う・ら・は・ら
よくわからないこっちの世界に召喚されてから2週間。
ナゼ、私はまた激務に戻ってる?
ナゼ、私は女神様とか呼ばれてるっ?!
肉体的にも精神的にも疲労のピークに達した私だけれど、『祝☆村人全員快癒!!』には肩の荷が下りた気がした。
今日は朝から仮設宿泊所の寝室(とはいえ、四方を衝立で囲っただけだけどねっ☆)でゴロゴロしていた。充電させてくれ。
外には巫女ツインズと兄ちゃんのラルクが控えてる。ってか、各々自分の仕事をしてるんだけど。
ここのところの激務の疲れを癒すべく惰眠をむさぼっていたのだけど、何か、肝心なことを忘れてる気がした。いや、確実に失念していた。
「ここからどうやって帰るんだよ・・・」
リアルワールドに帰れるのか?!私!!
自分の置かれた立場をようやく思い出した。
「もしもーし、アンさん?シエルさん?いますー?」
寝室(?)から出てきて、おずおずと声をかけてみる。
一応、聞いておこうと思ったので。
「「はい、いかがいたしました?女神様。」」
さすがは双子。よくハモる。
「えーとですねー。つかぬ事をお伺いしますが、私って元居た世界に帰れるのでしょうか?」
単刀直入に聞いてみる。
「ええとですね、それに関しては私たちではなんともできませんので、父に聞いてみませんと・・・」
と、アンが頬に手を当てて、ちょっと困ったようにして答えた時だった。
村の方から神殿に向かって、村人たちが大勢やってくるのが目に入った。
先頭には村長さん。
ちょっと警戒した感じで、ラルクが神殿入り口付近に立つ。
その機敏な動き、鋭い眼光、かっこいいっすよー!
村人たちは、手に手に果物や反物や飲み物やその他供物を携えて、神殿にやってきた。
「女神様のおかげで村が救われました!なんとお礼を申しあげたらよいのかわかりません!!」
村長さん以下、村人たちが「へへ~!!お代官様~」的にひれ伏す。
「女神様のお力あってこその快癒。村人一同、これからも心を込めてお仕えさせていただきます!」
はぁぁぁぁ?!『これからも』『お仕えする』だとぉ!?
感謝してんだったら、元の世界に返してくれっ!!
「いや、お気持ちはわかるのですけど、何度も言うようですが神様でも何でもないですし、力とかそんなんじゃなくてむしろ知識?なんです。誰でもできるんです!」
種も仕掛けもありまくりだったでしょ!
「その知識こそが女神様のお力!」
ぐっ、そうきたか。
「でもですねー、みなさんお元気になられたことですし、私も用済みと思われますので、そろそろ元の世界に帰りたいのですがー。」
ここで負けてたまるか!引き下がってはいけない!
「なんとおっしゃられる!!用済みなどと、あるはずもない!!女神さまにおかれましては、こちらにお留まりいただいて、我々を見守っていただきたく「ええええええっ!!!」」
村長さんの言葉は私の絶叫で遮断されてしまった。
「いやいやいやいや、あちらの世界から心を込めて見守ってますから、ぜひ帰してください!」
私も必死!帰してくれ!
「いやいやいやいや、こちらで直接お見守りくださいませ!」
「いやいやいやいや、向こうでも大丈夫ですって。」
「いやいやいやいや、それは無理です。」
どんな会話だ。
「つきましては女神さまにいつまでもこの神殿でご不便いただくのも何かと考えまして、感謝の気持ちと流行り病の鎮静を祝して神殿を新たに建設しようかと思っております。」
こともなげに村長は言ってのける。
「そ、そんなもの要りませんから!」
びっくりしちゃう。なんでいきなり私の神殿≪いえ≫建設なんて話になってるの?!
「それではどのようなものならよろしいのですか。」
「こぢんまりしたので結構です!リビングと、キッチンと、寝室と、バストイレはセパレートであれば充分です!!」
この要求だけでも、リアルワールドでも結構わがまま。新築・ゆったり1LDKなんて、向こうの世界の私には夢のようだわ。
「それくらい、お安い御用でございます!そもそもわが村は農産物だけでなく、鉱物資源にも恵まれておりまして、地方村ながらなかなか豊かな蓄えを持っております。ご安心してご滞在くださいませ。」
え、これなんのわが町アピールですか?
おっと、のせられるところだった!そうじゃない!
「いや、住居よりもそもそも帰れるかどうかってのを聞いてたんですけど?」
「帰る方法はございます。」
村長さんが、今までとは違って真面目な顔になって言った。
「異世界から神を召喚するのは満月の夜。その神を送り出すのも満月の夜と決まっております。ですので、女神様を送るとしても来月になってしまいます。」
「あと、2週間ですか。」
ため息交じりに呟いた。
「左様でございます。」
しっかり肯く村長さん。
うーん。後2週間。
「わかりました。とりあえず後2週間はお世話になります。でも神殿とか住居はいらないです。もったいないですから。」
「・・・かしこまりました。」
なんだか渋々な村長さん。
だって、家なんか作られた日にゃ、定住まっしぐらじゃないの!