能力が発現しないからね」

「へー。あんな妙なテストでねえ」

「次に特別授業だけど、これはその日によって内容が違うの。講義だったり実技だったり。いつも授業の最初に言われるから、まだ今日何をやるかは私も知らないよ」

「実技って、具体的には何をやるんだ?」

「まあ、色々と。能力で遊んでて、みたいなのもあれば、先生に指導してもらったりする時もあるよ」

「なんか、適当なんだな」

「超能力はまだまだ研究中の分野だからね。効率的な学習方法とかすら、模索中なんだよ」

「そんなもんかね。それで?超能力ってのはどうやれば使えるんだ?」

 ここが一番肝心なところである。いきなり超能力を使わされる場合を想定しておいた方がいいだろう。それに俺自身、早く自分の力を見てみたいという気持ちもある。まるで漫画やアニメの世界の主人公にでもなったかのような高揚感が、レイジの話を聞いたときから止まらないのだ。

「おっけー。じゃあ私と一緒にやってみて」

 と言うと伊織はPIASを取りだす。俺もPIASを取りだし、電源を入れる。するとPIASが起動した。画面には無機質な黒い壁紙と、いくつかのアイコンが表示されている。

「青い丸のアイコンをタッチしてみて」

 言われた通り、青いアイコンをタッチする。するとPIASの画面が切り替わり、『リミッターを解除しますか?』という文字と、変な模様の書かれた赤いボタンが表示される。

「そしたらその赤いボタンをタッチ、だよ」

 赤いボタンをタッチ。すると色が青に変わり、『リミッターを解除しました』と表示される。

「これで準備完了だよ。後はイメージするだけ」

 見てて、というと、伊織は両手の平を合わせる。すると合わせた手の間から水がしみ出し、手の周りを覆っていく。やがて水はしみ出すというよりもあふれだすといった勢いで現れ始め、伊織の身体全体を覆ってしまう。助けた方がいいのかと逡巡するが、当の伊織は平気そうな顔で笑っている。伊織が合わせた手のひらを離すと、水は今までそこにあったのがまるで嘘のように、あとかたもなく消えてしまった。伊織の服も濡れてはいない。

「すごいでしょ。私はタイプQ、水を操る能力だよ」

 タイプQもかなり珍しい部類の能力で、汎用性の高い能力なんだそうだ。どうやら、応用範囲が広いほど、使える人数は少なくなるようだ。

「ほーら、何ボーっとしてんの。コウもやってみようよ」

「オーケイ」

 さっきみた映像を脳内で再生する。両手を合わせ、電気が手の間から滲みだすイメージで……。

 何も起こらない。

 目を閉じ、さらに強くイメージする。

 ……何も起きない。

「最初はそんなもんだよ。これからゆっくり練習していこ」

 ポンっと肩に手を置かれる。と同時に予鈴が鳴り、昼休みが終わったことを知らせた。


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