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泉の女神  作者: 徒然花
異世界スカウト
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里帰り

夏も終わり、すっかり秋らしくなってきたある日。

そろそろ泉の水も冷たくなる季節が来るので、今年最後のリアルワールド帰還をすることになった。

ん? いつの間に定期里帰りするようになったのかって? 

そりゃあうちの両親に『異世界に嫁に行っちゃった~☆』なんてカミングアウトしたからですよ。海外ボラに行ってるって嘘ついてた時には、そんなにちょくちょく帰ってたら怪しまれるから帰ってなかったけど、今となっちゃ大手を振って帰れるってもんで。しかもかわいい孫まで産んじゃってるし、旦那は美形だし? うちの親が会いたがる要素満載だ。多分私抜きで帰っても大歓迎されること間違いなしだよ。くそう。


……とまあ、それはさておき。


『月の石』の寿命のことを考えると、そう頻繁に帰還・召喚するのはよくない。思いっきり私事だからね! それに、水が冷たすぎるのもよくない。可愛い可愛いリュンちゃんが心臓麻痺でも起こした大変だ! んなもん、ラルク様を筆頭に義父母・義妹たちがお許しになるわけがない。

ということで、水が温む頃と水が冷たくなる前の年二回、私は里帰りをしてもいいというお許しをもらった。誰からって? そりゃあ村長おとうさん以下、村人のみなさんからですよ。しかしあれは仰々しかったなぁ。だって私の里帰りの件に関して村全体で会議おっぱじめちゃったんだからね? 『月の石』は村のお宝だから、一応村人さんにお伺いを立てたという形なんだけど。満場一致でオッケーもらったのにはさすがにびっくりしたわ!


というわけで、秋の初めの帰還ですわ。年二回、春と秋って、まるでお彼岸だね☆ ついでだから墓参りもしてこよう。




今回も家族三人仲良くトリップだ。

私がリュンをしっかりと抱き、そんな私をラルクが包んでまあなんて家族愛!! ……ではないね。

村人さんたちが見守る中、泉にダイブ! 別に儀式でも何でもないんだけど、村人さんたちが『お見送りします!』なって言っちゃって見に来たのだ。私の帰還は見世物じゃございません!


いきなり実家の私の部屋に出るのはさすがに親に悪い(主に心臓方面)ので、いつもの帰還地点に出現した私たち。

「は~。今日も無事につきましたね~」

「そう、みたいだな」

ゆっくりと周りを見渡して、いつもののどかな景色にどこかほっとする。

「リュン~?」

「ばー」

「リュンも無事みたいだ」

「よかった~! じゃ、行きますか」

お互いの無事を確認しあったところで、実家に移動することになった。




「……ということで、これからは年二回は帰って来れると思うわ~」


いつもどおりいきなりピンポンしてお母さんを驚かせ、ラルクも一緒ということで喜ばせた後、リビングで寛ぎながら帰ってこれたいきさつとこれからの予定を話した。

「あら、それは嬉しいわ。リュンちゃんにもラルクくんにも会えるのよね?」

「うん、もちろん」

お母さん、やっぱりそれか。相変わらずなお母さんに苦笑が漏れる。まあ、私一人で帰ってきてもいいけど、来れるとわかっているんだからラルクがついてこないわけがないからね。

ラルクは言葉が通じないから、私が通訳する。

「『月の雫』って、逆パターンもできないのかな?」

「逆パターン?」

「そうです。私がつけてた時は、向こうの言葉に自動翻訳されてたじゃない? それを今、ラルクが付けたら日本語に自動通訳されるっていう」

「どうだろう。わからないな」

「デスヨネー」

異界に持ち出されたことなんてないだろうし、むしろ異界に初めて来たラルクだろうからね~。まあものは試しよ。次回の帰還の時には『月の雫』を持ってくるのもありかもしんない。もういっそ誰か食べるだけで翻訳できちゃう~的な食べ物でも発明してくれないかなぁ。


みんなでこっちの服に着替えて、散歩がてら墓参りにでも行こうということになった。

前回は急ごしらえだったので近くのユ○クロでラルクの服は調達したんだけど、今回来てみたら、何だか有名ブランドの服が買いそろえてあった。

「……お母さん、えらく奮発したねぇ」

ラルクの服を手に取りながらお母さんに言うと、

「あら、だってラルクくんと名前が似てたんだもん~! うふふ」

ラルクとラ○フか。うふふって……。つーか、お母さん。あなたお父さんにはこんなブランドもの買わないよね?! 

「お父さん、いじけてなかった~?」

「あら、そんなわけないじゃないの! お父さんにもちゃ~んとユニ○ロで4着も買ったんだからね!」

すっごいドヤ顔で言い切るお母さん。多分同額くらいだとは思うけどさ。質より量か。騙されないでね、父よ。




ずいぶんと和らいだ日差しの中、甥っ子のお下がりのベビーカーにリュンを乗せてぶらぶらと歩く。

目的地までは約20分。いつもは車で行くんだけど、今日は散歩も兼ねてるからね。


ド平日の昼間だからか、人通りは少ない。

実家は郊外にある住宅街だから、こんな時間にサラリーマンらしき姿はほとんどない。見かけるのは主婦ばかりだ。

買い物に行く姿や、子どもを公園に連れて行く姿、そんなほのぼのとした光景ばかりだったのだけど。ラルクのあまりの美形っぷりに、道行く女の人が必ず二度見していくのを『ふふん、どうだ! かっこいいだろうちの旦那!』と鼻高々になりながら歩いていると。


いつの間にか私たちの少し先に、サラリーマン風の男の人がフラフラと歩いているのに気が付いた。


濃い目のグレーのスーツを着ていたので、サラリーマン風と思ったんだけど。体調が悪いのか足元がおぼつかないようで、さっきから危なっかしいのだ。

街路樹があるとはいえ、ガードレールがないからすぐ横は道路だ。車がひっきりなしに通っているような幹線道路。そんなところを千鳥足で歩いていたら、危ないったらありゃしない。

危なっかしいなと見ているのは私だけではなかったようで、

「昼間っから酔っているのか?」

ラルクが眉間に皺を寄せてそうつぶやいた。

「う~ん、どうでしょ? 体調が悪いのかもしれませんねぇ。もう日差しもそれほどきつくはないから熱中症とかではなさそうだけど……」

私も眉を顰めながら、その頼りない背中を見つめる。


と、その時。


危惧していたことが実際に起こってしまったのだ。

男の人が不意に大きくよろめいたかと思うと、道路の方にフラフラと出て行こうとしたのだ。


「危ないっ!!」

「風よ!」


私が叫ぶのと、ラルクが私の手を取りそう詠唱したのとはほぼ同時だった。




眼の前には呆然とアスファルトに座り込む男の人。あ、もちろん歩道だよ~。

男の人の手を取り脈を計る私。

ベビーカーの横に腕組みして立ち、それを見守るラルク。


何があったのか説明すると。


ラルクが『騎士の指輪』をつけている方の私の手を取り『風よ!』と一言詠唱したら、刹那、突風が吹いたのだ。それはミニ竜巻といった感じのもので、あっという間に男の人の周りに渦を巻いたかと思うとその身体を巻き込み、歩道に連れ戻したのだ。

うわ~、ラルクが魔法使ったのって久しぶりに見たかも! ドラゴン除けの時に見たけどさ、すっかり忘れてたわ。つか、こっちでもそんなファンタジックな力が使えるんだね! すごい発見だよ! ……っと、どうでもいいことだわ。

風はすぐに止み、男の人は歩道に放り出される形になった。自分に何が起こったのかよくわかっていないのだろう、緩慢な動きで周りを見渡している。

とりあえず無事かどうかを確認するために私が彼に駆け寄り、

「大丈夫ですか? お怪我とか、どこか痛むところはないですか?」

そう声掛けしながら様子を検分する。

瞳孔は開いてる。外傷は多分ない、と思う。見えている範囲では、スーツに汚れはついているけど破れたりはしていないから。打ち身は本人の自己申告でお願いします。

一応脈をとってみる。うん、早いね!


と、ここまでがあっという間に起こった出来事だ。


「ぼ、僕は……どうしたんだ?」

呆然としたまま力なくつぶやく男の人。ゆるゆると私に視点を合わせてくる。

「体調でも悪いんですか? ふらついて倒れたんですよ。さっきからフラフラ歩いてるから危ないな~って思いながら、後ろから見てたんですけど」

魔法とか突風とかは説明できないから、自力でそこに倒れたということで端折らせてもらいました、あしからず。

「そっか……。僕、倒れたんだ……」

「打ち身はありませんか? 頭は打ってなかったと思うから大丈夫ですけど。あの、ずいぶん具合が悪そうに見えるんですけど?」

「そう見えますか」

「あ、お気を悪くしたらごめんなさい。顔色がとても悪いですよ? 脈も、速いけどなんだか弱い気がするし」

そう言った私の顔を、驚いたふうでまじまじと見つめてきた男の人。

「君は……医者か?」

「いいえ。しがない通りがかりの元ナースなだけです」

「そっか」

私を見上げている力もないのか、すぐに視線を落としてしまう。会話もなんだか力ない。

パッと観察したところ、年齢は私と同じくらいかな。アラサーってとこね。着ているスーツは仕立てがよさそうだからお金持ちなのかもしれない。汚れちゃったけど大丈夫よね。

元はきっと柔らかそうな髪は、風に巻き込まれたからかすっかりぐちゃぐちゃになってしまっている。いや待って、よく見たら艶がないからしばらく洗髪してないのかも? う~ん、無造作艶ナシヘアとでも言っておこうか。世の中ポジティブシンキングだ!

顔はちょっと神経質そうかな? でもカリカリしているとかそういう感じではないね。綺麗な顔してるし。あ、ラルクみたいに超美形ってわけじゃないよ~。

細身のシルバーフレームの眼鏡をかけている、まあ、インテリメガネくんだね!


「まあこんなところに座り込んでるのもアレなんで、ちょっと近くの公園で落ち着きましょう」

「え……」

「ラルク、肩を貸してあげて?」

「わかった」


キョトンとした彼に構わず、私はラルクに振り返りあっちの言葉でラルクにお願いした。


今日もありがとうございました(*^-^*)


HALサマ、リクエストありがとうございました! もうちょっと続きます♪

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