異世界よりやってきた魔王 後編
タイトルに書いてあるとおり後編です。
前編・中編を見ないと分からないと思いますので、出来ましたら二つを読んでからお願いします。
~和哉視点~
「ふうっ。辛うじて奴に一発当てる事が出来て何よりだ。おいカイン、大丈夫か?」
甲冑の男に『砕牙・零式』を当てる事が出来て吹っ飛んだのを確認した俺は、傷を負ってるカインに声をかける。
因みに『砕牙・零式』と言うのは、俺の師匠から会得した技の一つであり、相手の懐に入り込んで上半身のバネだけを捻って強烈な拳を繰り出す技の一つ。
普通の人間がアレをまともに喰らったら重傷を負っているが、恐らくあの甲冑の男には大したダメージは無いと思う。普通の人間である俺の攻撃で倒せるなんて微塵も思っちゃいないからな。
「カズヤ、お前……」
傷を押さえながらカインは俺を見て、
「この馬鹿者が!!!!」
「うおっ!」
凄い勢いで怒鳴った。
「何故来た!? 余は手を出すなと言った筈だぞ! それなのに貴様、余の命令を無視しおって! 家臣の分際で余に逆らうか!?」
「~~~!!」
周囲が響かせるように怒鳴るカインの説教をモロに聞いてる俺は思わず耳を塞いでいるが、それでも至近距離で喰らっているので充分聞こえていた。
魔王の声は凄く響くんだな。多分吹っ飛んだ甲冑の男も聞こえていると思う。それだけコイツの怒鳴り声がデカイからな。
「ったく! 相変わらず素直じゃない奴だ。お前がやばかったから助けたってのに随分な言い草だな」
「余はお前に助けろなどと命令しとらんわ!」
「あ~そうだったな。たとえアイツに殺されそうになっても、カインの事だから絶対意地を張り続けるのが分かってたから敢えて助けたんだよ。ってか、お前の命令なんか知った事か。あとさっさと傷を治せ。魔法で治療する事が出来るんだろ?」
「き、貴様……余に口答えするだけでなく、命令までするとは……! あのヴォルガードの騎士ならまだしも、家臣にここまで反抗されたのは生まれて初めてだぞ……!」
驚き、怒り、呆れと言う様々な顔を見せるカインだったが、
「喧しい! お前の世界にいる家臣たちは忠実に従っているだろうが、俺は従う気なんかない! 必死になって戦ってるお前が死にそうになってるところを、黙って見過ごせる訳ないだろうが!」
「だ、だからと言って……!」
「それにまだ会ったばかりとは言え、友人が死んだら哀しいからな。そんなの真っ平御免だ」
「な………」
俺がそんなのお構い無しに更に続けると急に不意を突かれたような顔になった。
「何だよ、その顔は?」
「か、カズヤよ、お前……余を……友だと……?」
「当たり前だろうが。それ以外何があると思ってるんだ?」
尤も、お前とは喧嘩友達と言った方が正しいがな。
我侭な事を仕出かしたカインに説教したら口喧嘩に発展するわ、俺に格闘ゲームで負けた時には悔し紛れに本当の殴り合いの発展するわ、綾ちゃん関連で喧嘩になる等々……この一週間に色々あったが大抵コイツと喧嘩ばかりしていた。
だがカインと喧嘩してる事によって色々分かった事があった。それは目が活き活きしてる事で、まるで初めての体験で楽しんでいるかのように。恐らくコイツは魔王と言う立場上、そんな事が出来る対等の相手が一人もいなかったんだと思う。そうでなかったら、あんなに楽しそうな顔はしてないからな。ま、それを指摘した所で絶対に否定するだろうが。何しろこの魔王様はツンデレだからな。
「……ふ、ふんっ! 家臣の分際で余の友になろうなど千年早いわ! 頭が高いにも程があるぞ!」
「そう言ってる割には、随分と嬉しそうな顔をしてるのは何でだ?」
「っ! そ、それはお前の気のせいだ! そ、そんな事よりさっさと下がれカズヤ! お前と話してる最中、もうとっくに治したからな!」
「はいはい」
そんなに顔を赤らめながら言わなくても良いとおもうんだが。本当に素直じゃない奴。ま、確かにカインの言うとおり傷はもう治っているようだ。
それに、
「おのれ……! まさかこの私が人間相手に不意を突かれるとは……!」
吹っ飛んでいた甲冑の男もコッチに戻って来て、兜越しでも分かるくらいに俺を睨んでいるし。
そんな相手を見たカインはすぐに俺の前に立って嘲笑うように見始める。
「ハッハッハッハ! 残念だったなぁ、ヴォルガードの騎士よ。折角余を殺す最大のチャンスを逃すとは。まぁ致し方あるまい。我が家臣であるカズヤに邪魔をされるとは流石の貴様も予想外だったからな!」
「………っ! ………ふんっ。貴様も人の事は言えまい、カイストラルバーン。まさか魔王ともあろう者が人間に助けられるのは屈辱の極みではないのか?」
カインの台詞に歯軋りする甲冑の男だったが、すぐに負けじと言い返した。だが甲冑の男の台詞にカインは全く気にしていない様子だ。
「確かにカズヤは人間だが、我が家臣だから何の問題はない。それより貴様、余の事をどうこう言う前に自分の心配をしたらどうだ? もう余はとっくに傷を治したぞ」
「……ちっ! また振り出しに戻ったか」
「あの時はヴォルガードの技を使った事に驚いて油断したが、もうそんなヘマはせんぞ。だが余に傷を付けた褒美として、貴様は余の全力を持って滅ぼしてやろう……跡形も無くな。下がっておれカズヤ。今度は今以上の力を出すから、結界の外ギリギリまで下がるのだ」
「あ、ああ………」
………凄い。カインの体中から凄まじい魔力が放出している。恐らくこれは何か凄い魔法をぶっ放そうとする前兆かもしれない。子供とは言え流石は魔王、と言うべきか。
しかしそれでも、あの甲冑の男を倒しきれるんだろうかと疑問を抱く。いくらカインが強いとは言え、この世界では本来の力を出し切る事が出来ないから無理ではないかと思ってしまう。カインもそれくらい分かっている筈。
まぁさっきまでの戦いを見て、カインが使っていた魔法を奴は難なく対応していたから簡単に倒せる相手ではない。だからそれ以上の魔法を使って対抗しないと勝てないから、カインはフルパワーでやるつもりだろう。
「ほう。本来の力が出せないと言うのに凄まじい魔力だ。流石は四大魔王唯一の最高魔力を持っているだけの事はあるな」
「ふっ。余を褒めたところで手加減はせんぞ」
四大魔王って……カインや奴が言ってた魔王以外に残り二人もいるのかよ。と言う事は四人の魔王がエルファウストって言う異世界を統治してるのか?
いや、あの甲冑の男の台詞を聞いてた限りでは対立してるような感じだったから、それぞれの魔王が互いに争っているかもしれないな。でなきゃ奴が異世界までカインを追って殺しに来る訳ない。
「ふむ……流石に奴のフルパワーの魔法を直撃したらただではすまんか。だが私はヴォルガード様の騎士。私の全てを持って……貴様を殺す!」
「彼奴の為に命を懸けるか……」
奴も奴で全身から溢れる魔力を放出しながら武器を構えて決死の覚悟で挑む事に、カインは奴の主に対する忠義に感心していた。
そして二人が全力の攻撃を放とうとしているので、俺はすぐに離れようとしたが、
ピシッ!
何かがひび割れる様な音がした。
「! ま、不味い!」
甲冑の男が何やら焦った声を出した。それもその筈。音がしたのは奴の兜からで、それに罅が入り壊れそうになっていたからだ。
多分俺の『砕牙・零式』をモロに受けた事と、奴が発する魔力に耐え切れなくなって壊れ始めたんだろう。甲冑の男がすぐに魔力を抑えようとするが既に遅く、兜が壊れてカラランっと音を立てて落ちた。
「くっ……遅かったか……!」
「ほう。それが貴様の素顔か。ヴォルガードの騎士が人間だったとは……彼奴め、まさか人間を従わせておったとは」
「………嘘、だろ……?」
「む? どうしたカズヤ?」
訊いて来るカインを余所に、甲冑の男の素顔を見た俺は驚愕せざるを得なかった。いや、それしか出来なかったと言えば正しい。
「何で……何でアンタが……」
「…………………」
「何でアンタがこんな事をしている!?」
「…………………」
俺の問いに甲冑の男は申し訳無さそうな顔をしながらも答えようとはしない。
何故ならアイツは……いや、あの人は……、
「教えてくれ天城先輩!! 何でアンタが魔王の手下になってるんだ!?」
「お、おいカズヤよ。お前は奴を知っておるのか?」
「知ってるも何も……あの人は俺の通ってる学校の先輩だよ! しかも三ヶ月前から行方不明になって!」
「何だと!? それは誠か!?」
一体何がどうなっている? どうして天城先輩が魔王の手下になったり、カインを殺そうとしているんだよ。もう訳が分からん。
「…………カイストラルバーン、勝負は預けるぞ」
「なっ……貴様、カズヤに正体がバレたから逃げる気か?」
「……好きに受け取るがいい。では、また会おう」
「! ま、待ってくれ!」
突然宙に浮いた甲冑の男……もとい天城先輩はそのまま上空へ向かっていこうとしたので、俺が引き止めようとしても無視されてしまう。そして持っている刀を振ると、空間が斬れたかのように開いて、そのまま中へ入ろうとする。
「天城先輩! どうして異世界へ戻ろうとする!? アンタの居場所は此処じゃないのか!? アンタの父さんであるAMAGIの店長さんがどれだけアンタを心配していると思ってんだ!?」
「…………神代、父さんに伝えてくれ。息子の天城修哉は死んだってな」
「なっ!?」
こっちを振り向いた天城先輩がいきなり俺に勝手な事を言ってすぐに姿を消してしまった。
中途半端な終わり方だと思いますが、あんまり書くと無駄に長くなってしまうので終わらせて頂きました。