落ちた! 3
結局前・中・後編になってしまいました(^^;)
私のハチャメチャな説明にもかかわらず、私を信じて理解を示してくれたお母さんに感極まって抱き付けば、優しく背を撫でてくれる。
「はいはい。で、リュンちゃんのパパはどうしてるの?」
「あ、どうなったんだろ? 多分追いかけて泉に飛び込んでるとは思うんだけど……?」
ラルクが私たちを呼んでいたのは聞こえたけど、その後どうなったんだろ? ラルクは向こうの人間だからこっちには来れてないのかも? 今度は私が険しい顔をしだしたから、お母さんが慌てて、
「えーと、その、向こうにはちゃんと帰れるの?」
帰還について聞いてきた。あれ? 召喚かな?
「うん、たぶん大丈夫なんだけど、今夜帰れなかったら多分一ヶ月はお世話にならなくちゃいけなさそう」
「どうしたの?」
「満月の夜じゃないと行き来できないシステムになってるみたいなの」
「へ~。まあ、ひと月くらいならいいわよ! リュンちゃんと一緒にいられると思えば!」
そう言ってデレデレしながらリュンの傍に行き抱き上げるお母さん。リュンも機嫌よくニコニコ笑ってる。うん、とーちゃんと違って愛想のいい子だよ! お母さん、すっかり『キャ、可愛い!』とか言いながら頬ずりしてるし。
「で、美華。写真とか写メとかないわけ?」
「は? 誰の?」
「決まってるでしょ、旦那よ、だ・ん・な! あ、そう言えば名前は? 職業は? 趣味は?」
「……趣味聞く必要ある? ま、いいけど。名前はラルクっていうの。ちょっと前までは王都で騎士さんをやってたんだけど、今は村に戻って来て神官になるための勉強とか、寺子屋的なところで体育みたいなことを教えたりしてるわ~。趣味は鍛錬?」
「王都? 騎士? 神官? んまぁ~なんてファンタジーなの~! じゃあさ、ドラゴンとかでてくるわけ? 魔法使いもいそうよね!」
いきなり目を見開き、キラキラと輝かせ始めたお母さん。って、もはやすっかりファンタジーワールドのこと信じてるよね? わが母ながらすごい柔軟性だと思うよ。
「うん、ドラゴンも魔法もありよ~。初めてドラゴンに遭遇した時は腰抜かしたわ」
「ま~~~~!! で、写真」
「ないわよ! 文明が全然違うんだからもちろん圏外! しかも今回は何の用意もなく落ちてきたんだから、用意もしてないしっ!」
「あら~、残念ねぇ」
「今度来るときに持ってくるわ」
まあ、こうして今回事情を話しちゃったから里帰りしやすくなったよね。
すると何を考えたのか、
「てゆーか、お母さんがそっちに行きたいわ」
とってもいい笑顔でいきなり何言っちゃってるんですか!
「はああ? お母さん?」
びっくりして素っ頓狂な声が出たわ。
「だってぇ、ふつつかな娘を貰ってくれた奇特なお方に挨拶しなきゃでしょ? ラルクくんが貰ってくれなかったら美華、干物まっしぐらだったじゃない! 枯れ子よ、か・れ・こ!」
「ほっといてよ!」
「まあ、それは冗談だけど挨拶くらいはしたいじゃない」
「う~ん、まあ……喚べないこともないけど、その代わり溺れそうになるけどいい?」
「ナニソレ?!」
「うん、召喚された途端にまず落ちていくの。それはもうジェットコースターかフリーフォール並みに。あ、命綱なしのバンジーの方が近いかな?」
「はっ? えええ~っ?!」
「で、止まったと思ったらいきなり水中にほりだされるの」
「……」
「息がもつか持たないかっていうギリギリの水深で」
「……オニね」
「……でしょ。おススメはしないわ」
「ま、決心ついたら行くわ」
「マジで?!」
やっぱりお母さんは心臓に毛が生えてる人でした。
夜になり、お父さんが帰ってきてからもう一度説明。
お父さんも、
「僕の頭が沸騰しそうだ」
と、理解の範疇を軽く超えたことにめまいを催していたけど、
「まあ、どこか遠い外国に嫁に出したと思っておくよ……」
と、涙ぐみながら言っていた。涙ぐんでたわりには次の瞬間『リュン~~~』とか言ってこれまたデレデレとリュン相手に遊んでたけど。うちの親、ほんと孫バカだわ~。
冬が過ぎ、最近はすっかり暗くなるのが遅くなってきたけど、さすがに7時を過ぎると真っ暗だ。カーテンを開けて空を見れば、今日は綺麗な満月が中空に浮かんでいた。って、そういや前は曇っていて月が見えなかったけど、それでも召喚されたことあったよね。じゃあ天気は関係ないってことか。要するに月の満ち欠けだけが左右してるんだね。
「そろそろ帰れるかどうか試してみるわ」
カーテンを元通りきちんと閉めてから、両親に向き直った。
「大丈夫?」
「わかんないけど、向こうのアイテム身に付けてるしね」
そう言ってひらひらと振って見せるのは、ラルクとお揃いの指輪の光る左手。あ、ちなみに騎士の指輪は相変わらず右手にあるよ! そしてアンお手製の服も着てるし。
「そう。じゃあ、気を付けてね。元気でね」
「うん、また来るから!」
「リュンも元気でな」
「ば~」
「あ、美華、デジカメ持った?」
「……ハイハイ持ったわよ。しっかりパッキングもしたし」
「じゃ、ラルクくんの写真よろしくね!」
「もう、お母さんてば……」
そう言ってみんなで笑いあってから、しっかりとリュンを抱きなおし水に触れた。
その途端。
あ、落ちる……召喚されてる!! いつ水中にほりだされてもいいようにリュンの頭をしっかりと抱きしめた。
水だ、と思った瞬間。
ぎゅっと抱きしめられた。リュン、やっぱりとーちゃんは迎えに来てくれたよ! しかも今日はかなりお早い登場で。これは水の中で待機してたな!
そのままぐいぐいと浮上する。
「ぶはぁっ!!」
リュンと一緒に水面から顔を出す。私の胸にぎゅっと押しつけていたリュンの顔を離して無事を確認すれば、いきなりだったこともあってか、
「うんぎゃ~!!」
と勢いよく泣き出した。泣き出したことにほっとして、
「ああ、リュンも無事帰還です! ありがとう、ラルク! 迎えに来てくれて」
「とりあえず泉から出るぞ」
そう言うとラルクは私からリュンを受け取り片手にしっかり抱くと、その腕を私に掴ませ、空いている片方の手だけで岸に向かって泳ぎだした。
岸ではいつものように村人さんたちが大勢集まってきていた。そしていつも以上に心配そうなのは、きっとリュンを心配してのことだろう。先にリュンをお義母さまに渡し水から上げ、ようやく一安心することができた。私もラルクに引き上げられ、そのまま家に直行、リュンと一緒に湯船に入れられた。
「一時はどうなることかと思いましたけどねぇ。なんとリュンごと帰還できちゃいましたよ!」
アンの淹れてくれた温かいハーブティを飲みながら、ほっと身体の力を抜く。みんなお風呂で体を温めてしばしの団欒の時。義父母、アンとシエルも一緒にテーブルを囲む。
「泉に落ちてしまわれた時は本当にどうしようかと思いましたわ!」
アンがぎゅっと拳を握っている。
「そうです。兄様がすぐさま後を追って飛び込まれたのですがすでにお姿は見えなくなっておりましたし」
シエルも瞳を揺らしている、
「ミカさまが落ちたことに驚いて、うちの人ったらすぐさま石を水から上げちゃったんですよ!」
「?」
お義母さまがぷりぷりお怒り、その横では申し訳なさそうにお義父さまが小さくなってる。はて、石を上げたらだめなのか?
「ラルクが泉に飛び込んだ時には、すでに石は水に浸かってなかったってことです」
「ああ、なるほど。じゃあ、ラルクはトリップしなかったんじゃなくて条件が満たされていなかったってことですか?」
「おそらくは。あのまま水に浸かっていれば、もしかしたらラルクもミカ様たちを追って向こうの世界に行ってたかもしれなかったのにですよ? ミカ様とリュンを心細い目に遭わせずに済んだかもしれないのに、コノヒトは!」
「だって、驚いたんだから仕方ないだろ~」
「神官たるもの、常に冷静沈着でないといけません!」
お義母さまに叱られて、ますます小さくなるお義父さま。やっぱりお義母さまは肝っ玉母ちゃんだね!
「まあまあ、リュンも無事だったんですから。それに久しぶりに向こうに帰って、両親にこちらの話ができたんですよ」
「「「「「えええっ?!」」」」」
お義父さまを救うべく、私が口にした言葉に全員驚愕の表情。
「こちらの話って、ミカ、どういうことだ?」
ラルクが信じられないといった顔をしている。
「そのまんまですよ~。よくわからない世界に飛ばされて紆余曲折があって、ラルクと結婚してリュンが生まれたって」
「……」
「半信半疑、――いやかなり最後の方は信じてたよね? うん、まあ、結局はわかってくれましたよ!」
「本当か?」
「はい。ラルクやリュンのこと誤魔化すのが嫌だったんです。正直に話したらスッキリしました!」
えっへん、と胸を張ってみた。
「そうか。それは、よかったな」
「はい」
ラルクが優しくラピスの瞳を細めた。
「これで堂々と里帰りできます! あ、母がラルクの写真見たいって言ってたから、今度写真撮らせてくださいね!」
「はあ?!」
「あ、うちの親がこっちに来てみたいとも言ってましたけど、できますか?」
「……あ、ああ、できるが」
「私が行くにしてもリュンが心配ですし? それかいっそ潜水服みたいなのを用意してもらいましょうかね? うちの親に」
「おい、待てミカ」
「はい? なんでしょう?」
「向こうとの行き来に関してはこれからゆっくりと話し合おう」
「……はい」
優しく細められていたラルクの目が、いつの間にかじと目に変わっていた。
今日もありがとうございました(*^-^*)
美華母、強し(笑)




