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泉の女神  作者: 徒然花
現代と異世界と
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再び村の危機?

最近うちの診療所に来る患者さんが増えてきている気がするんだよね。厳密に数えたわけじゃないんだけど。お客が増えることは商売繁盛でいいんだけど、うちが繁盛するってことは怪我人や病人が増えてるってことだから素直に喜べないのよね~。

軽いものから重いもの、くしゃみや鼻水などオプションまで人それぞれなんだけど、主な症状は熱が高く喉が腫れあがるという、どれも似た症状だからきっと何かのウィルスなんだと思う。こちらにはそれを特定する設備がないから推測の域を出ないのが残念だけど。


「最近、熱の病が流行っているようですわね」


リュンの出産以来、王都の魔女様のところからこちらに帰ってきて診療所を手伝ってくれているシエルが、今日来た患者さんのカルテを色々見比べながら私に話しかけてきた。

その白く細い華奢な手でカルテをまくりながら柳眉をしかめて愁いを帯びた表情、相変わらずの美少女っぷりにおねーさんはドキドキしちゃうよ! 貴女にそんな顔をさせるもの、おねーちゃんがこの世から一掃してあげるっ!!


「あ~、シエルもそう思います? 多分何かウィルス性のものだと思うんだけど」

「ウィルス?」

「うん、向こうの言葉なんだけどね、要するに病気の原因になるものでね、それが体の中に入って悪さをして病気になるのです」

「まあ、恐ろしいものなんですね!」

「そう。だからこれ以上広がらないうちに何らかの手を打った方がいいかなって思ったりするわけですよ」


ここに来た当初のようにインフルエンザで壊滅状態なんてことは避けたい。特に働き手である男の人たちがダウンしてしまったら家計がピンチに陥ってしまうからね。働けない=食べていけないに直結するこの世界、命に別状なくても食べていけなくなったらだめじゃん! それに私的にも、あの時みたいにシャカリキに働くのはちょっと厳しいのよね~。歳とった? はい、それ言わない!

でもここはリアルワールドのように医療技術が進んだ世界ではなく、剣と魔法のファンタジックな世界だからワクチンなんてありゃしない。私だって、専門の研究者でも何でもないから、そんなもんを生成できるような技術を持ち合わせてないしね!

じゃあどうすりゃいい? 私にできることは?




午後休診日の恒例、市場での行商。

私は今日も元気に八百屋のワゴン横で開店したんだけど、見渡してみるとお休みしているお店がここかしこにある。

何これ、閑古鳥?!

いつもは買い物客でにぎわっているメインストリートも、今日は行きかう人がやけに少ない。

私は不審に思って八百屋のマダムに尋ねると、「流行り病でお休みしている店が多いんですよ~」とのこと。診療所で薄々感じていたことを目の当たりにすると、やっぱりなんとかしなくちゃねと思う。

それは私ごひいきのジュース屋さんが休業していてますます強く思うようになったさ!

行商の後の楽しみだったのに!!

ここは美華さん、頑張ります! 待っててジュース屋さん!!




「……ということで、体力を補うサプリ的な薬草と、初期症状が出た時にさっと応急処置できる用の常備薬を作ろうと思うのです。そしてマスク、再・登・場!」


私は考えたことを夕食の席で発表した。

サプリと常備薬を配布しておけば、重篤化する前に何とかなるかなって思うのね。ほら、我慢して働いちゃう人もいるじゃない? 一家の稼ぎ手が自分しかいないと寝込めるような状況じゃないって。私みたいに無理矢理ブレーキをかけてくれる人がいればいいんだけど、そうでない人の方が多いんだし。

サプリは予防的な意味合いもあるしね!

ラルクもツインズも神妙な顔で聞いてくれていて、


「そうだな。またミカを呼んだ時のように被害が拡大しては村としても困る」

「でしょう!」


私の提案にラルクも賛同してくれた。


「兄様の場合は、あの時みたいにお義姉さまを過労に追い込みたくないっていうのもあるんでしょう」

「当たり前だ」


クスクス笑いながらアンがつっこむと、ラルクが顔色一つ変えずに即答する。いや、聞いてるこっちが恥ずかしくなるんでやめてほしーんですけど。アンも、判ってていじらない!

ラルクは平常運転の無表情だけど、私の方が赤くなってしまったわ。


「えーえー、こほん。ですので薬草が大量に必要なんだけど、今ある在庫だけでは全然足りないよね?」


私がシエルに向かって確認すると、


「ええ、最近どんどん消費していってますので普段の処方の分もかなり少なくなっていますわ」


薬を整理してしまってある棚を見て、少し瞳を揺らせて思案してから答えてくれた。

相変わらず毎朝薬草摘みは続けているものの、それでも足りなくなってるってことはやっぱり危機的状況だよね?

なんちゃってドクターだけど(こっちじゃ医師免許とか関係ないもんねっ☆)、ここはひとつ頑張りどころでしょう! 美華さん、奮起させていただきます!




朝の薬草は、いつもの倍採取することにした。

いつもの採取の場所にもたくさん生えて入るんだけど、なにしろ天然ものだからあんまり乱獲したくない。次が生えなくなってしまっては私の商売あがったり……ではなく自然破壊はしたくないからねっ! だからシェンロンに相談したら『森の奥にまだたくさんあるぞ』とのことだったのでそこまで連れて行ってもらったら、そりゃあもうもっさもっさ生えていてびっくりした。かる~く薬草の宝庫だったわ。これなら根絶やしにする心配はないかと、もりもり採らせてもらっている。

なんでたくさんあるのかというと、森の奥深くは魔獣とか野ドラゴンという何ともファンタジックに恐ろしい生き物が出るので、人はほとんど立ち入らないからなのだ。しかし私にはシェンロンとラルクがいるんだから 無 敵 ! はっはっは~! ……でも遭遇したら確実に腰を抜かす自信あり! 虎の威を借る狐とかい・わ・な・い・で☆

今までは森の入り口付近に生えている薬草で充分足りていたから奥の方まで進出していなかったけど、背に腹は代えられずなわけでして。これを乗り切ればまたここは放置しますんで、今だけちょっと薬草分けてください森の神様。……って、いるのかどうかわからんけど、とりあえずお祈りはしてみた。


リュンはアンに預けて、私とラルク、シエルで森に入る。

何度か魔獣に出会いーの、野ドラゴンに遭遇しーの、でもラルクとシェンロンがやっつけたり退けたりしーの、私はその都度腰を抜かしシエルに介抱されーのということを繰り返しつつ、なんとか欲しいと思う量の薬草を採取することができた。結構サバイバルだったよ!


薬草を採取したのはいいのだけど、大変なのはここからだった。


若干忙しい目の通常業務をこなしつつ、可及的速やかに必要な薬を調合する。マスクまではさすがに手が回らないので、村の女性陣に外注した。さすがに無理。

何が一番大変かって、そりゃ薬草を地味~にゴリゴリすり潰す作業だよ! あ~山姥気分、再び。そういやこっちに召喚された当初、夜な夜な薬草すり潰してたよね~。あれはマジで山姥が包丁砥いでる気分だった。もしくは妖怪小豆砥ぎ? じゃあ今の私はさしずめ妖怪薬草潰しってとこ?

……地味な作業をしてると、なんだか気分が下がっていく……。

がんばれ私っ!

朝な夕なに薬を作り、夜もこっそりラルクとリュンが寝てしまってから作業をしていた。

村での状況を目の当たりにしてしまったら、呑気にしていられなくなったしね。

リュンも最近は夜中に起き出すことなくぐっすりと眠ってくれるので助かる。きっとアンの離乳食で満腹になってるからだね!

しかし最近忙しいので、やっぱり疲れがたまってきてるなぁ。眠たくなってきた。

窓の外には、中天にかかる月。すっかり夜も更けてしまってる。

もう少し、きりのいいところまでやってしまおうと、ともすれば落ちてきそうな瞼を叱咤しながらすりこぎをゴリゴリと動かした。

すりこぎを動かす音が単調すぎてまた眠気を誘われてしまう……ヤバい。

余計なことを考えていたら気分が下がるので、心を無にして作業に没頭していると、


「……いつまでやるつもりだ」


という、低~い声が頭上から降ってきた。

うん、背中に冷たい空気を感じていますよ、私。うわ、これ、久しぶりのブリザード来た?


思わずびくぅっと跳ねる肩。


声の主は嫌というほど認識してるんだけど、漂う冷気の冷たさ具合から不機嫌マックスなのがひしひしと伝わってきて怖くて振り向けない! でも振り向かないとますます機嫌が悪くなるのも知ってるし、あーもうジレンマ!!

でもこれ以上怒らせたら軟禁されかねないから、意を決して恐る恐る振り返る。


と。


魔王、降臨☆


かーなーり渋面のラルクが、私のすぐ背後で仁王立ちしておりました。


今日もありがとうございました(*^-^*)

2~3話続くと思いますので、お時間よろしければお付き合いよろしくお願いします♪

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