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泉の女神  作者: 徒然花
番外編*2
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ラルクの回想

本編の最初の頃のラルク視点です(*^-^*)


どうして(どこが?)ミカちゃんに惚れた?!

横で静かに寝息を立てるミカ。


掛けられている布団が規則正しく上下している。

その向こうにはベビーベッドに寝かされた、息子のリュン。こちらもすやすやとよく眠っている。


真夜中にふと目が覚めてかみしめる、今の幸せ。


そろそろミカがこちらに来て2年が経とうとする――



**********


『月の石』を使って召喚した『泉の女神』は、見た目普通の女だった。


いきなり泉の中央に現れて、頭だけを水面から出して、ずぶ濡れのままこちらを見つめていた。そしてこちらも固唾を飲んで彼女を見守っていた。

意を決したのか、こちらに泳いで来たので、母さんと八百屋のおかみさんが引っ張り上げた。この二人、村で1,2を争う力持ちだからな。

引っ張り上げられた女は、身に付けているモノ総てがずぶ濡れだったので、母さんや妹たちが世話をする。

こちらの衣装に身を包んだ彼女はやはり『普通』で、女神様とか神様とかそういう風には見えなかった。


けれど、色々な条件を指定して召喚を行ったのだ。それなりの力を持っているに違いないとオレは考えた。本人は『そんなすごい力持ってませんて!!』と否定していたが。


父さん筆頭に、村人たちから懇願されて、渋々ながら治癒に乗り出すという彼女。どうするのかお手並み拝見だなと思っていた。




夜が明けてすぐ、村の状況を視察しだした彼女。

それと同時に妹たちに指示をして『ますく』なるものを作るように指示を出していた。


「これは何に使うのですか?」


アンが彼女に尋ねると、


「これは感染予防です。ウィルスってゆーんですけどね、この病気の原因を体内に侵入させないためにつけるのです。結構有効なんですよ?」


そう言って、試作品を『これでいいです! 上出来ですよ!』と言いながら早速つけていた。


「できるだけたくさん作っておいてくださいね。健康な人にも配布したいので。よろしくお願いします」


そして病魔がはびこる村へと向かって行った。


明るい陽光の下で見る彼女はやはり『普通』。小柄で、黒い瞳。この国では珍しい色だ。髪は茶色だが、何か違和感を感じる。何かは判然としないが。


オレはしれっと彼女を観察しながら、護衛なので一行の後ろを付いて行った。




「これ以上伝染るとまずいので、村長さんたちは外で待機しておいてください」


そう言って、案内役の父さんと護衛についてきたオレたちを入り口の外で待機させる彼女。


――お前は、一人で入るのか? その病窟に……


言われた通り黙って見ていると、


「春ごろにもっかいワクチン打ち直したけど、抗体残ってるかなー? つーか、ここの型がホンコンなのかソ連なのか、AなのかBなのかわかんないけどね~。ま、何とかなるっしょ~」


と、一人でぶつぶつつぶやきながら家の中に入って行った。オレにはさっぱり理解できない内容だった。しかし、病魔に対して怯えも見せずに向かっていく姿には感心した。


しばらくして出てくると、「さ、次お願いします」と、案内を乞う。


そうして病に侵されている村人の家を何軒かを回ったところで、一旦神殿に戻ることになった。




戻ったら戻ったで、落ち着く暇なく必要な薬草を摘みに森へ行くことになった。

神殿に戻って来てから薬草摘みに森へ出かけるまで、その間彼女はマスクの出来を見たり、村の薬師であるお婆さまと話をしたりと忙しない。休んでいなかった。

この村の平均身長よりもだいぶ小柄で華奢に見える彼女のどこに、そんなバイタリティがあるのかと目を見張るものがあった。


森に入っても、『こうこうこういう薬草が欲しい』『この根っこをたくさん』という風にどんどん指示を出し、必要なものを摘んでいく。てきぱきとしたその指示は、騎士の上官を思わせた。

それを男手で分担しお婆さまの家に持ち帰ったのだが、帰ってすぐに、彼女はまた働き出した。

次はその薬草を煎じて薬を作るというのだ。


「早く処方する方が早く治りますからね! 時間がないんです!」


そう言ってお婆さまから借りてきた道具で薬草をすり潰しだした。




すり潰しながらも、


「この薬、できた分から配布していきます!」

「病人食も作らなきゃ」

「すぽーつどりんくが最優先ですね!」


などと、手も、口も休む暇なく働いていた。


初めこそ『普通』と思った彼女だったけれど、やはり召喚されてきた理由というのはあったのだな、と思った。




一日中走り回って、クタクタになったオレだったが家には帰らず神殿にいた。

というのも父さんから、彼女の仮設宿泊場所の神殿の警護を言い渡されたからだ。壁も何もないスカスカな場所を、四方を衝立で区切り、寝場所としているだけだ。不用心極まりない。治安のいい村ではあるが、外部から夜盗や山賊が来ないとも限らないので、オレと後何人かで警護することになったのだ。


夜中、物音で目を覚ました。

今は違うヤツが警備についているので、オレは仮眠をとっていたのだ。


ガッシガッシガッシガッシ……「くそう、地味だ……。そしてなんだか山姥やまんばが夜中に包丁砥いでるみたいだ……。自分で言っててへこむわぁ。まだ27歳独身だよ? 山姥て。つか、ひとりごと言ってる時点でかなりアウトかもしれない……」ブツブツ……


ガッシガッシという音の合間に何かつぶやきが聞こえてくる。

不審に思い、仮眠場所から顔を出してそっと窺うと、彼女のスペースから光が漏れていた。


――まだ作業しているのか?!


昼間もほとんど休憩取らず動き回っていたというのに、まだ作業!

いきなり召喚されて元の場所に帰してもらえないどころか、『病を治せ』と迫られて渋々承知したはずなのに、なぜそこまで頑張れるのだろう……?

しばらくじっと様子を伺っていたが、ろうそくが尽きるまでその作業は止まることはなかった。




次の日も朝早く起き出して村へ行き、昨日できた分のマスクと薬を配って歩いていた。夜中のことを考えると、睡眠時間は足りているのかと心配になったが、彼女は何も言わないし眠そうな素振りも見せない。凛とした表情。そして昨日と同じく診察して回り、また神殿へと帰ってくる。

昼ご飯を食べた後、片づけるや否や森へ行くらしい。

昨日摘んだ分の薬草はあっという間に底を尽いたらしく、さらに摘みに行くということだ。


「じゃ、ちょっと森まで行ってきまーす」


袋を肩に担ぎ、にっこりアンとシエルに手を振っている彼女。


――おい、一人で森に入る気か? 昼間とはいえ、森には何が潜んでいるか判らないんだぞ。


しれーっとオレの前を通り過ぎようとするのを阻止する。

無表情で、騎士仲間にも『顔、こええよ』とよく言われていたオレだ。彼女もオレを見る度にオドオドしているところをみると、苦手意識を持たれているのだろうことは察しが付く。なんだかむかつく。

それが不愛想に輪をかける。


オレがブスッとしているからか、気を使ってあれこれとしゃべりかけてくる彼女。

いつも通りなんだが、そっけない返事をしているとそのうち会話がなくなった。


「よっこいしょー」


という声と共に彼女が袋を担いで歩き出そうとしていた。かなりの量の薬草を摘んだはずだ。相当重いだろうに、彼女は一人で持って帰ろうとしている。小柄な彼女がでかい袋を担いでいると、袋が歩いているように見える。

いや、そんなことを言っている場合ではない。

何のためにオレがいるんだ? 一言「頼む」って言えば済むことだろうに。

まあ、さっきまでの態度や会話から信頼関係なんてできてるわけないよな、と思い当たり、


「ふぅ」


と、重いため息が一つ出た。そして、彼女の背中から袋を取り上げると「帰るぞ」と先を歩きだした。




お婆様のところに戻ると、また休憩もせずに薬草を煎じだす彼女。

さすがにオレも心配になってきた。もう少し休まないと彼女の身体が持たない。


――自発的に休まないのなら、こちらが強制終了するだけだ。


オレは作業する彼女に近寄り、手からすりこぎとすり鉢を取り上げた。


「少しは休め。倒れるぞ」


睨み交じりで言ったのだが、


「もうちょっと! もうちょっとやらないと間に合わないんです! 早くお薬届けないと!!」


必死でオレにしがみついてきた。その刹那、「あれ?」と思った。


ドクッ、と心臓が跳ねたのだ。


しがみつかれてドキリとするなんて、自分で驚いた。今まで、そんなことされようものなら嫌悪しかなかったのに。


自分の動揺と、苦手意識を持っているであろうオレにしがみついてまで作業続行を願う彼女の必死さに根負けしたオレは、


「じゃあ、お茶を飲んでからにしろ」


せめてと思い、お婆さまが淹れてくれたお茶を押し付け、ため息交じりで命令した。






今日もありがとうございました(^-^)


ラルクがミカちゃんに惚れるまで……。心の機微って難しいどす(--;)

もう少し続きます m( _ _ )m

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