女神様の診療所OPEN
満月まで後1週間。
女神様の診療所の評判はなかなかで、利用者は右肩上がりだった。
朝起きたらまず薬草採取に森へ行く。
なるべく一人で行きたいのだけど、ラルクがちゃんと待ち構えている。
帰ってきて朝食。
その後午前中の診療。
昼食を挟んで午後からの診療。
3時のお茶くらいには閉店し、次の日に備えたり、その日に届けたい、足りなかった薬草をまた森へ採りに行ったり。
夜は電気なんてものないから、ろうそくで明かりをとる。
でも、それもあんまりつけてると勿体ないので、暗くなったら早目に就寝する。
すっかりそんなスローライフに馴染んでしまった。
馴染むにつれて、一人での作業に限界を感じつつあった。
今は仮に、アンとシエルが手伝ってくれているが、いつまでも私にかかりっきりと言う訳にもいかないだろう。ラルクだってそうだ。王都に帰れば騎士の仕事も待っている。
それなら、満月の夜まででも、私にかかりっきりでもいいよって人がいないか、村長さんに聞いてみるべきだ。いつまでもこの現状に甘んじてるわけにはいかない。図々しすぎる。
今朝は村長さんが怪我をしたそうで、手当にやってきた。
「女神さま、申し訳ありません。畑で作業していたら足を捻ってしまったようで・・・」
ひょこひょこと歩いてきた。
「まあ!それはお大変。ちょっと診せてくださいね。・・・うん、骨には異常なさそうですね。湿布薬をしますね。後、杖を使う方が負担を掛けなくて済むのですが・・・。ま、後で杖になりそうなものを探してきますね。」
おおっ、松葉杖なんてないよねー、ここ。
後で適当な木の枝でも拾ってくるか。
「ありがとうございます。」
湿布薬を足に貼っていると、村長さんは感激したようにお礼を言った。
いや、そんな大層なことじゃないよ。
ああ、そうだ、村長さんにお願いがあったんだった。
「足はなるべく休ませるようになさってくださいね。それから、お願いがあるのですが、ここでの診療に、誰か適当な人を助手としてお貸しくださいませんか?」
腰かけじゃなくて、正式に。
アンやシエルの本来の仕事の邪魔をしてはいけない。
家での仕事があったりするかもしれないし。
「それなら、今まで通りアンとシエルをお使いください!娘たちも喜んで女神さまと一緒にいるようですし。それに二人だけでは心許ないでしょうから、護衛のラルクも引き続きお側においてやってください!」
にこにこと村長さんが言った。
ああ、ラルクもですか・・・。
他に誰かもうちょっととっつきやすい人物はいないのか?
「ラルクさんは、王都でお仕事があるんじゃないんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
確か、休暇をもらってこちらに帰ってきているとかそんな話を聞いたんだが。
「ええ、実はラルクにはそろそろ家業を手伝ってもらおうと思い、呼び戻したのでございますよ。今はいわゆる有給消化の状態ですね。一度王都に戻って荷物をまとめ次第、こちらに帰ってくる予定です。」
あ、騎士さん辞めちゃったのね。残念。騎士姿、見たかったかも。
「・・・そうですか。でも、ラルクさんだって他にやりたいこととか仕事とかあるんじゃないんですか?」
まだ粘る私。
「滅相もございません!女神様にお仕えする以上にどんな素晴らしい仕事がございましょう!」
「・・・いい加減、女神さまってやめてもらえません?」
何度言っても糠に釘。
そして見事にスルー。
「この村に、ラルク以上の能力を持った者などおりませんから!どうぞ、ご遠慮なく!」
いや、いいんだよ?イケメンだし、強いって言うなら。でもさ、なんか私ってば嫌われてるんじゃないのかなーなんて秘かに思ってるのよね。
女神様なんて呼ばれて胡散臭いし、薬草使って村人たぶらかしてんじゃねーのとか疑われてそう。いっつも睨まれるしね。ぶっきらぼうだしね。周りの空気ブリザードだしね。
ドラゴン見て腰抜かすし、すっごい手間のかかる女だと思われてるんだろな。
あんまり深く考えたらへこむから考えないようにしてるけど。
「・・・わかりました。そうします。」
あんまり世話にならないように頑張ろう。
頼れるのは自分だけだ。
「ラルクも、とても喜んで女神さまにお仕えしておりますよ?」
・・・それは絶対ない。楽観的すぎるよ、村長さん。
労使交渉(?)を終えて、村長さんはびっこをひきながら帰って行った。
もうそろそろ昼時。
今日の午前診は村長さんで終わりらしい。
お昼まで少しあるから、その間にちょっくら森まで行って松葉杖に適当な枝でも探してくるか。
ドラゴン、当分出てこないだろうって言ってたよね?
「アンさん、ちょっと森の方に行ってきますね。お昼ごはんまでには帰ってきますから。」
受付のアンに一声かけて出かける。
「わかりました、お気をつけて。」
にっこり笑って送り出してくれる。きゃわゆい。
ラルクにもひとこと言わねばなるまいが、ちょうど姿が見えなかったので、一人で行くことにした。
ひゃっほう~い。気楽だ!
森に入ってすぐのところで、ラッキーなことに松葉杖に適した木切れをゲットすることができた。先がY字になっている。長さも、後で村長さんサイズに切ればいいくらいの長さ。
それを手に、森を出ようとしたところ、
ぶちっ!!
スベッ!!
足元にあった木の根に気付かず、思いっきり引っかかり、根っこごと引きちぎりながら盛大にこけた。
ベチョっと潰れたカエルみたいに地面にうつ伏せる私。
くっ・・・情けなさすぎる・・・。
27にもなって、こけるなんて・・・。
誰にも見られてなくてよかった~と思いながら起き上がると、目の前にラルクがいた。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
びっくりしすぎて、声にならない絶叫。
イケメン接近警報!いや違う。
驚きのけぞり、今度は尻餅をついてしまったじゃないか。
は、恥の上塗り!!
と、一人で真っ赤になったり青くなったりしている私にさっと駆け寄り、
「大丈夫か?!足はひねってないか?」
いつもと違って、心配そうに尋ねてくる。
「ははははは、はい、だ、大丈夫です!」
ああ、驚きのあまりに盛大に噛んじまったよ。顔が熱いわ。
「足、見せてみろ。」
と言って、尻餅をついたまま投げ出されていた私の足に触れる。
うわ~~~!!やばいです!生足触られてます!!ひょ~!!
ただでさえ赤かった顔が、熟したトマトくらいまで色味を増しただろうな。
「擦りむいて血が出てる。帰って処置しなくては。ばい菌が入っても厄介だ。」
「あ、ハイ。ちゃんとします。」
は、恥ずかしい・・・。医者の真似事してるのは私の方なのに・・・。
立ち上がろうとしたところで、ひょいっとラルクさんに抱き上げられてしまった。
あ、デジャブ。
「だだだだだ大丈夫ですから!歩けますから!」
大慌てで降りようとするんだけれど、
「血も出てるし、打撲もしているようだから、歩くのは少し痛みが出るだろう。大人しくしとけ。」
と、受け付けてくれない。
「重いですから!」
「女神でも重みっていうのはあるんだな。」
って、ちょっとっ!楽しそうに言わないで~!!
「何度も言ってますが、女神様でも神様でも何でもないんですから、当然重みもありますよ!!」
「じゃあ、なんだ?」
「ただの人間です!こことは違った世界の、普通の人間なんです!だ~れも信じちゃくれないけど。」
ぷりぷりしながら抗議しても取り合ってもらえないっていうか。まだラルクは不信顔。
「ふうん。そういえば、名前、聞いてなかったな。」
どんだけ後回しにされてたよ?もうこっちに来て3週間は経ってんだぞ!
「美華。江藤美華。ミカ・エトウ。わかります?」
「ミカか。わかった。」
名前だけは認識してもらえたか。女神様という呼称からの解放、これも一般人への大事な道程だ。一歩でも進めば良しとしよう。
「あ、そういえばなんで森にいたんですか?」
私一人で気ままに森に来たのに。ま、コケた場所は森の入り口だったけど。
「アンから聞いた。一人で行くなといつも言っているのになぜ一人で行った?」
さっきまでの和やかな雰囲気から一転、険しい表情をされる。あ、ブリザード吹きました。
「お声を掛けようと探したんですが、いらっしゃらなかったようで・・・。すぐに戻るつもりだったから、大丈夫かなぁなんて・・・ははは、・・・ごめんなさい。」
笑ってごまかそうとしたけど、無理だった。
「ちょっと父さんに話をしていたからだ。・・・悪かったな。」
ばつが悪そうに、目をそらすラルク。全然全然!むしろ気楽ぅって喜んでたのは私ですから!!
「いいえ!一人で行くべきじゃなかったんです。すみません。私が悪かったです。」
とりあえず、素直に謝っておくべし。睨まれる前に自己防衛。
そんな会話をしていたら、もう目の前が神殿。
あちゃー、また抱っこされたまま御帰還だよ、私。
頼れるのは自分だけ~とか抜かしてたのはどこのどいつだい?・・・私だよ。
しかし、こんなにラルクと話したの初めてだ。
ほんとは優しい人なのかなー?
アンとシエルが私たちを見つけて、大慌てで駆け付けた。
「「まあぁぁぁ!女神様!!お怪我なされて!!早く処置してしまいましょう!!」」
ハモる巫女ツインズ。
すっかりあなたたちナースね。
たくさんの方に読んでもらえていて、とっても喜んでます♪
今日も読んでくださってありがとうございました。
ツッコミ、誤字脱字、なんでも感想お待ちしています☆