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泉の女神  作者: 徒然花
番外編*2
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ラルクの回想*3

ラルクの回想、ラストです(^^)



回復してからも、『働かざる者食うべからずですよ!』と言ってせっせと働こうとする彼女。

村の病魔を退散させた功労者なのだから、ふんぞり返っていてもおかしくないはずなのに。しかし彼女はそうしない。

まだ帰るまでに時間もあるし、いつまでもこの神殿の仮設の住まいだと心も体も休まらないだろうと、新しく神殿いえを建てると言っても遠慮する。

結局は押し切る形で建ててしまったが。彼女の意向を汲んで、小さいながらも機能的な家。

寝食惜しんで村に貢献してくれた彼女にはもっと立派なものでもよかったのだが、彼女は良しとしなかっただろう。彼女が気に入ってくれたのだから、よしとすべきだな。


見ず知らずの土地に一人で暮らすのは心許ない事だろう。そう思い、すぐ隣にアンとシエルの家も建てた。そして、彼女の家自体にオレが護衛として付くことにした。

これで彼女が働きすぎるのをセーブできるだろう。

健気な彼女を再び過労で倒れさせるわけにはいかないから。




元々愛想の悪いオレと行動するのが苦手らしい。

すぐに一人で森へ行こうとする。オレがすぐさま見咎めるとビクッと怯える。

そんな彼女の行動に苛立ちと一抹の寂しさを感じる。


――もっと頼ってほしい。


だからと言って、オレから歩み寄れるほどの愛想は持ち合わせていない。


しかし、


「ふぎゃっ!」とか、「ぎゃー!」とか言いながらこけたり躓いたりする。『現代っ子は足腰弱いんです~』とか言ってたな。色気も何もあったもんじゃなかったりする叫び声とかが、意外とオレのツボだったりする。今まではオレに媚を売ってくるような、しなを作った女ばかりだったから、オレに対しても素な彼女は新鮮だった。

「でやっ!!」と掛け声をかけながら、薬草のぎっしり入った袋を持ち上げようとする。

自分で何とかしようとする彼女の健気な思いは伝わるが、モノには限度があるぞ?

初めて遭遇するドラゴンに腰を抜かしていたな。まあ、あの迫力、初めてならば仕方あるまい。彼女の世界には存在しないと言ってたか。


まあ、何をしても彼女がかわいいと思えた。

足腰の弱い現代っ子ならば(意味は解らんが)、抱き上げてやろう。

荷が重いのならオレが持ってやろう。


初めてそう思える女だった。


一歩、病や怪我の治療から外れると、途端に頼りなくなる彼女。治療している時はあんなに凛々しいのに、と思ってしまう。




そして、再び満月の日。


やはり彼女は帰りたいという。

確かに病は癒えた。でも、まだ彼女の存在価値は貴重だ。

村人たちと彼女の攻防が続く。

オレは黙って見ているしかできない。こちらに留まっていて欲しいのは山々だ。しかし、彼女の意見を尊重してやりたい気もする。己の中の矛盾に苛立つ。


結局彼女が折れて、こちらに戻って来てくれることになった。

どこかホッとするオレ。

困惑の表情を浮かべる彼女を見ると申し訳ない気もするが。


満ちた月が上り、帰還の儀式をするために泉に向かう。


先頭は、神官長であり村長である父さん。そのすぐ後ろに彼女が歩く。そこにピタリと寄り添うアンとシエル。オレはその後ろを守る。


泉の淵に立つ彼女の後姿は、どこか儚げで。


こちらにまた戻るとは言ってくれた。

しかし、この帰還が上手くいかなかったら? 帰還が上手くいっても、また次の召喚が成功しなかったら?


どこにも確実なものはない。


そう考えると胸が苦しくなった。


――行かないでくれ。


泉へと身を翻す彼女に、無意識に手を伸べていた――



******


「ふぎゃ~~~」


先程までよく寝ていたリュンが目を覚まし、泣き出した。すると、すぐさま目を覚ますミカ。


「あ~~~、リュン、もう起きちゃったか~。お腹減ったの? もう3時間経ったの? ちょ、早くね?」


ブツブツ言っている姿が微笑ましい。突然起こされたから、眠くて仕方ないのか目を擦っているので、


「目を擦るな。痣になるぞ」


と言って、ミカの華奢な手を掴む。オレが起きていたことに気付いていなかったらしいミカは、


「ふわっ!! ラルク!! ラルクも起こされちゃった? ごめんね」


驚きでビクッと跳ねながらもオレを気遣う。その間にも、


「ふぎゃーふぎゃー」


と本格的に泣き出したリュン。慌てて抱き起して乳を含ませるミカ。


お腹いっぱいになったのだろう、満足そうにげっぷをした後うつらうつらしているリュンを、これまたコクコクと舟を漕いでいるミカから抱き上げる。


「リュンは寝かせておくから、ミカは寝ていろ。どうせまた起こされるんだろうし」

「はぁい。そうします。ありがとう」


半分寝かかっているミカは、ふにゃりと笑ってまた枕に沈んだ。それを見て我知らず笑みが浮かぶ。

やはりかわいいと思う。


そして、腕の中で微睡むリュンの重さと温かさを感じ、また、幸せだと思うオレだった。


今日もありがとうございました(^^)


基本、ミカちゃんは楽天家です。そしてこちらの人々(とくに過保護ラルク)は大袈裟です(笑)

ミカ「ねみ~~~。ぐぅ」が、ラルクには「疲れちゃったわ。はぁ……(儚げな溜息)」に脳内変換されています(笑)

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