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For My Darling

招子の場合【トリュフ】

 ちょっと憂鬱。

 また、この季節が巡ってきたから。

 そうよ、バレンタイン。

 旦那様にはちゃんとチョコを渡さなきゃいけないから。

 だからこそ憂鬱になるの。

 だって私、料理が下手なんだもの。

 でも、やっぱり作んなきゃ。

 だって、だって……。

 旦那様を愛してるんですもの。


 私はいつも、バレンタインには『トリュフ』を作るわ。

 豚さんが見つけるトリュフというきのこに似ているからかしら?

 でも、これしか作れないの。

 スポンジケーキは一度も膨らんだことがないし。

 クッキーくらいは作れそうなんだけど、何となくチョコレートって感じがしないし。

 だから、トリュフのレシピだけは完璧に覚えてるのよ。


 まずは、チョコレートを細かく均一に刻むの。

 根気と力の仕事よ。

 チョコレートを刻んだら、二つのボウルに分けて入れておくの。

 生クリームを鍋に入れて火にかけるの。

 でも、沸騰させちゃいけないわ。

 そうして沸騰直前の生クリームを、刻んだチョコレートを入れたボウルの一つへ一気に注ぐ。

 注いだら、ホイッパーで混ぜ合わせる訳。

 チョコレートが完全に溶けて滑らかなクリーム状になったら、そのまま涼しいところで冷まします。

 時々ゴムべらでかき混ぜて、モッタリしてきたらガナッシュの完成ね。

 オーブンシートを敷いたバットの上に、ガナッシュを取り分けるの。

 ティースプーンで同じ大きさになるようにすくって並べたら、冷蔵庫でじっくりと冷やすの。

 三十分くらい冷蔵庫で冷やしたガナッシュを手のひらで団子状に丸めるの。

 この時、手が温かいとガナッシュが溶けちゃうので、冷水で手を冷やしておくといいわ。


 ふう。

 何とか上手くいったわ。

 毎年、緊張の連続なの。


 細かく刻んだチョコレートを入れたもう一つのボウルで、コーティング用のチョコレートを作る訳。

 五十度くらいのお湯で湯せんしてチョコレートを溶かしておくの。

 溶けたチョコレートを手のひらにつけて、そこに丸めたガナッシュを転がしてコーティングするの。


 これがとっても楽しいのよ、うふふ。


 コーティングしたガナッシュにココアをまぶせば『トリュフ』の出来上がりよ。

 バットにココアパウダーを入れて、その中でコーティングしたガナッシュを転がすの。


 ここも楽しいわ。

 ラッピングも楽しいし。


 ラッピングは、可愛いハートマークのモノが好き。

 ハートのマークが印刷された透明の袋にトリュフを入れるの。

 そして、袋の口をピンクのリボンで縛って出来上がり。


 プルルル、プルルル、プルルル。


 あ、電話だ。

 旦那様からかな?

「今日は毎年の通り、夕食は外で食べよう。僕が帰るまでに支度をしておいて。例のモノも忘れないように」

 あぁ、ちゃんと憶えていてくれたんだ。

 私は化粧をし着替えて、身支度を整えた。


 今年はフランス料理のレストランだった。

 旦那様はギャルソンにこう伝えた。

「デザートは要らないとシェフに伝えてくれ」

 私は恥ずかしくなって呟いた。

「ここのデザートの方が美味しいのに……」

 旦那様は、私にニコリと微笑んで言った。

「そんなことないよ。君の『トリュフ』が好きなんだ」

 私は顔が熱くなった。


 ギャルソンにサーブしてもらったコーヒーで、私のトリュフを食べる旦那様。

「うん、君の『トリュフ』は最高だよ」

 そう言って、トリュフをいくつも頬張る旦那様。

 私は嬉しくて笑顔なのに、涙があふれた。

「ありがとうございます」

 そう言うと、旦那様はうなずいてくれた。


 そして一言。

「だから、料理も頑張って」


 あぁ、今年も言われてしまった。

 だから、バレンタインは憂鬱なのよぉ。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 ご意見やご感想などございましたら、是非ともお寄せいただけるとありがたいです。

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