オープニング
新連載です。
――悪を懲らしめ、弱きを救う――
正義って言葉を聞くとこう思う。『正義のヒーロー』そのまんまかな。
悪役が現れて、襲われた人が悲鳴を上げて、ナイスタイミングで参上。
綺麗だよな、なんとなく。
だけど『綺麗』で済むわけない。
しょせん、おとぎ話に出てくる『正義のヒーロー』は汚れない。
血で血を洗うほど戦っていない。
当たり前だ。そんな話を聞きながら眠れる子供はいない。
だから、何も知らない少年少女よ。簡単に『ヒーローになりたい。』なんて言ってくれるな。
君たちが憧れているのは『兵士』や『騎士』なんだろう。
わかってほしい。
彼らは君たちが思っているヒーローじゃない。
殺って、殺られて、殺りかえして。
それを繰り返すだけ。
自分の目の前で仲間が、友が死んでいく。
大切なものが簡単に消えていく。
それでもまだ戦い続ける。
免罪符は『正義』。
そうしてまた人を殺す。
ほら、
英雄なんてどこにもいない。
わかってよ。
私たちはただの人殺しだ。
お願いだから、
――そんな輝く瞳で見ないで。
「隊長。」
かけられた声に顔を上げる。
テントに入ってきた私の部下だ。
何時も通りの凛とした声と顔。年下の上司に嫌な顔を見せたことはない。
「……寝てた?」
不安げに問いかけられる。
疲れたとでも思われたか。
「大丈夫。少し休んでただけ。」
心配させないように軽く答える。
わずかに安心した様子をして、また凛とした声に戻って淡々と話し出す。
「右翼側が敵の奇襲で崩れかけ。レッドが応援に行ったけど、敵の大将に相手にされてないわ。」
クスクスと笑いながら、まるで噂話のように軽く話す。
「ご指名はあなた。大声で呼ぶもんだからうるさくてたまらないわ。」
綺麗な楽しげな声。
ここが戦場じゃなければ誰もが聞き惚れるだろう。
「どうする?大将以外は『騎士』で十分。
レッドもレンヤも殺れる位置。面倒だったら私たちが……」
わざと区切ったのは返答まちだ。
一言、「殺れ。」と言えば優秀な部下たちは迷うことなく動くだろう。でも……。
「私が出る。ブルー、『騎士』をそいつから離せ。すぐ出る。」
そう告げて立ち上がる。
待ってたとばかりに懐から小型の通信機を出して、暗号化された指令を告げる。
「プリンセスが登城するわよ、レッドカーペット残して下がりなさい。」
同じ事を何度か繰り返し言う。そのたびに、『了解』と短く返ってくる。
それを聞きながら装備を整える。
愛刀を腰のベルトに挿して、ブーツを履く。
最後にコートを羽織る。
左胸のエンブレムが銀色に輝く、純白のコート。
この戦場に来てから五着目。
このコートも真っ赤に染まるまで駆け抜けて、一日が終わる。
『普通の子』とは違う人生。
迷わないし後悔もしない。
私が決めた生き方だ。
「行くよ、ブルー。ついて来て。」
「Sir,Yes,Sir.」
静かに答えてテントの外へ出ていった。
入れ代わりに外から入ってきた空気は血と土の香りがした。
深呼吸をして、テントの入口に手をかける。
外からの風にコートをひるがえしながら、歩き出す。
――私には全部わかる。
この戦争の決着も。
誰が、何人が死ぬのかも。
終わった後、新聞を飾る一面記事も。
全部どうでもいい。
私と部下が生きていれば。
――ただ、
『戦争を終わらせたのは騎士の隊長 尊い命を守った正義のヒーロー』
私を英雄と呼ばないで――
ストラテウマ所属
階級 騎士
配属 特別部隊隊長
アオイ・ナイトウォーカー
齢十四