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モノマニア

佐田丸の場合【チョコマカロン】

愛羅裸(あいらら)先輩、これ、食べてください」

 佐田丸(さだまる)は、十数個の派手で大きなリボンが付いた赤や黒やピンク等の包みや箱を愛羅裸の前に差し出した。

「ん? 何だ……こ、これはバレンタインのチョコレートではないか! ……あ、『佐田丸様へ』って書いてある。これ、お前が全部もらったのか? ……ってか、お前、いくつもらったんだよ!」

「僕にとって、これらのチョコレートは全て不要ですから」

 すべての包みや箱は既に開封されていて、中身が確認されていた。市販品有りの手作り有りので、種類も板チョコ、生チョコ、トリュフもあったが、ブラウニー、ガトーショコラ、チョコクッキーなどの焼き菓子もあり、バラエティに富んでいた。

「全部が全部、チョコレートって訳ではないじゃないか。……確かに、材料にチョコレートを使っているから、味とか色とかは全部チョコレートになっちゃうけどな。それが嫌なのか?」

 愛羅裸の言葉に、佐田丸は首を横に振って呟いた。

「決して『チョコレートが嫌い』という訳ではないんです。でも、僕は……」

 言葉を濁す佐田丸を、愛羅裸は理解しかねていた。


 愛羅裸がもう一度、差し出された包みや箱の中身を確かめていた時に、その中に入っているカードがチラリと見えた。そこには『大好きです』とか『私の心を受け取ってください』とか『付き合ってください』とか書かれているのを、愛羅裸は見逃さなかった。

「おいおい、マジな本命チョコレートも混じっているじゃないか! いいのかよ?」

 愛羅裸の少し興奮した言葉に、佐田丸は冷静に答えた。

「いいえ。どれも本命なんかじゃありませんよ」

 キッパリと返答する佐田丸の言葉に、愛羅裸は不信感を持った。

「どうして分かる? このカードなんか携帯電話番号とメールアドレスが書いてあるぞ! これはどう見たってマジな告白じゃないのか?」

 愛羅裸が突き付けたカードなど全然見ずに、宙を見て佐田丸は呟いた。

「どれもこれも、僕の心をこれっぽっちも理解していないようですから」

 佐田丸はそう言って、愛羅裸に背を向けて立ち去った。


 佐田丸は、自室のベッドで仰向けになって天井を見ていた。そしてブツブツと呟いた。

「僕のことを全然知らないんだ」

「分かってないんだよねー」

「分かってたら、あんなモノを渡さないはずだよ」

「どうして一つも無いんだよ!」

 しばらく無言で天井を見続けていたが、やがてムクリと起き上がった。

「自分で作ればいいんだよね?」

「そうだ、そうだよね」

 佐田丸は自室を出て、キッチンへと向かった。


 まずは、ボウルに割り入れた卵白を冷蔵庫で冷やしてと。その間に、粉糖とアーモンドパウダーとココアを合わせて充分にふるいに掛けておく。ココアパウダーを入れるのはバレンタインだから。充分に気分を盛り上げなきゃ。


 卵白が充分に冷えたところで、ボウルにいれた卵白をホイッパーで泡立てて、少しずつグラニュー糖を入れて、ピンピンに角が立つメレンゲを作るのだが、お菓子作りは『泡立て作業』が肝心だ。

 メレンゲのボウルに粉糖とアーモンドパウダーとココアを合わせてふるった粉を数回に分けて加えて、粉っぽさがなくなるまで混ぜ合わせる。この工程のかき混ぜ方が肝なんだ。粉っぽさがなくなるというのがね。


 メレンゲと粉を合わせた生地を円口金をセットした絞り袋の中に入れ、オーブンシートを敷いた天板に二センチメートルの円形で絞り出す。

 百三十度に設定したオーブンで二十分、その後百七十度に温度を上げて三分焼き、そのままオーブンの中で荒熱をとる。『マカロン』を上手に焼くにはここが大事なんだ。低温でゆっくりと乾かすように焼くのがコツなんだ。ここはじっくりと時間と手間を掛けて……。あの『口解け』を再現しなきゃ!


 バレンタインだから『マカロン』の中に挟みこむのはチョコレートガナッシュ。気分だけは盛り上げなきゃね。

 細かく砕いたチョコレートを入れたボウルに沸騰した生クリームを入れて、ホイッパーで滑らかなクリーム状になるまでシッカリと混ぜ合わせる。そこにちょこっとブランデーを加える。風味付けだ。そして、ゴムべらでかき混ぜながら氷水を当てて、もったりとするまで冷やすのだ。


 冷ましたマカロンを二枚一組にして、その間にチョコレートガナッシュをナイフで盛って挟む。これで『マカロン』の完成だ。


 佐田丸の前に、お皿いっぱいに積み上げられたマカロンの山。茶色い山がお皿の上にそびえ立っていた。しかも、それは佐田丸特製のチョコマカロンだ。

「ぐふ。美味そう。じゅる」

 佐田丸の口からは、ヨダレが流れ出さんばかりになっていた。

「それではいただきます」

 マカロンの山からマカロンを一つ取り、そのまま口の中に頬張る佐田丸。

「うーん、おいちい」

 佐田丸の顔が途端に緩み始めた。

「口の中で溶けて無くなる感覚に気を失いそうだ」

 一つ一つのマカロンをかみしめて堪能し、佐田丸は至福の時を味わった。


 佐田丸は、こうして「セルフ・バレンタイン」の『マカロン』で心のすき間を埋めたのであった。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 ご意見やご感想などございましたら、是非ともお寄せいただけるとありがたいです。


 ※ 当サブタイトルの短編作品の内容には、残念ながら実在の人物にちょこっとだけ関係があったりします。(汗)


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